絵本作家インタビュー

vol.40 絵本作家 鈴木まもるさん・竹下文子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『せんろはつづく』や『ピン・ポン・バス』でおなじみの、鈴木まもるさん・竹下文子さんご夫妻です。お二人の作品に乗り物の絵本が多いのは、乗り物マニアだった息子さんの存在があったからこそ。自然に囲まれたアトリエで、人気絵本の制作裏話やお二人での絵本づくりについてなど、お話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・鈴木まもるさん

鈴木 まもる(すずき まもる)

1952年、東京都生まれ。東京芸術大学工芸科中退。「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)で赤い鳥さし絵賞を、『ぼくの鳥の巣絵日記』(偕成社)で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。竹下文子さんとの絵本に、『ピン・ポン・バス』(偕成社)、『せんろはつづく』『つみきでとんとん』(金の星社)などがある。『鳥の巣いろいろ』(偕成社)など、鳥の巣研究家としての絵本・画集・エッセイなどの著書も多数。
鈴木まもる 鳥の巣研究所 https://mamorusuzuki.wixsite.com/nestlabo

絵本作家・竹下文子さん

竹下 文子(たけした ふみこ)

1957年、福岡県生まれ。東京学芸大学卒業。1996年に「黒ねこサンゴロウ」シリーズ(偕成社)で路傍の石幼少年文学賞を受賞。主な作品に『ひらけ! なんきんまめ』(絵・田中六大、小峰書店)、『ねえだっこして』(絵・田中清代、金の星社)など。『おすしのせかいりょこう』(金の星社)、『りんごのおじさん』(ハッピーオウル社)、『がんばれ!パトカー』など、鈴木まもるさんとの絵本も多数ある。
閑猫堂 http://blog.goo.ne.jp/chevette/

続編も登場!『せんろはつづく』制作エピソード

せんろはつづく せんろはつづくまだつづく

▲ミーテでも大人気!「いっしょにあそぼうよ!」シリーズの『せんろはつづく』とその続編となる新作『せんろはつづくまだつづく』(いずれも金の星社)

鈴木さん(以下、敬称略) 『せんろはつづく』をつくるきっかけになったのは、僕がつくろうとしていた伊豆急の絵本なんです。伊豆急って、鉄橋があったり、トンネルも多かったりして、乗っててすごくおもしろいので、それを絵本にしてみようと思って。それで取材を始めたんですけど、線路をつくる話にしようとしたら、工事現場ばっかりで全然電車が出てこなくて、どうにもうまくいかなくなってしまって(笑)

彼女にその絵本のことを話したら、リアルなのもいいけど、もっと小さい子にもわかるような、鉄道工事の基本、みたいな絵本もつくれそう、と言われて。それで、小さい子どもたちがどんどん線路をつないでいって、「トンネルだ!」「鉄橋だ!」って言えばトンネルや鉄橋ができちゃうようなお話を、彼女が書いたんです。

竹下さん(以下、敬称略) 息子が2歳の頃にプレゼントでいただいた、レールと汽車のおもちゃのことも思い出したんですよね。2歳ぐらいって、まだレールをきちんとはめられないし、ちゃんとレールの上を走らせることもできないんですけど、息子はすごく喜んでて。うまくできないものだから、しょっちゅうじれて、ぎゃーぎゃー言うんですけどね(笑) なんとなくそのときのことが頭にあって、子どもがおもちゃの線路で遊ぶ感覚が、そのまま絵本になるなと思ったんです。

鈴木 伊豆急の絵本(『ぼくの町に電車がきた』岩崎書店)は、『せんろがつづく』のあとにできあがりました。

竹下 『せんろはつづく』は9月に続編が出たんですけど、続編をつくるのは大変でしたね。世界はそのまま、キャラクターもそのまま使えるんですけど、前作を継承しつつ、前作より面白くなくてはいけないというプレッシャーがあるでしょう。しかも、続編として読む人もいれば、前作を知らずに新刊として読む人もいて、その両方に楽しんでもらえないといけないですからね。

それに、前作でやれることは全部やってしまっていたので、今度は何をしたらいいものかと、考え込んでしまって……最初は、室内でおもちゃの間に線路をつくっていくお話を考えたんですよね。

