絵本作家インタビュー

vol.3 絵本作家 いしかわこうじさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、ユニークな発想と暖かい色彩のイラストで幅広く活躍するイラストレーター&絵本作家・いしかわこうじさんにご登場いただきます。ミーテをどんな風に活用されているのか、49万部突破の人気シリーズ「かくれんぼ」かたぬき絵本はどのようにして生まれたのか、新作絵本『ふねくんのたび』についてなど、いろいろとお話を伺いました。
今回は【後編】をお届け。 (←【前編】はこちら

いしかわこうじ氏

いしかわこうじ

1963年、千葉県生まれ。絵本作家、イラストレーター。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。1987年、第9回講談社童画グランプリで大賞。2004年、イタリア・ボローニャ国際絵本原画展で入選。紙で作った小さな犬『ペーパーわんこ』と世界中を旅して撮影するプロジェクトを展開中。作品に『どうぶついろいろかくれんぼ』『のりものいろいろかくれんぼ』(ポプラ社)、『ちゅうたのはてなえほん1 このしっぽだあれ?』(講談社)、『世界を旅するペーパーわんこ』(河出書房新社)など。フランス・台湾・韓国など海外でも翻訳版が出版されている。 http://www.kojiishikawa.com/

こだわりは自分らしい色彩と風景の美しさ

『のりものいろいろかくれんぼ』の表紙のふねを主役とした絵本『ふねくんのたび』が、5月中旬に新しく出るんです。ちっちゃな船の“ふねくん”が、お手紙を女の子に届けに行くお話です。

僕は、お風呂とか公園の池とか水のあるところを見ると、船を浮かべてみたいなっていまだに思うんですよ。実際に浮かべちゃったりもするんですけどね(笑) そういう遊びの感覚と、旅行の楽しさみたいなのを盛り込んだ絵本です。

こだわったのは、自分らしい色彩と風景の美しさですね。形は「かくれんぼ」と同じふねなんですが、これはもっとあったかいタッチの方がいいなと思って、切り替えました。風景は、僕の好きな南フランスやイタリアの港町のイメージ。あとちょっと、熱海や伊東も入ってます。

▲2008年5月半ばに出版される新作絵本『ふねくんのたび』

この本の仕上げのときに熱海と伊東に行って、港の真ん前のホテルに泊まって、朝から太陽が出るのをずーっと見てたり、ホテルの屋上の露天風呂で素っ裸で港を見てたりしたんです。写真や想像だけじゃなくて、実際に船が行き来したりカモメが飛んだりしている様子を見たのは、作品づくりにもすごくいい影響がありましたね。

『ふねくんのたび』は僕にとっては初めてのストーリー絵本で、構想から2~3年かかりました。ほんとは去年の夏に出したかったんですけど、そこからまたいろいろ練っていって。時間をかけた分、余分なものはどんどん削って純化して、シンプルだけどいいものに仕上がったと思います。

絵本は一度つくったら簡単に直しがきかないから、ほんとに一作一作、悔いのない作品を出したいっていう思いがあって。かたぬき絵本シリーズも、アイデアから含めれば絵本になるまでに7年くらいかかってるんです。時間をかけたいわけじゃないんだけれど、結果的に時間がかかっちゃいますね。でもその分、長く世に残る作品がつくれたらなって思ってます。

読み聞かせのときは、アドリブも楽しんで

ときどき書店などで読み聞かせ会をやったりするんですが、子どもたちの反応がダイレクトにわかっておもしろいですよね。年齢が上の子も来ているんで、「かくれんぼ」かたぬき絵本シリーズの場合は、ページをめくる前から次何が出てくるか「知ってる!」と答えを言っちゃう子もいたりして(笑) 「電車だ!」と言うから、「じゃわかった、電車なのは認めるけど、何線だと思う?」なんて聞いたりしてね。

先日、5月に出る新作『ふねくんのたび』を初めて書店で読み聞かせしたんですけど、子どもたちの反応がよくて、読んでる自分もノッてきちゃったんです。「ぶたじま」(ぶたの形の島)みたいなところで反応がよかったりしたので、絵本の文章にはなってないけど、「ここはトンネルになってるんだよ」「こんなとこ人が住めるのかなぁ?」とか、子どもたちの反応を見て、いろいろ話しかけたりしながら読み進めました。

絵本って、書いてある通りに読む必要はなくて、こんな風に読み手がアドリブを入れたりすると楽しいですよね。絵本の中の文章はとてもシンプルで、絵で描いてあることは文章には入れないようにしてありますから、読む人の工夫次第でさらにおもしろくなったりすると思います。絵を見ているだけでもいろんな発見がありますからね。

雷がピカッとなってる絵のところで「ピカッ!」って言って雰囲気を出してみるのもいいですし、読むスピードも、子どもの反応を見ながら変えてもいいですし。飽きかけていたらさっさと読み進める、興味を持ってくれているならもうちょっといろいろ話しかける、とか。いろんな風に読み聞かせを楽しんでほしいですね。

大切なのは、子どもと接する時間を持つこと

今小学校3年生の息子と、11カ月の娘がいるんですが、上の子が小さかった頃は仕事が忙しくて、子育てもわりと妻任せだったんですね。でも、0~2歳くらいっていうのは、すごく手間がかかって大変だけど、ほんとにあっという間だというのが上の子の成長を見てわかってるので、今はこの時期を楽しまないと親としても損失だなと思って。読み聞かせだけでなく、お風呂に入ったり、泣いているときは抱っこしたりとか、なんでもいいんですけど、そういう子どもとの交流を密にしてあげたいし、させてもらいたいと考えてますね。

子育てで一番大切なのは、一緒に接する時間を持って、愛情を注いであげること。そのためのひとつの方法として、絵本の読み聞かせはとてもいいですよね。絵本はストーリー自体のおもしろさもあるけれど、「読んでもらう」っていう感覚そのものが、子どもにとって心地いいんだろうと思うんです。お父さんに抱っこされてお母さんに読んでもらえたりしたら、2人にかまってもらえるわけですから、子どもにとっては贅沢ですよね。ある一定の時間、そういう状態で何冊も読んでもらえる、そういう幸せな気分っていうのは、子どもの性格形成にもいい影響を与えるんじゃないかと思います。

いまだに僕の妻は息子に本を読んであげたりしてますよ。ついでに僕も一緒に読んでもらってます。宮沢賢治とかね、息子と一緒に並んで聞いたりするんです。自分で読むのもいいけど、読んでもらうのもいいなぁって。音で聞くっていうのも楽しいですよね。

それに、自分の子どもに絵本を選んであげたり読んであげたりすることで、親も、大人になってからもう1回絵本を体験できるじゃないですか。子どもがいるおかげでこんな体験ができるって、なんだかすごく豊かというか、おもしろいなと思うんです。子育ても読み聞かせも、そんな風に楽しみながらできたらいいですよね。


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