絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『こんたのおつかい』の作者・田中友佳子さんです。小さい頃から大の本好きという田中さんは、いったいどのようにして絵本作家になったのでしょうか。わんぱくな子ども時代から、デビュー作ができるまでの試行錯誤、ライフワークとして続けている砂漠マラソンについてなど、たっぷり語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
1973年、東京都生まれ。幼少期を自然に恵まれた神奈川県津久井郡(現・相模原市)で過ごす。武蔵野美術大学卒業後、エディトリアルデザイナーなどを経て、2004年『こんたのおつかい』(徳間書店)で絵本作家デビュー。趣味は読書とランニング。特に自然の中を走ることが大好き。そのほかの絵本に『かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり』『にげだしたてじなのたね』(いずれも徳間書店)。
▲日照り続きでおなかを空かせたかっぱのお話『かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり』(徳間書店)
『こんたのおつかい』で、主人公のこんたはお揚げを買いに出かけるんですが、そのお揚げを描くために、実は豆腐屋さんで修業させてもらったんです。おいしいお揚げはどんなものなのかあまり知らなかったので、どうせならちゃんとお豆腐屋さんで教えてもらおうと思って。
『こんたのおつかい』に出てくるお揚げは、よく見るとちょっと筋が入ってるんですよ。それがおいしいお揚げの特徴だよって教えてもらったんです。おかげで編集の方にもおいしそうなお揚げだねと言ってもらえました。
『かっぱのかっぺいとおおきなきゅうり』のときは、千葉の農家できゅうりの収穫を体験したんですよ。絵本に描いた通り、つるからきゅうりを切り落とした瞬間、つるの切り口からきれいな水があふれ出してきました。こういうのは、実際に体験しないとなかなかわかりませんよね。
すべてを絵本の中に描くわけではないので、現れない部分もあるとは思うんですが、それでも本物を知って描くのと、知らないで描くのとでは、絵が全然違ってくると思うんです。どれだけ簡略化しても、そのバックにあるものは、何かしら感じてもらえるんじゃないかなと思ってます。
▲砂漠マラソンに挑む田中友佳子さん サハラ・レース(エジプト) 撮影:藤崎将士
学生時代、貧乏旅行で出かけた中国でゴビ砂漠を目にして以来、砂漠の魅力にとりつかれました。そのときは車で通っただけだったんですが、いつか自分の足で砂漠を歩いてみたいと強く思うようになって。そうしたらある日、新聞の記事でサハラマラソンのことを知ったんです。これで砂漠に行ける!とうれしくなって、迷わずエントリーしてしまいました。陸上競技の経験なんて全然ないのに、我ながら、チャレンジャーですよね(笑)
砂漠マラソンは、1週間で250キロ前後を、食料や着替えや寝袋などの入った12~3キロの荷物を背負って走るレースです。初めてサハラマラソンに出たときは、2日目に足の裏全体がマメではれ上がって、足が靴に入らなくなってしまって、大変でした。トイレに出かけるのもままならないくらい(笑) 砂嵐の中で、迷子になったこともありました。それでもなんとか夢中で前に進んで……ゴールにたどり着いたときは、本当にうれしかったですね。それ以降も、もう何度も砂漠マラソンに参加しています。
砂漠の魅力を一言で表現するのはすごく難しいんですけど、あえて言うなら、むきだしの地球を生で感じられるってことですね。砂漠を一歩一歩進んでいると、自分は地球の一部、宇宙の一部なんだなと実感して、なんだか細胞とかが全部解放されて、自分も砂の一粒になったような感じになるんです。それがすごく気持ちよくて。今年も参加するつもりです。
絵本をつくるときも同じなんですけど、途中で苦しいことも、もちろんあるんです。絵本だったらアイデアがなかなか出なかったり、うまく表現できなかったりするし、砂漠マラソンだったら痛くて走れなくなったりするし……でも私、嫌になることはないんです。苦しみは克服するためにあるんだし、必要なことだと思ってるので。根がポジティブだからというのもありますけど、砂漠マラソンにしても何にしても、できるかできないか、ということよりも、やりたいかやりたくないかで考えるようにしてるんですよ。私を信じて、自由奔放に育ててくれた親のおかげなのかもしれませんね。
絵本づくりで一番こだわっているのは、笑える絵本にするということ。どうしたら笑うかというのは考えても難しくて、おじさんの会話に耳を傾けて親父ギャグをメモしたりしたこともあったんですけど(笑)、やっぱり自分を信じて、自分のおもしろいというものを描くしかないんですよね。自分が子どもみたいになって、楽しいなと思えるものをつくるのが大事かなと思ってます。
今は「こんた」の2作目をつくっているところですが、その後も、手にとっただけでも笑みがこぼれてしまうような、単純に楽しいお話を描きたいなと思ってます。「びっくりした!」「わぁ、おもしろい!」なんて風に、感情が素直に現れるような絵本にしたいですね。私の絵本で、親子一緒にどきどきわくわくしながら楽しい時間を過ごしてもらえたらうれしいです。
私は普段から、できるだけ誘いは断らずに、いろんなことに参加するようにしているんですよ。どんなことが絵本のアイデアにつながるかわからないので、常に感性の扉を開いていたいなと思って。砂漠マラソンもそうですけど、私自身、大人になってもこんなにいろんなことを楽しんでいるので、子どもたちにも、遊びでも絵本でも、一瞬一瞬を楽しんでほしいですね。