絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『じゅげむ』をはじめとした落語絵本シリーズでおなじみの川端誠さんです。絵本に込めたメッセージを伝えるべく、全国各地に赴いて自作絵本の「開き読み」を続けている川端さん。絵本作家になられた経緯や、代表作の制作裏話など、たっぷりと語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
1952年、新潟県生まれ。82年、デビュー作『鳥の島』(BL出版)で第5回絵本にっぽん賞を受賞。「落語絵本」シリーズ(クレヨンハウス)、「お化け」シリーズ「野菜忍列伝」シリーズ「風来坊」シリーズ(BL出版)、『りんごです』『バナナです』『いちごです』(文化出版局)など、作品・シリーズごとに表現方法をがらり変えて、多様な世界を展開している。制作裏話などのトークをはさんだ自作絵本の「開き読み」や、絵本作家ならではの絵本解説も好評。
僕の家は雑貨の卸の商売をしていて、いろんな人が出入りしてたんですね。子どもの頃は、その会話を聞くのが大好きだったんです。祖父や父がお客さんとやりとりしているのをじーっと聞いてると、相手がどんな人なのか、わかってくるんですよ。もっとまけろと言うお客さんをどうかわすかとかも、聞いてるとおもしろくてね。幼稚園にはほとんど行かずに、そういうのを聞いて過ごしてました。
あと、ひいばあさんと百人一首をよくやりましたね。めくるたびに、詠み人から全部読んでくれるんです。何度も繰り返しているうちに覚えていって、5歳の頃には絵を見れば空で言えるようになってました。祖母からは、平家物語のシリーズの本を買ってもらって。源義経や武蔵坊弁慶の話をその本で読んでもらって知っていたから、落語の「青菜」を聴いたとき、オチの意味がわかって、ものすごくおかしかったんですよ。小学校1年生くらいの頃かな。落語はその頃からずっと好きです。
落語って、オチを知ってるのに、何度聴いてもおかしいわけでしょう。オチっていうのは、話を終わらせるための方便なわけで、オチを知りたくて聴いてるわけじゃないんですよね。それは絵本も同じで、結末を楽しみに読むわけではなくて、そこまでたどりつく紆余曲折がおもしろい。わかってればわかってるほど、おもしろいんです。
落語の持ってる雰囲気を崩さずに、いかに絵本向けに文章化していくか。落語絵本は、ここが一番難しい。絵の方も、ページ数に制約がありますから、その中でどう場面を切っていくか。割愛しなきゃいけないところもあるし、逆に入れ込まなきゃいけないところもある。もとの話のニュアンスが失われないように、全体的な流れをつくっていかないといけないんです。絵本の構造も落語のおもしろさもきちんと理解しないと、つくれないですよ。
▲今年シリーズ創刊15周年を迎えた、川端さんの落語絵本シリーズ。『じゅげむ』、『たがや』、『まんじゅうこわい』など、現在全13冊が出版されています(クレヨンハウス)
絵本向けに大胆に脚色することもあります。『じゅげむ』は、落語では、おめでたいと思ってつけた長い名前のせいで川に落ちて死んでしまう、という話ですが、僕の絵本では最後のシーンを、子どものケンカを仲裁しようと大人たちが騒いでいるうちに、子どもたちはさっさと仲直りをしていた、という内容にしました。『たがや』なんかも、花火に向かって「たがやー!」と言うオチは同じだけど、あとはまるっきり変えたんです。落語では、殿様の首が飛ぶ話なんですが、絵本では命が生まれる話をつくってみようと思って。橋の上での出産シーンは、助産婦さんに聞いた話をもとに描きました。
開くタイミングも大切です。たとえば『まんじゅうこわい』の場合、落語だと、怒ったみんなに「お前が本当に怖いものはなんだ!」と聞かれて、「この辺で濃いお茶が怖い」というオチにつながるわけだけど、絵本にするには、そのままだとタイミングが悪いんですね。そこで、「あのやろう! まんじゅうが怖いなんて言って、だましやがったな!……で、隣の部屋に乗り込むと」と文章を入れて、開くタイミングをつくるんです。
絵本のダミーをつくると、自分で何度も声を出して読むんですよ。講演会のあとに飲み会なんかがあると、そういうときにひょっと出して、みんなの前でやることもあります。そうすると、ここは省いた方がいいとか、ここはもうちょっとじっくり見せないとだめだとか、わかってくるんですよ。
子育て中は、楽しい暮らしをするのが一番ですね。叱る必要はないんです。子どもって、カメラを向ければピースのサインをするし、お賽銭を入れたら手をパンパンって打つでしょう。それは全部、大人の真似。親がちゃんとしてれば、子どもは真似するんですよ。だから、楽しく暮らしながら、子どもに見本を見せる、これが大事です。
ときには叱らないといけないこともあると思う。でも、大人がその辺に置いておいたものを子どもがひっくり返してしまったときに、「何ひっくり返しているの!」なんて怒るのはよくないですね。それは、そういう環境をつくる親が悪い。子どもがしくじるような環境をつくらないようにしないといけません。
あと、子どもが言うことを聞かないとき、「そんなこと言うと、二度と連れてこないよ!」とか「置いてくよ!」とか怒ってる親がいますよね。でも、実際はまた連れてくるし、絶対置いていったりしないでしょう。そういう嘘は、子どもにとっては脅迫なんですよ。自分がいなきゃどうにもならないってことを知ってて、どうにもならない状況を親がつくろうとしてはいけません。
僕の長男も次男も、自分の育ったような家庭をつくりたいと言いますよ。こういうのが当たり前であってほしいですよね。家庭を中心にした暮らしが一番。毎日の暮らしを楽しみながら、子どもに見本を見せてあげてください。