絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、初めての描き下ろし絵本『100かいだてのいえ』が大ヒット! 昨秋には続編『ちか100かいだてのいえ』も出された、岩井俊雄さんです。“メディアアーティスト”という肩書きで活躍する岩井さんの素顔とは? 人気作が生まれた経緯、岩井さんならではの子育てなども伺ってきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
1962年、愛知県生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中、第17回現代日本美術展大賞を最年少で受賞。三鷹の森ジブリ美術館の展示『トトロぴょんぴょん』、ヤマハとの共同開発による楽器『TENORI-ON』など、さまざまなインタラクティブアート作品を手がける。著書に『いわいさんちへようこそ!』(紀伊国屋書店)、『光のえんぴつ、時間のねんど―図工とメディアをつなぐ特別授業』(美術出版社)などがある。
いわいさんちweb http://iwaisanchi.exblog.jp/
▲今度は地下へ! いろんな動物たちがクウちゃんを迎えます。『ちか100かいだてのいえ』(偕成社)
続編の『ちか100かいだてのいえ』のアイデアは、実は『100かいだてのいえ』の試作段階での、ある失敗がきっかけになりました。
前作で縦長に開く絵本のアイデアを思いついたとき、まず僕は、カレンダーのように上を綴じた形の、ページを下から上へめくっていくものをつくってみたんですね。ところが、実際にページをめくってみたら、あれ? 上に登るというより、下に降りていくみたい! それで、めくり方を逆にしてみたら、ちゃんと上がっていくように感じることに気付いたんです。
綴じ方、めくり方を変えるだけでここまで感覚が変わるっていうのは、すごくおもしろいなと思いました。それで、これは綴じ方を変えたもう1冊をつくって、上に登る絵本と下に降りる絵本の2冊セットにしてみたい、と考えたんです。
さらに続編では、主人公を女の子に変えることにしました。上に登るのと下に降りるのとは、"並列"というより"対称"です。それなら、2つの絵本をお互い鏡に映ったような対称的な関係にしてみよう! そう思いついたら、地下の新たな世界をつくっていくのがすごくおもしろくなってきて。
前作の主人公「トチくん」は、僕の子どもの頃の愛称「トシくん」から発想してるんですけど、実は「土地」でもあるんですよね。つまり、大地に住む男の子が空の上にのぼって行くイメージ。それに対して『ちか』の方の主人公「クウちゃん」は、「空気」の「クウ」。「土地」と逆に地面の上にあるものは?と考えてつけました。最後に待っているのも、前作と『ちか』とでは、年齢と性別を逆にしているんですよ。
あと、『ちか』の方では、動物たちがみんな自給自足的な生活を営んでる様子を描きました。前作では、まわりが空で空気しかないから、食べ物などはどこか遠くから運んでくるしかなかったんですけど、地下では、誰もが土の中の恵みをさまざまに活用しながら生きている。これは、わが家で廃物を利用して手作りおもちゃをつくったり、オリジナルの遊びを考えたりする生き方を絵本にも反映させたかったんです。絵本を楽しみながら、自分で工夫しながら暮らすことの面白さについても気づいてもらえたらうれしいですね。
▲偕成社のホームページで公開されている「みんなの100かいだてのいえ ぜんこくマップ」。全国の子どもたちから今も続々とはがきが届いているそうです
『100かいだてのいえ』をつくったとき、ただ絵本を読んでもらうという一方通行では、つまらないなと思っていたんです。できればこれを読んだ子どもたちにも何か表現してほしいって気持ちがあったんですが、どうしたらいいかわからなかったんですね。
ところが出版してみたら、友人の子どもたちが、自分なりの「100かいだて」を描きだしたんですよ。これはおもしろいなぁと。子どもたちはおもしろいものに出会うと、自分でもやりたいって気持ちをすぐに表現してくれるんですよね。
その後、丸善川崎ラゾーナ店の書店員さんから出版社の方に、子どもたちの描いた「100かいだてのいえ」を店頭に展示するイベントをやりたい、という連絡をいたただいたんです。さっそく専用のカードをつくって書店さんの売り場に置いてもらいました。絵を描いて店内のポストに投函すると、お店の壁につなげて貼られるという仕組みなんですが、これが本当にたくさん集まって。あっという間に100階を越えて、200階、300階とつながっていきました。
みんなで「100かいだてのいえ」をつくるっていうのが楽しいし、子どもたちにとってもこれはすごくいいなって思ったんですよ。それで出版社の方々と相談して、『ちか100かいだてのいえ』では、愛読者カードの代わりに"「みんなの100かいだてのいえ」をたてよう!"という応募はがきをはさむことにしました。
今、そのはがきで寄せられた子どもたちの絵を、「みんなの100かいだてのいえ」として偕成社のホームページで公開しているんです。全国から毎日すごい数のはがきが届いていて、どんどん高い家になってきてます。どれもが子どもたちのアイデアがつまった、個性的でおもしろい家の絵ばかり。自分の絵本をきっかけに、こんな風に全国の子どもたちをつなぐことができて、本当にうれしいです。
うちには娘が2人いて、今9歳と3歳。上の娘の小さかった頃は手づくりおもちゃや遊びを考えることに夢中になっていて、あまり絵本を読まなかったんですけど、今は自分でも絵本をつくるようになったので、下の娘のために絵本の読み聞かせをするようになりました。
わが家では、リビングの床に絵本をずらーっと並べて、「いらっしゃいませ! 絵本屋さんですよー、どの絵本でも読みますよー!」と僕が言って、娘が「こんにちは!」とやってくるところから始まります。一気に10冊くらい読むこともありますね。
実は、僕も父親になったばかりの頃は、娘とどう接したらいいのかよくわからなかったんです。母親と子どもとの結びつきって絶対的じゃないですか。いくら一緒に楽しく遊んでいても、何かあってぐずったりすると、すぐに「ママ! ママ! ママー!」……パパはがっくりですよ(笑) でもそれはしょうがないことですよね。子どもは母親の体から生まれてきたわけだし、男がおっぱいを出せない限り、その強い結びつきを越えるなんて無理だと思うんですよ。
でも父親は、むしろちょっとひいた立場で母と子の関係を見ることができる。そのメリットを生かしながらアプローチすべきだと、僕は思ってます。母と子は密接すぎちゃって、ちょっとこじれると大変なことになってしまうんですよね。そんなとき、父親として間に入って、楽しく解決できたらいいんじゃないかなと。僕の場合、その手段がオリジナルの遊びや手づくりおもちゃだったんです。
もちろん、これはどこの家庭でも当てはまるとは思っていません。僕は工作とか絵を描くのが好きだからやってますけど、それぞれ父親が好きなこと、得意なことで子どもとコミュニケーションとればいい。たとえば野球が好きだったら、それを生かして遊んでみればいいと思います。親が本当に好きなことは伝わります。ただ、星一徹みたいなのは困るので(笑)、女の子相手だったら、もっとソフトな遊びに変えてみるといった工夫は必要だと思いますね。長続きのコツは、まず自分が楽しいこと。なおかつ子どもがおもしろがって、それによってこっちもまたやる気が出るっていうスパイラルができてくると、子どもとの距離もぐっと縮まるんじゃないでしょうか。