鈴木 『つみきでとんとん』のつみきや、『そらとぶクレヨン』のクレヨンが出てくる話も考えたんですけど、なかなか出版社からOKが出なくて……絵本のダミーを何度も描き直して、今の形になりました。産みの苦しみはあったけど、その分、最終的には一番いい形になったかなと思っています。

絵を描くことが一番の楽しみ

『ツバメのたび―5000キロのかなたから』

▲南の島から飛び立ったツバメの行き着く先は……?『ツバメのたび―5000キロのかなたから』(偕成社)

鈴木 僕は基本的に、絵を描いてるのが一番楽しいんですね。いつもニマニマしながら描いてるんです。仕事してるって感じじゃないですよね(笑)

『みんなあかちゃんだった』という絵本を、小峰書店から出してるんですけど、これのもとになったノートがあるんです。子どもが生まれてからいろんな発見があって、それを絵日記として描いていたんですね。ノートに何十冊も。かわいくてしょうがなくて、ただひたすら毎日描いてたんですよ。それが最終的に絵本という形になりました。

何かのために絵本を描くとか、売れる絵本や流行る絵本をつくろうとか、そういうんじゃなくて、自分が毎日、うれしい、楽しいという気持ちのままに、純粋に行動した結果が絵本になっていく……それが僕にとっては、一番いい形なんじゃないかなと思うんですよ。

僕は世界の鳥の巣を収集してるんですけど、鳥の巣というのもまた、鳥たちが純粋に行動した結果なんですよね。鳥たちは、一番大切な卵とひなの命を守るために、誰に教わるでもなく本能の力で巣をつくります。自分がなぜこんなに鳥の巣に夢中になるのか、はじめのうちは自分でもわからなかったんですけど、絵本づくりも鳥の巣も、小さな命の心が育つという点では、同じものなんだと気付いたんです。それは他の職業もきっと同じで、音楽家が音楽を演奏するのも、パン屋さんがパンをつくるのも、運転手さんが運転するのも、どれも原点をたどると、命のためってところにつながっていくんですね。

『ツバメのたび ―― 5000キロのかなたから』では、ツバメの渡りの様子を描きました。日本にいると、軒先にいるツバメの巣づくりの部分しか見ないけれど、それ以前にツバメたちは5000キロの距離を旅するんです。誰に教わるわけでもなく、ただ新たな命をつくるために。人間が今こうやって生きているのも、同じことだと思うんですよ。何かもっと大きなところから動かされて生きているような、そんな感じがするんです。

絵本も毎日の暮らしも、親子で楽しく!

絵本作家・鈴木まもるさん竹下文子さん

竹下 私は子どもが生まれてから3年くらい、ほとんど創作の仕事をしなかったんですよ。すべてのお母さんがそうした方がいい、とかではなくて、私の場合、純粋に興味があったんですね。子どもがどんな風に成長していくのか、見ていたかったんです。実際、その3年で見てきたことは、そのあとの仕事にすごくつながっているように思います。

息子はもう大学生になって、都会で一人暮らしをしてます。いま子育て中のお母さんたちは、きっとすごく大変だと思うんですけど、あっという間ですよ。あっという間にどっか行っちゃいますから(笑)

鈴木 僕は子育て絵日記を何十冊も描いてたくらいですから、それはもうすごく子どもを溺愛してたんですね。だからもういいんです、どっか行っても。小さいうちにうんとかわいがっていれば、子どもは自然に自立していくんだと思います。動物もそうですけど、抱っこすべきときにしっかり抱っこすれば、ちょっとずつ離れていくわけです。抱っこしなきゃいけないときに抱っこせずに、放すべきときに抱っこしちゃったりするのは、よくないですよね。

竹下 絵本については、よそで評判になっている絵本に子どもがあまり反応しなかったとき、うちの子はなんで喜ばないの?と心配する必要はないと思うんですよ。お母さんと子どもの関係抜きに"いい絵本"というのはないですから。読み方にしても、その家ならではのスタイルみたいなのが、あっていいんじゃないかなと。

鈴木 お父さんなんかは特に、忙しくてなかなか時間がとれないということもあると思うんですけど、時間の長い短いは関係なくて、親子で同じことをしたり、同じものを見たりして、一緒に楽しんで暮らすってことが大事ですよね。絵本を一緒に楽しむのもいいし、遊びに出かけるのもいい。許される範囲で、自分が好きだなってこと、自分がやっててうれしくなることを、子どもと一緒にやるのが一番いいと思います。


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