絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』をはじめとする「のりものしかけ絵本」シリーズの絵本が人気の作家・間瀬なおかたさんにご登場いただきます。昔から電車での旅が好きだったという間瀬さん。絵本作家になられたきっかけや、間瀬さんの絵本をよりいっそう楽しむための見どころポイントなどを伺いました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
愛知県生まれ。法政大学文学部卒業。日本児童出版美術家連盟会員。主な作品に『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』『あめのひのえんそく』『ドライブにいこう』『バスでおでかけ』などの「のりものしかけ絵本」シリーズ(いずれもひさかたチャイルド)、『あらしとたたかったねこのチビ』(ポプラ社)、『のねずみくんのすてきなマフラー』(フレーベル館)、『アヒルのぼうけん かわのたび』(岩崎書店)などがある。
▲ページを開けば広がる大パノラマ!見ごたえたっぷりの一冊『パノラマえほん でんしゃのたび』( ひさかたチャイルド)
『でんしゃでいこう でんしゃでかえろう』では、電車の音にもちょっとこだわりました。編集者からは「電車はガタンゴトンでしょう」と言われたんですけど、ちょっと違うんじゃないかと思ってね。自分が電車に乗っているときに聞こえるような音がいいなと思ったので、電車に乗るたびにどんな音がするかと耳を傾けたりして……でも、どう考えてもガタンゴトンじゃないなと思って、さんざん悩んだんです。
黒澤明監督の映画で『どですかでん』っていうのがあるんですけど、あるときその「どですかでん」というのが電車の音だというのを知って、なるほど確かに、なんかちょっと重そうで、あんまりスピードもなさそうな、田舎の電車の音みたいだなと思って。それがヒントとなって、「デデドド デデドド」という音に行き着きました。まわりが雪ばかりだったら音が吸収されるだろうとか、鉄橋の上を走っているときはまた違うだろうとか、場面ごとに音も変わるはずだと思って、それでも結構悩みましたね。なので、そんなところにも注目してもらえたらうれしいです。
後ろからでも読めるというのは、実は最初から考えてたことではないんですよ。もともと何かしかけの絵本をと考えていて、トンネルを抜けると景色がどんどん変わっていったらおもしろいな、と思いついたんです。それで、出版社に持っていくために絵本の形でダミーをつくって読んでみたら、これって後ろからでも読めるんじゃないのって気づいて。ですから最初の文章は、後ろから読んでもいいようには書いてなかったんですけど、後ろからでもいけるとわかってから書き直しました。おまけでくっついてきたみたいなアイデアなんですよ。
▲最後にあっと驚く結末が待っているしかけ絵本『あめのひのえんそく』(ひさかたチャイルド)
昔は僕も自分の子どもに、寝る前に本を読んであげていました。ここ3年くらいは毎年、あちこちで読み聞かせ会やサイン会をしています。人前に出るのがあまり得意ではないので結構緊張してしまうんですけど、最近はやっと慣れてきました。でも、今も読み聞かせのときは無我夢中で、こんな風に読み聞かせをしてみようとか、考える余裕はまったくないんですけどね(笑)
読み聞かせ会でうれしいのは、読者であるお母さんや子どもたちから、直接声をかけてもらえること。たくさん読み込んでボロボロになった絵本を持ってきてくれる子がいるんですよ。そういうのはすごくうれしいですね。
絵本を読ませれば将来勉強ができるようになるとか、そんな風に教育と結びつけて考えるのではなくて、ただ純粋に絵本を楽しんでもらえたらいいなと思っています。空想をふくらませながらね。電車の絵本を読んだときは、実際に旅行したような気分になってもらえたらいいなと。
もちろん、実際の旅行にも出かけられるといいですよね。僕自身、子どもにはいろんな体験をさせてあげたいなと思っていたので、結構あちこち、家族旅行に出かけました。やっぱり知らないことにぶつかると楽しいですからね。
「のりものしかけ絵本」につづくシリーズとして次に考えているのは、空想のローカル線を舞台にした絵本です。また電車なんですけれども、今度はしかけはなくて、もうちょっと長いお話にしたいなと。ちょっと古めの、今にも廃線になりそうなローカル線を描こうと思っています。
やっぱり電車っていいですよね。僕は15年くらい前に、タクラマカン砂漠を3ヶ月ほど旅行したことがあるんですよ。北京から砂漠地帯まで3日間くらい、列車で寝泊りしながら移動したんですけど、砂漠なので外の景色はほとんど変わらないんですね。なのに電車に乗っていると、飽きないんです。
日本の場合は自然が豊かだから、なおいっそう飽きることがありません。トンネルをひとつ抜けるだけで、景色ががらりと変わりますからね。日本には里山とか里海とか、残したい風景がたくさんあるでしょう。そういう景色をこれからも描き込んでいきたいですね。