絵本作家インタビュー

vol.21 絵本作家 せなけいこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ねないこだれだ』などのロングセラー絵本を生み出してきた絵本作家・せなけいこさんです。せなさんのあたたかみのある貼り絵の世界は、どのようにして生まれたのでしょうか。絵を描くのが大好きだった少女時代や、デビュー作『にんじん』誕生エピソード、絵本づくりにおけるこだわりなどを語っていただきました。
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・せな けいこさん

せな けいこ

東京生まれ。お茶の水女子大付属高卒。武井武雄氏に師事。1970年、「いやだいやだの絵本」(全4冊・福音館書店)でサンケイ児童出版文化賞受賞。主な作品に「あーん あんの絵本」(全4冊・福音館書店)、「おおきくなりたい」(全4冊・偕成社)、「めがねうさぎ」シリーズ(ポプラ社)、「おばけえほん」シリーズ(童心社)、『となりのたぬき』(すずき出版)などがある。絵本のほかに紙芝居、装丁、挿絵など、幅広い分野で活躍中。児童出版美術家連盟会員。

日常の出来事が絵本づくりのアイデアに

▲娘さん親子のエピソードが絵本に『おおかみのでんわ』(金の星社)

『ルルちゃん』は、娘をモデルに描きました。でも少し大きくなってから「ルルちゃんってあなたのことでしょう」とからかわれたようで、娘からは大変迷惑したって言われましたよ(笑)

そのルルちゃんも今はもう母親になりました。おととしぐらいまでは娘一家がわが家に同居していて、子どもがいつも走り回っていたんですよ。かわいいけれど騒々しかったですね。あるとき、いたずらをした子どもを娘が叱っていたんです。「そんな悪い子をしてたら、おおかみさん呼びますよ!」って。そのあと受話器を持って「もしもし、おおかみさん、とっても悪い子がいるのですぐ連れてってください」なんて言うんです。そしたら子どもが「いやーん、ごめんなさい」。

そばで見ていた私がうれしそうな顔をしていたら、娘に「この子を絵本に使ったら承知しないよ!」って怒られてしまって(笑) だったら名前を使わなきゃいいでしょってことで、『おおかみのでんわ』という絵本をつくりました。主人公は「ぼく」とだけ書いたんですよ。

▲娘さんである黒田かおるさん作、せなけいこさん絵の『ゆきだるまのあたま』(金の星社)

絵本のアイデアは、そういう日常生活の中からふっと湧いてくることもありますし、旅行中に道を歩いているときにふと思いつくこともあります。元コピーライターなので、思いついたら絵コンテみたいな感じでコマわりで描くことが多いですね。

紙がもったいないから、新聞の広告で裏が白いものをとっておいて、枕元に積んでいるんです。思いついたらすぐ描けるようにね。貼り絵に使う紙も、広告でも包み紙でもなんでもいいんですよ。ただ、足りなくなると続きを描くのに困ってしまうので、気に入ったものがあったら、なるべくたくさんとっておくようにしています。「めがねうさぎ」シリーズを26年ぶりにつくったときには、緑のチェックの紙を探すのが大変だったんですよ。でもちゃんととってあったので、めがねうさぎの服を変えずにすみました。納得できる理由がないと、主人公の服を変えることなんかできませんからね。

子どもが反応してくれる絵本をつくっていきたい

絵本作家・せな けいこさん

私は子どもと遊ぶのが好きなので、よく文庫に通って子どもと一緒に絵本を読んだりするんです。自分で描いた絵本を持ってきて、読み聞かせしてくれた子もいました。読み聞かせといってもストーリーは頭の中に入っていて、それをお話ししているんですけどね。読み終わったあと、「じゃあ僕の本はせなさんの本の隣に入れておいてね」なんて言うんです。おもしろいでしょう(笑)

よく行く文庫はお父さんが牧師さんで、お母さんが読み聞かせをやってらっしゃるんですけれど、そこの息子さんに「『ドラキュラーだぞ』をちょうだいよ」と言われて、あげたことがあったんですね。それでしばらくしたら、「あの絵本の続きを描いて」って言われたんです(笑) 一冊目から随分間が空いたんですけれど、読者からの要望だからってことで、続編『ドラキュラーってこわいの?』をつくりました。編集の方も喜んでいましたね。

そんな風に子どもたちと話していると、いろんなアイデアが浮かんできます。えらい先生に褒められるよりも、まわりにいる子どもが読んで反応してくれる方がずっとうれしいですね。赤ちゃんだと「もう1回」って言うでしょう。その「もう1回」が作家としてとてもうれしいんです。今またおばけの絵本をつくっているんですが、これからも子どもが喜んでくれるような絵本を描き続けていきたいですね。

家族そろって本が大好き 家の中は本だらけ!

父も母も本が好きで、本に囲まれて育ったので、自然と本が好きになりました。私の息子と娘も本が大好きです。お年玉をもらうと本屋に行こうとせがむような子たちでしたからね。主人も本好きでしたし、娘の連れ合いも本好きですし……車の運転をできるのは一人もいないけれど、本が嫌いなのも一人もいないんです。わかりやすいでしょう(笑) だから新宿や渋谷に出かけても、洋服やアクセサリーなんて見もしないで、本屋さんに向かいます。古本屋さんなんかだと、棚を見ればどういう傾向の本が多い店なのかすぐにわかりますよ。

今も家には本がどんどん増えて、山積みになっています。友達からは「死んだあとあんまり散らかっているとみっともないから、今から整理しといたら」なんて言われるんですけど、私は今生きているときに楽しいのが一番だと思っているので、死んだあとは捨てられようととっておかれようと、どっちでもいいかなと。もともと家事は苦手なんです。子育てをしながらの絵本づくりは、家族の協力があってこそ続けられたんだと思います。唯一得意なのは、おつかい。外を歩くのは好きですからね(笑)

どんな本を選んでいいかわからないときは、子どもを図書館に連れていって、好きに遊ばせるといいですよ。子どもだって、どんな本があるのかわからなければ、ねだりようがないですからね。図書館のたくさんある本の中からどんな本を持ってくるか見ていれば、自分の子がどういう本が好きなのか、傾向が見えてくるでしょう。そうすれば、この本が好きならこっちもたぶん好きだなって、わかってくると思いますよ。


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