絵本作家インタビュー

vol.30 絵本作家 長野ヒデ子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「せとうちたいこさん」シリーズや『おかあさんがおかあさんになった日』などでおなじみの絵本作家・長野ヒデ子さんです。かつては文庫活動をされていたという、大の絵本好きの長野さん。絵本にまつわる思い出や人気絵本の制作エピソード、CDデビューについてもお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・長野 ヒデ子さん

長野 ヒデ子(ながの・ひでこ)

1941年、愛媛県生まれ。わが子のためにつくった絵本『とうさんかあさん』(葦書房/石風社)で日本の絵本賞文部大臣奨励賞。『おかあさんがおかあさんになった日』(童心社)で産経児童出版文化賞、『せとうちたいこさん デパートいきタイ』(童心社)で日本絵本賞を受賞。紙芝居に『ねこのたいそう』(童心社)、近作絵本に「長野ヒデ子わんわんえほん」シリーズ(ポプラ社)、「からだちゃんえほん」シリーズ(小学館)、『外郎売』(ほるぷ出版)などがある。 http://www.taikosan.com/

子どもが本来持っている力を引き出したい!

『せとうちたいこさん デパートいきタイ』

▲何でもやってみたいタイのおくさん“たいこさん”が主役の人気シリーズ第一弾『せとうちたいこさん デパートいきタイ』(童心社)

取材でお産の現場に立ち会って、赤ちゃんは自分の力で生まれてくるということに感動しました。あんな小さな体で、何もかもわかってて、人としてのすべてを生まれながらに持って生まれてくるのだ!と。これはすごいことですよ。でも育っていく中で、お母さんや先生の言うことも聞かなきゃいけない、宿題もあれば友だちとの折り合いもつけなきゃいけない。いろんなことが頭を押さえつけて、子どもが持っている本来の力が発揮できないんじゃないか。この押さえつけているものを吹っ飛ばして、子どもが持っている本来の力を発揮できるような、楽しい絵本をつくりたい――それでつくったのが『せとうちたいこさん』です。

私は瀬戸内海の生まれで、タイにエールを送りたいという気持ちもあって。「せとうちたいこさん」という名前をつけたら、好奇心旺盛なタイのキャラクターが生まれたの。名前とか、言葉は不思議な力を持つのですね。これが「玄界灘たいこさん」とか「若狭たいこさん」だったら、きっと違ったお話になっていたわよ、ふふふ(笑)

この絵本は、登場人物の人間模様を楽しんでほしいですね。450人ぐらい描いていてね、長新太さんやいとうひろしさん、中川ひろたかさん、飯野和好さんや、絵本作家も登場しているんですよ。ここでこんな会話してるなとか、いろいろ見つけてくれたらいいなぁと思って描きました。今もシリーズは続いてますが、実は1冊ずつ、たいこさんの子どもも増えているんです。ほかにもいろんな謎やおもしろさがあるので、見つけてくれるとうれしいなあ。

うれしはずかし、CDデビュー!

孫がそばにいるので、一緒に遊んでいると刺激を受けますね。「長野ヒデ子わんわんえほん」のシリーズは、孫と遊んでいる中で生まれた絵本です。本を読んだあと折り紙で遊べるなんて楽しいわよ。

わんわん
にゃんにゃん
ぷっぷーぶっぶー

▲「長野ヒデ子わんわんえほん」シリーズ『わんわん』『にゃんにゃん』『ぷっぷーぶっぶー』(いずれもポプラ社)

「ヒデ子さんのうたあそびえほん」シリーズは、私の母がよく歌ってくれた“わらべうた”や“でたらめうた”が耳に残っていて、ここから生まれました。このシリーズは、すてきな絵描きさんたちが絵を描いてくださったうれしい絵本です。誰かと組んで絵本をつくると、自分では思いもよらなかった絵があがってきて、こんな切り口もあるのか、すごい!とうれしくなりますね。

『めめめめはなはなへそへそうた』

▲1COIN CD『めめめめはなはなへそへそうた』(500円+税)。SONGBOOKCafeのオンラインショップで購入できます。

 

それから、実はビックリ! 私、最近CDデビューしたんです!! 私の詩に中川ひろたかさんが曲で『めめめめはなはなへそへそうた』というCDをつくってくださったんです。中川さんから「一緒に歌う?」って言われ、知らぬ間にあれよあれよと中川さんとデュエットで。でも、今の録音技術は、デュエットをソロにできるんですよ。それで、そのうちの2曲は中川さんが私のソロにしちゃった! ひえっー!(笑)

でも中川さんは「いいよ、いいよ、すごくいいよ!」と。まぁみなさんも、一緒に歌ってください。のんびりおばあさんの声もめずらしいかなあ!(笑) おばあちゃんといえば、年をとって文字を獲得する『ひらがなにっき』もぜひ。文字が読めることの深いことが伝わる絵本ですよ。

絵本と歌ってとても近いところにある。見る、聴く、声を出して歌うっていうのは、別々のもののようで、みんなつながっているのです。音楽のリズムと同じように、絵本の絵や言葉にもリズムがあるでしょう。リズムに乗って絵本を見ていると、わからないけど体も心地よくなるんですよね。これが大事です。お母さんやお父さんの声というのも、耳から響く心地よいリズムだからこそ子どもはうれしい。このリズムが生活の中にあれば、読み聞かせだけが絵本の時間ってわけじゃない。生活の中でも、絵本を感じる時間はたくさんあるんですよ。

読み聞かせをするときの自分の声を聞いてみよう

絵本作家・長野 ヒデ子さん

絵本を読むときって、自分の声をあんまり聴いてないと思うんですよ。でも私は、もっと自分の声をしっかり聴いてもらいたいなって思っているんです。意識して聴いてみると、自分自身も気持ちのいい声っていうのがあるでしょう。そういう声は、読んでもらう人にとっても気持ちがいいはず。そしてそれは、芝居がかった声色ではないはず。子どもを叱るときも、意識して自分の声に耳を傾けてみると、こんな叱り方して……って恥ずかしく思うんじゃないかな。できるだけ自分で自分の声を聴くようにして、心地いい声が自然と出せるといいですね。

子育てについては、私は失敗ばかりだったのでもう一回やり直したいくらいなんですけど、アドバイスできるとしたら、人の目はあまり気にせず、自分の道を行けばいいんですよ、と伝えたいですね。絵本選びなんかも、失敗してもいいから、人に惑わされずに自分で選んでみるといいと思います。そのうち、失敗しながらも、自分の子どもにぴったりの絵本の選び方が身についてくるんじゃないかと。

あと、我が家では身近にあるものを何でもおもちゃにしていたので、おもちゃはほとんど買いませんでした。本は買いましたけどね。でも、子どもたちは絵本よりもまず、自然の中で遊ぶのが好き。自然は五感を磨いてくれます。うちの孫は、泥んこ保育園で一日泥んこと散歩だけ。自然がなにより一番なんです。外でいっぱい元気に遊んでそれから絵本を読むと、それが生きてくると思いますよ。


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