絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、おおらかなおじいちゃんが人気の『いいから いいから』や、命の誕生を楽しく描いた『おへそのあな』など、ユーモラスであったかい絵本でおなじみの絵本作家・長谷川義史さんです。3人の男の子のお父さんでもある長谷川さんに、絵本や読み聞かせ、子育てについて、じっくり語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1961年、大阪生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、2000年、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』で絵本作家デビュー。2003年『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2008年『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。そのほかの作品に「いいからいいから」シリーズ(絵本館)、『おへそのあな』(BL出版)、『うえへまいりまぁす』(PHP研究所)、『てんごくのおとうちゃん』(講談社)などがある。
▲制作に3年ほどかかったという、長谷川さんの記念すべきデビュー作『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版)
僕はもともとグラフィックデザインやイラストの仕事をしてたんですけど、絵本は昔からやりたいと思ってたんです。求められることを形にするのがグラフィックデザイナーやイラストレーターのプロの仕事なんですけど、なんかもっと、自分のもんをつくりたかったんですよね。自分の思ってることとか、自分の描きたい絵で一冊の本ができるというのは、憧れでしたから。
でも、実際やってみたら、見てるのと自分で描いてみるのとでは大違いで。1作目の『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』は、完成するまでかなり苦労しました。アイデア自体はすぐ出てきたんですけど、絵が描けなかったんです。どういう場面を描いたらいいのか、ページをめくっていく流れとかが、まったくわからんかったから。描いてはやり直して、描いてはやり直してを繰り返して、結局できあがるまでに3年くらいかかりました。
そのあと『おたまさんのおかいさん』を描いて、その次が中川ひろたかさんとの『スモウマン』。僕が初めてはじけた作品です。中川さんってああいう人やから、普通にしててもあかんやろ、むちゃくちゃしたろって思って。子どもがわかれへんようなギャグもいっぱい描いてるんですよ。
読み聞かせするお父ちゃんかって、おもしろいとこがあった方がええでしょう。お父ちゃんが喜んでたら子どもも喜ぶし。「なんでこれおもろいの?」って、会話も生まれると思うし。だから、あんまり子どもに向けて描こうって意識はしていなくて、自分が読む側の人間やったら、こんなん描いてあったらおもしろいやろなっていうようなことを描いてます。
▲「いいから いいから」が口癖のおおらかなおじいちゃんが人気の『いいから いいから』(絵本館)
僕は基本的に「まぁええやん」って言葉が好きで。いろんなことにこだわるから、しんどくなっていくわけでしょう。「まぁええやん」って思っておけば、それ以上しんどくなれへんなと思って。ものすごくいい加減なんですけどね(笑) そんな風に思ってたから、自然とあんな、肩の力抜けてるおじいさんのお話ができたんです。
最初は8ページくらいの短いお話で、月刊誌に掲載したんですけど、そのあともそのお話をライブ紙芝居――僕が講演会とかに行ったときに、描きながらするお話なんですけど――それでときどきやってたんです。雷がやってきて、おへそとられて……って、子どもの前で描きながら。
そしたらあるとき、幼稚園の男の子が、関西でやる講演会に3回連続で来て、「また今日もあのおへそとられる話、してくれ」って言うんですよ。しまいには、「絵本にしてほしい」って言われて。絵本にしてくれたら家で見れるからって。僕はあの話つくった人間やのに、「こんなあほみたいな話……」ってほんまに思ってたんですよ。でも、絵本にしてくれたら本買うって言いよるから、出版社に絵本にしますかって話してみたら、しようってことになって。
その子、そのあとも『いいから いいから』が絵本になってから1回だけ、講演会に来てました。リクエストがかなって、その子もうれしかったやろうけど、こっちもうれしかったですね。あの子があんなん言ってくれへんかったら、本にしてなかったかもわかれへんし、あのあともシリーズになって続いてるし。子どもに教えられることって多いなぁと思いました。
僕が絵本をつくってて一番思ってるのは、「いい絵を描きたい」ってこと。「いい絵」っていうのは、「うまい絵」とも違うんです。もちろんうまい絵も描かなあかんねんけど……いい絵って、心が入ってる絵なんでしょうね。歌もそうでしょう。楽譜通りうまく歌うよりも、音程が多少はずれてても、人を感動させる歌ってあるじゃないですか。そういう、いいなぁって思える絵を描きたいんです。
でもこれって、テクニックでできることとちゃうんですよね。それまでの生き方とか、経験とかが、全部出てしまうから、手だけでできることではないんです。自然の中で育ってきた人はおのずとそういう作品になっていくと思うし、動物と親しむ機会の多かった人は動物の絵本を描いたりするし……僕の場合は、中途半端な街なかで、まわりにたくさん人がおるような環境で育ったから、やっぱりそういう作品になっていきますね。
▲幼い頃に亡くしたお父ちゃんとの思い出を描いた自伝的作品『てんごくのおとうちゃん』(講談社)
僕は去年、『てんごくのおとうちゃん』って絵本を出しました。絵本を描くようになってからずっと、いつかはと思っていた、自分のお父ちゃんのことを描いた作品です。キャッチボールしたのにすぐ泣いて帰ってきてしまったり、買ってもらったウクレレを壊してしまったり、飛行機のショーを見に行ったり……全部ほんまのことです。覚えてる思い出をすべてひっくり返して出して描きました。
お父ちゃんが死んでしまってかわいそうやって大人から言われんねんけど、死んでしまったお父ちゃんの方がかわいそうやって、絵本の中にも出てくるんですけど、ほんまにそう思うんです。かわいそうなのは、死んでしまった人。どんな状況に置かれても、生きてる方がありがたいこっちゃねん。子どもたちにも、そんな風に思ってほしいなぁって。
僕の絵本はよく、命のつながりとかをテーマに描いているように言われるんですけど、自分ではテーマを設定してつくってるわけじゃないんです。思いついたことを作品にしてるだけで。でも、あとから考えてみたら、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』も、生まれてきたことがありがたいなって絵本やし、命っていうことにつながってくるんですね。生きててラッキーやっていうのは、僕の中にベースとしてあるので、それが自然と絵本にもにじみ出てくるんやと思います。
……長谷川義史さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)