絵本作家インタビュー

vol.28 絵本作家 長谷川義史さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、おおらかなおじいちゃんが人気の『いいから いいから』や、命の誕生を楽しく描いた『おへそのあな』など、ユーモラスであったかい絵本でおなじみの絵本作家・長谷川義史さんです。3人の男の子のお父さんでもある長谷川さんに、絵本や読み聞かせ、子育てについて、じっくり語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・長谷川 義史さん

長谷川 義史(はせがわ・よしふみ)

1961年、大阪生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、2000年、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』で絵本作家デビュー。2003年『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2008年『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。そのほかの作品に「いいからいいから」シリーズ(絵本館)、『おへそのあな』(BL出版)、『うえへまいりまぁす』(PHP研究所)、『てんごくのおとうちゃん』(講談社)などがある。

立ち会い出産の体験から生まれた『おへそのあな』

『おへそのあな』

▲おなかの中の赤ちゃんがおへその穴から見つめる、お兄ちゃん、お姉ちゃん、お父さん……命の誕生を楽しく描く『おへそのあな』(BL出版)

僕は子どもが3人いるんですけど、3回とも出産に立ち会ったんです。なるべく自然な分娩にしようってことで、助産院にお世話になったり、自宅で産婆さんに取り上げてもらったりしたんですけどね。

赤ちゃんて、予定日通りには出てきてくれへんでしょう。産気づいてからも、なかなかこっちが思うようには出てきてくれへん。きっと、赤ちゃんが「出てこよう」って思ったときに自然と出てくるようになってんねんなぁと、実際見てて思ったんです。

立ち会い出産のときは、赤ちゃんの頭が出てくるとこも全部見ました。髪の毛と、しわの寄った頭のてっぺんが見えてくるんですけど、もうそのときからかわいらしい。あぁ生まれてくるんや、赤ちゃんほんまにいてるんやって、初めて実感したんです。

あとね、子どもが3歳くらいの頃に、マタニティ関係の取材があって、おなかの中でどうだったかを子どもにインタビューしたんですよ。普段はなかなか話してくれないんやけど、インタビューされてるんやからちゃんと応えなあかんって感覚があったんでしょうね。おなかの中でこんなことがあった、あんなことがあったって、おもしろいこといっぱい言ってくれたんですよ。

それで、赤ちゃんもおなかの中にいるうちから、いろんなこと見たり聞いたりしてるんやろうなって思って。そんなことがきっかけになって、『おへそのあな』を描いたんです。最後に「あしたうまれていくからね」って言ってるんですけども、赤ちゃんを産むっていうよりは、赤ちゃんが生まれてくる、という感じにしました。自分の体験がほんまに生かされてる作品になったと思います。

絵本づくりの原動力は、子どもたちの喜ぶ姿

絵本作家・長谷川義史さん

講演会とかに行って、子どもたちの前で読み聞かせをするのは、おもしろいですね。ラーメン屋のおじさんみたいな感じというか……カウンターごしにお客さんの反応を見てたら、「おいしそうに食べてるなぁ」「スープ全部飲んでくれたなぁ」とかわかるし、「ごちそうさま」の一言で喜んでくれたなってわかるやん。読み聞かせも、子どもたちの反応がその場ですぐわかるから、僕にとってはすごく大切なことやなと思ってます。

最初は「このおっちゃんどうやねんやろ」という感じで、ちょっと距離があるんですけど、途中からものすごくノってきて、子どもたちがわーっと近くまで寄ってきて、もう1回もう1回って、もうぐちゃぐちゃになるときがあるんですよ。そういう風になると、こっちもテンション上がって、気持ちいいですね。また次、この子らの喜ぶ絵本つくりたいなぁって思うしね。

声に出して読むわけやから、家で読むときも、多少演じて読むといいと思います。ちょっと乱暴な言い方やけど、絵本の言葉は、書いてある通りに読まないでいいと思ってるんですよ。一言付け加えたり、語尾をその地方の方言に変えてみたり、自由に変えていいと思う。絵本って、一緒におる人と人の間をもってくれるもんやと思うから、その場の空気を大切にしながら、聞いてくれる人が喜ぶように読むのが一番。

うちでは子どもがちっちゃいとき、まじめな絵本を大阪弁に変えて読んだりしてました。外国の絵本とかも、大阪弁に変えて読むんですけど、そのギャップがごっついおもしろいねん。おもしろかったら、また読んでってことになるでしょう。そこから本好きになっていったりするから、楽しめるように読むっていうのは、とても大事なことだと思います。

1~3歳の頃の子は、親にとって一番のご褒美みたいなもの

子どもって、特に1歳から3歳くらいのとき、ものすごい勢いで変化していきよるんですよね。大変な時期でもあるんやけど、あんな楽しい大変なこと、あれへんと思うんですよ。健康でさえあれば、あのときの大変なことって、たわいもないことやし。

僕は、3人も子育てしてきたからかもわからんけど、パンツの中にうんこしよるってことだけでも、なんて愛おしいことだって思うんです。人間て、途中から恥ずかしいって感覚を覚えて、そんなことせえへんようになるでしょう。それが、トイレトレーニングをしてる頃だけ、動物と人間の中間くらいの感じで、恥ずかしいって感覚がわからなくて、トイレに行かんと、部屋の隅っこでパンツの中にうんこしてしまうんです。

これはほんまに、一瞬の時期の宝もんみたいな、愛おしいもんやなぁって思って。もうほっといても、数日か数ヶ月かしたら、トイレでうんこしてしまうことになるんですから。あの時期っていうのは、親にとっては一番のご褒美みたいなもんやから、できるかぎり接しとかんともったいないって思うんです。お父ちゃんは忙しいやろうけど、子どもはすぐ大きなってしまうし、あとで気ぃついても遅いですから、一番いい時期を逃さず味わってほしいですね。


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