絵本作家インタビュー

vol.48 絵本作家 石井聖岳さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『おこだでませんように』の絵や『森のイスくん』『ぷかぷか』などの作品で注目を集める絵本作家・石井聖岳さんです。絵本作家になられたことを「ラッキーだったんです」と語る、ちょっぴりシャイな石井さん。絵本づくりの方法や制作エピソード、絵本の魅力などについてお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・石井聖岳さん

石井 聖岳(いしい きよたか)

1976年、静岡県生まれ。名古屋造形芸術短期大学卒業。学童保育でアルバイトしながら、子どもの本専門店メリーゴーランドの絵本塾に通い、『つれたつれた』(文・内田麟太郎、解放出版社)で絵本作家デビュー。主な作品に、『おこだでませんように』(文・くすのきしげのり、小学館)、『ふってきました』(文・もとしたいづみ、講談社)、『ツェねずみ』(文・宮沢賢治、三起商行)、『ぷかぷか』『森のイスくん』(ゴブリン書房)などがある。 http://ishikoro.jp/

想像するのが楽しい! 絵本の中の“すき間”

リアルなイスくん

▲リアルなイスくんと、石井さんちの猫

映画だと、1シーンずつ丁寧にバックグラウンドや世界観を描いていくと思うんですけど、絵本だと、ページをめくったら場面が変わっちゃうってこともありますよね。そういう“すき間”があるっていうのが、絵本の魅力だと僕は思うんです。その間に何があったんだろうかとか、きっとこうなんだろうなとか、想像したりできるじゃないですか。それが楽しいんですよね。

絵本はそもそも32ページ程度しかないので、どうしてもすき間はできちゃうんです。自分の頭の中では、絵本に描いたこと以上のことを考えてるんですけど、それを全部絵本の中に表現することはできないんですね。だから、どうまとめるか苦労しながらつくっています。

といっても、すべてきっちり考えてつくっている、というわけでもなくて……たとえば『森のイスくん』の場合、「イスくんがどこから来たのか」ということについて、全部決めて描いてるわけではないんです。だいたい、6割くらいですかね。そのくらいは、自分の中でできあがっています。でも、絵本に描くのは、6割もいかないくらい。あとは想像してくださいねってことで。

説明すればするほど矛盾が出てくるような、つっこみどころ満載の場合も多いので、あまり描き込みすぎないようにしてるってのもありますね(笑)

自分の中の真面目な部分をとっぱらいたい

ツェねずみ

▲石井聖岳さんが描いた宮沢賢治の絵本『ツェねずみ』(三起商行(ミキハウス))

去年、宮沢賢治の『ツェねずみ』の絵を描いたんですけど、僕はこの絵本でやっと「別に空が青色じゃなくても、木が茶色じゃなくてもいいじゃん」と思えるようになって、実際に一冊の絵本として仕上げることができました。

それまでは、個展とかに出す一枚絵なら、空をピンクや緑で塗ったりできたんですけど、絵本の仕事ではそれができなかったんです。本当はそんな風にしたいのに、仕事となると、ちゃんと塗らなきゃだめなんじゃないかって、真面目な部分が出てしまって……そういう真面目な部分をとっぱらいたいって思いが自分の中にあったので、『ツェねずみ』でそれができて、よかったなと思っています。

僕が目指しているのは、うまい絵よりもおもしろい絵とか、好きになってもらえる絵です。以前、僕の作品を見た友達から「小学生の絵みたいだね」と言われたことがあるんですけど、僕はそれがすごくうれしかったんですね。単純に子どもの絵が好きだし、僕自身、小学2年生くらいの絵を描けたらいいなと思ってるんで。

でもそれも、つきつめると技術になっちゃうっていうのもあって……たとえば、わざと遠近法に逆らってみたりすると、ちょっと崩れたようになるでしょう。それって、あえて子どもの描いたような絵に見せる技術なんですよね。それって結局うまい絵なんじゃないの?って思ったりもしていて。難しいですよね。

これでいいんだ、と思えるように

絵本作家・石井聖岳さん

僕は自分の絵本が出版されても、本屋さんに見に行ったりはしないんです。まだまだへたくそだなぁって、落ち込んでしまうので……(苦笑) でも最近は絵に対する取り組み方が少し変わってきて、これでいいんだ、と思えるようになってきました。

以前は、絵を描くときにいつも「こんな風に描きたい」というイメージが頭の中にあって、それに向かってひたすらストイックに描いてたんですね。でも実際にできあがった絵は、頭の中のイメージと全然違っていたりして……うまく描けないなぁ、とがっかりしてたんです。

それが最近は、思い浮かぶイメージが以前よりもやもやっとしてきていて……自分でもはっきりはわからないような感じなんですけど、それをあえて突き詰めずに、方向だけは間違えないように描いていけばいいんだ、と思うようになったんです。

それまで作家っていうのは、自分の考えや作品を自らの領域の中ですべて支配している人、自分の作品についてきちんと説明できる人だと思っていました。でも今は、違うような気がしてます。自分の作品に対して、全部を説明できなくてもいいやって思うようになったんです。むしろ、自分でもわからない部分が残ってた方がおもしろいんじゃないかって、最近は思ってます。

そんな感じなので、これからこういう絵本をつくっていきたいっていう具体的なものも、あんまりないんです。どこにいくかは僕も知らないけれど、今描いてる中で、おもしろいものを拾っていければいい。絵本じゃなくたっていいのかもしれないですよね。でも真面目なんで、やっぱり絵本にしちゃうと思うんですけど(笑)

僕の絵本を読んでくれる方たちには、とても感謝してます。好きなように読んでくれるのが、一番ですね。僕の考えとかはどうでもいいので、僕の代わりに大事にしてもらえればなって思ってます。


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