絵本作家インタビュー

vol.37 絵本作家 荒井良二さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、明るく自由奔放な表現で数々の絵本を生み出している荒井良二さんです。2005年、児童文学界のノーベル賞と称される「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を日本人として初めて受賞した荒井さん。海外でも注目される独創的な絵本は、どのようにして生まれるのでしょうか。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・荒井良二さん

荒井 良二(あらい・りょうじ)

1956年、山形県生まれ。日本大学芸術学部卒業。97年『うそつきのつき』(文・内田麟太郎、文溪堂)で小学館児童出版文化賞、99年『なぞなぞのたび』(文・石津ちひろ、フレーベル館)でボローニャ国際児童図書展特別賞、2005年アストリッド・リンドグレーン記念文学賞など、受賞多数。主な作品に『はっぴぃさん』『たいようオルガン』(偕成社)、『えほんのこども』(講談社)、近作に『うちゅうたまご』(イーストプレス)などがある。http://ryoji-arai.com/

ライブペインティングが絵本に!『うちゅうたまご』

『うちゅうたまご』

『うちゅうたまご』(イースト・プレス)。巻末にはライブペインティングの様子を撮影した写真がずらり。

僕の場合、普通は絵ではなく言葉から考えるんですけど、新作『うちゅうたまご』はいつもとは違うつくり方をしました。実際にライブペインティングをやって、それをもとにつくった絵本なんです。

2メートル×4メートルのキャンバスに、どんどん描いていきました。カメラマンさんに待機してもらって、3時間かけて、描いては撮り、描いては撮り……そうやって撮影した膨大な写真の中から、どれを使うかチョイスして。ストーリーなんて何も決まってなかったんですけど、チョイスしたものを並べて、そこからこういう話をイメージしてたのかなってことを、文章にしていきました。

ライブペインティングは、よくやるんですよ。普段はもっと気楽に、思いつくまま描いて、ばーって消しちゃうんです。それでまた新たに描いて、また消して……みんなは最後に何かできるんだろうと思って見てるんだけど、描いても描いても消しちゃうわけ。そのときのリアクションが楽しくてね。

下書きしたものを描きあげていく、その工程を見せるようなライブペインティングもあるかもしれないけれど、それだとあんまりおもしろくない。音楽のライブと同じような感じだよね。お客さんとその場で共有する時間がライブなわけだから、設計図通りに絵を仕上げるよりも、キャンバスを真ん中に、そこにいる人たちと対話しているような……僕もお客さんたちも無言だけど、見えない対話が行われるようなライブペインティングが、一番いいよね。

そんなライブペインティングを絵本にできないかっていうことで、この『うちゅうたまご』ができたんです。絵本にする段階で、色校正の紙に直接ペイントして手を加えたページもあるんですけどね。もちろん、まったく手を加えてない、そのままの絵もあります。絵を描いている僕自身が登場してるページもあるんですよ。

ルールを把握した上で、そこから解放される

『Pooka+―荒井良二 日常じゃあにぃ』

▲初挑戦のバスペインティングのリポートやインタビュー、描きおろし絵本などを収録した、荒井さんファンには見逃せない一冊『Pooka+―荒井良二 日常じゃあにぃ』(Pooka編集部、学習研究社)

絵本は一人でつくるわけじゃくて、いろんな人がかかわっての共同作業だから、そこにはいろいろと出版のルールがあります。昔は、どうしてもそれに引っ張られてたんですよ。でも、ルールを把握した上で、そこから解放された状態のものを提供しないと、読者からも見透かされるんじゃないかなって気持ちがあって。作家が解放されていれば、それに呼応して何か感じてくれる人も多くなるんじゃないかなと。

ただ、どんな世界の人でも、ものをつくるのに何も考えない人はいないよね。線を引いたり色を塗ったりって作業自体、僕は好きだから、作業してるときは楽しいんだけど、これで読者や出版社の人に伝わるかなとか、一瞬よぎるときもある。でも最終的には、俺がおもしろいと思うんだから、絶対伝わるんだ!って思って描きますけどね。

子ども向けのワークショップをよくやるんだけど、子どもを見ていると、こいつらすごいなって思うんです。特に小学校3年生くらいまでの子どもね。純粋に描くことだけに集中できるっていうのはすごい。プロになると、どうしても描く上で作為があって、作為を消すために作為をまた重ねていく。純粋に描くとか塗るっていうのが希薄になっちゃうんだよね。

プロは技術があるから、子どもの絵を真似て描くこともできる。でも、そんなのなんの意味もないよ。日々絵を描いていると、技術も蓄積されていくわけだけど、僕はそれがいやで。だから、筆を使わずに手で絵の具を塗るとか、いろんなことを試してます。

大人も子どもと一緒に、絵本の“絵”を楽しもう

絵本作家・荒井良二さん

▲荒井さんの作品展を開催していた絵本専門店・トムズボックスにて。荒井さんの絵本もずらり!

大人はいつも、子どもに絵本を読んで聞かせる立場だから、どうしても文字ばかり追ってしまいがちだよね。そこにすべてが入ってると思ってる。でもね、せっかく絵本なんだから、すみずみまで絵を見て楽しんでほしいなと思うんだ。

子どもは大人の声を耳で聞きながら、目は常に画面を追ってるでしょう。小さな窓から誰かが顔を出していれば、「これ誰?」とか。ストーリーとはまったく関係ないところに、楽しみを見出す才能を持ってるんだよね。そういう細かいところ、見つけてくれるとすごくうれしいんです。大人も、そんな風に絵本を楽しんでいる子どもに「なんで聞いてくれないの!」なんてしかったりせずに、一緒に絵を楽しんでもらいたいなと。絵から読みとれる情報もたくさんあるからね。

絵本を選ぶときは、子どものために選ぶっていうのも必要だけど、それだけじゃなくて、自分にとって気になる絵本も選ぶといいと思う。子どもにはうけないかもしれないけど、なんか好きだなっていう絵本。あと、「こういうのは子どもにはわからない」って、すぐに決めつけない方がいいよね。僕なんかは子どもの頃、百科事典の挿絵で喜んでたぐらいだから。図鑑だって、ストーリーも何もないけど楽しめるよね。だから、子ども向けかどうかとかあまり考えずに、いろいろ見せるといいかもしれない。その方がおもしろい大人になるんじゃないかな。

絵本とのつきあいはこれからもずっと長くなるだろうと思うけど、絵本ばかりつくる人じゃなくて、ほかの仕事もしながら、絵本「も」つくる人でいたいと思ってるんだ。常に別の視点から絵本を見られるようでないと、どうしても職業的になってしまうから。来年の4月には、絵本のテイストは一切なしの展覧会を東京でやるんだけど、これもすごく楽しみです。

あと、大人向けのワークショップもやりたいね。子どもに喜んでもらいたいっていうのと同時に、大人も解放してあげたいっていうような気持ちがあって。大人にとっても、なんだか気になるな、ざわざわするなっていうような絵本をつくっていきたいですね。


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