絵本作家インタビュー

vol.30 絵本作家 長野ヒデ子さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、「せとうちたいこさん」シリーズや『おかあさんがおかあさんになった日』などでおなじみの絵本作家・長野ヒデ子さんです。かつては文庫活動をされていたという、大の絵本好きの長野さん。絵本にまつわる思い出や人気絵本の制作エピソード、CDデビューについてもお話しいただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・長野 ヒデ子さん

長野 ヒデ子(ながの・ひでこ)

1941年、愛媛県生まれ。わが子のためにつくった絵本『とうさんかあさん』(葦書房/石風社)で日本の絵本賞文部大臣奨励賞。『おかあさんがおかあさんになった日』(童心社)で産経児童出版文化賞、『せとうちたいこさん デパートいきタイ』(童心社)で日本絵本賞を受賞。紙芝居に『ねこのたいそう』(童心社)、近作絵本に「長野ヒデ子わんわんえほん」シリーズ(ポプラ社)、「からだちゃんえほん」シリーズ(小学館)、『外郎売』(ほるぷ出版)などがある。 http://www.taikosan.com/

絵本は人と人とをつなげてくれるもの

絵本作家・長野 ヒデ子さん

私は四国の瀬戸内の、美しい海のそばで生まれました。本屋さんも図書館もない小さな村です。初めて買ってもらった本として覚えているのは、3歳の頃、祖父が買ってくれた『フクちゃん』の漫画。漫画といってもコマ割りでなくて、絵本のように描かれていたのですよ。それが楽しくて繰り返し見ていましたね。その70年近く前の『フクちゃん』を最近見つけたのですが、まさに絵本のようですばらしかったです。

私が大人になってからは、子どもの絵本がたくさん出版されるようになって、ほしくて買っていました。当時、大人が子どもの本を自分のために買うというのは、めずらしがられたんですよ。結婚後は転勤で8回も引っ越したのですが、行く先々でその地域の人と親しくなれたのは、絵本のおかげです。引っ越しするとまず、「子どもがいるかな?」「お菓子くれるかな?」と近所の子どもたちが偵察に来るんです。そこで「絵本を読む?」と子どもと友達になれる。それをきっかけにお母さんたちとも親しくなる。本は、本の中身から何かを得られるだけじゃなくて、人と人とを繋ぐのですね。

転勤先の鹿児島では、児童文学者の椋鳩十さんに出会いました。長崎で長男、熊本で長女が生まれた転勤族。その次の転勤先の福岡で始めたのが文庫活動です。今から35年も前のことですが、石井桃子さんの「かつら文庫」や岩崎京子さんの「子どもの本の家」など、作家の方々の文庫に刺激され、当時は全国で家庭文庫活動がとても盛んな時代でした。私も文庫のおばさんになりたく、憧れていたのです。そんなことで文庫にかかわり、我が家は子どもたちのたまり場となりました。子どもたちがうちに遊びに来て一緒に絵を描いたり、本を読んだりして、とても楽しかった。私は子どもたちに遊んでもらっていたのです。

絵本はシンプルだけど、大事なものがつまってる

『とうさんかあさん』

▲長野さんのデビュー作『とうさんかあさん』(石風社)

絵本って、難しいことを子どもにもわかる絵と言葉で、わかりやすく伝えてくれる。シンプルだけれど大事なものがつまっていて、深く、しかも楽しい。この、子どもにもわかる言葉で創られているということが、素晴らしいのです。子どもから大人まで楽しめる、それが絵本の魅力ですよね。

私のデビュー作『とうさんかあさん』は賞もいただいたロングセラーですが、もとは我が子のための手づくりの絵本でした。子どものためにお菓子を焼いたり、服をつくってやったりするのと同じ感覚でつくったの。それがおもしろいと文庫や図書館で噂になり、福岡の編集者が訪ねてきて「出版したい」と言われたのです。

「これは我が家だけのお話なんですが……」とびっくり。でも「これは絵本の大事なものがみんなつまってる、だからぜひ出版したい」と。本づくりでは、どんな編集者に出会うかが大事ですが、私は骨のある編集者からたくさんのことを教えられました。私が創作活動をするようになったのも、たくさんの素晴らしい出会いがあったからです。

すべては「生まれる」ことから始まる

『おかあさんがおかあさんになった日』

▲病院での1日をあたたかく感動的に描く絵本『おかあさんがおかあさんになった日』(童心社)

『とうさんかあさん』のあとは、なかなかオリジナルの絵本が生まれませんでした。それで他の作家の方と組んでの仕事をしたのですが、そこでたくさんのことを学びました。それまで私は、創作することがわかってなかった。そんなとき児童文学者の今西祐行さんが主宰されている「農業小学校」の絵本をつくることになったのです。

山の畑で今西さんは、こうおっしゃいました。「人参や大根だって、太陽や水の力や、目に見えないものの力をもらって育っていく。創作も同じで、頭で考えるだけでなく、目に見えないものの力をもらって、それを発酵させて自分の中から湧き出して生みだすもの」と。目からうろこでした。

でも、自分の中から湧き出るものって何だろう? 才能もないし……。その時、思ったのです。私はお母さんだから、「お母さん」を角度を変えて、しっかり見つめてみたい。そこから自分自身を考えたい、それが創作なのではないかと。当時、赤ちゃんを生む絵本はたくさんあったけれど、お母さんの立場で語られた絵本はありませんでした。子どもが生まれるとき、お母さんもお母さんとして生まれるのです。「おかあさんがおかあさんになった日」の言葉が浮かびました。そのことを絵本にしてみたいと。

それが絵本『おかあさんがおかあさんになった日』です。お母さん自身が「あなたがうまれた日のこと」と子どもに、そして自分に、そして大事な誰かに語りかける絵本なのです。

このことが『いのちは見えるよ』や『おとうさんがおとうさんになった日』の絵本につながりました。たくさんのお産の現場を取材し、自宅出産にも感動しました。子どもってたくましいな、生まれるって、産声ってなんて素晴らしいことなんだろう!と。この絵本もうれしいことに、幼い子から大人まで、みなさんが何度も繰り返し読んでくれています。産婦人科の先生や専門家がおっしゃるには「子どもは生まれる話が好き。それは、いかに望まれて生まれてきたかをどこかで確認したい……それが生きる力につながるのです」とのことでした。

すべては「生まれる」ことから始まります。赤ちゃんが生まれることで、お母さんも生まれる、お父さんも生まれる。おばあちゃんやおじいちゃんも生まれる。たくさんの喜びが生まれる。命が生まれる喜びを知ることが、自分自身を大事に生きることにつながる。だからすごく感動するんでしょうね。


……長野ヒデ子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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