絵本作家インタビュー

vol.16 絵本作家 きむらゆういちさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、かわいいキャラクターと遊び心ある仕掛けでベストセラーとなっている「あかちゃんのあそびえほん」シリーズや、映画化もされた「あらしのよるに」シリーズでおなじみの絵本作家・きむらゆういちさんです。「あかちゃんのあそびえほん」誕生エピソードのほか、読み聞かせや子育てのコツなど、存分に語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・きむら ゆういちさん

きむら ゆういち

東京都生まれ。多摩美術大学卒業。造形教室、テレビ幼児番組のアイデアブレーンなどを経て絵本、童話作家に。累計1000万部を越えるベストセラー「あかちゃんのあそびえほん」シリーズ(偕成社)をはじめ、著書は500冊以上にのぼる。『あらしのよるに』(絵・あべ弘士、講談社)で講談社出版文化賞絵本賞など数々の賞を受賞。同作は2005年にアニメ映画化された。絵本・童話創作に加え、戯曲やコミックの原作・小説など広く活躍中。

子ども、あなどるべからず

子ども、あなどるべからず

▲きむらさんの初めての子育てエッセイ『子ども、あなどるべからず』(岩波書店)

もともと僕は、本は字を読ませるものだと思っていたんです。だから“赤ちゃん絵本”だなんて、出版社は字の読めない子どもにまで本を売るのか、すごいなぁと感じていたんですね。でも、自分の子どもが生まれてみて、驚きました。0歳でなんと、好きな本や好きなページがあり、何度も読んでとせがんで、しまいには暗記までしちゃうんですから。

うちの子は1歳の頃には、親をだますようになりましたしね。母親に寝かしつけられているのに、まだ遊びたいものだから、とりあえず寝たふりをして母親が寝たのを確認して、僕のところに来たんですよ。でも、僕に怒られるかもしれないと考えたのか、ものすごく微妙な笑顔をつくりながら「絵本読んで」って。自分がこういうことをすると親がどう反応するかというのを、ちゃんとわかってたんですよね。まさかそんな知恵があるとは思わなかったので、驚きました。

あと、父親になってみてわかったことといえば、小さいうちは認識力と表現力に差があるということ。うちの子、家では歌える歌を、幼稚園では全然歌えなかったんです。はたから見れば「歌えない=わかっていない」ととられてしまうかもしれませんが、本当はみんなの前で歌えないだけで、ちゃんと認識してるんですよ。

言葉だって、まだしゃべることのできないうちからずっと体の中にたまっているので、ある日急にばーっとしゃべりだしたりするでしょう。こういうのは、父親になるまでは気づかなかったことで、子どもの能力っていうのはなかなか一概には言えないなぁと思いました。

「あかちゃんのあそびえほん」誕生のきっかけは2人の娘

「あかちゃんのあそびえほん」は去年で創刊20年を迎えました。当時は赤ちゃん向けの絵本はほとんどなくて、子育て中の父親として、なぜないんだろう?と思っていたんですけど、ここまで人気になるとは全然思っていませんでした。

この絵本の誕生の最初のきっかけは、長女です。子どもがいると、手をとって「ばいばい」と振らせたり、「こんにちは、した?」なんて頭を下げさせたりするでしょう。そうしたらある日、テレビで「こんばんば、6時のニュースです」とアナウンサーがおじぎしたのを見て、うちの子もおじぎしてたんです。これはおもしろいなと思ってね。それで、工事現場にあるおじぎをしている絵を描いて、壁に貼っておきました。

その後二人目が生まれて、出版社の編集者に「二人目が生まれたんだよ」と話していたら、「なんか新しい赤ちゃん絵本ない?」と言われて。それでおじぎの絵をふと思い出して、打ち合わせをしていたファミレスの紙ナプキンで「こんな風に折っておじぎをするようなのはどう?」と話したんですね。ページをめくるのと体の動きを一体化したら、あいさつだけじゃなくて、「いないいないばあ」もできるし、「いただきます」もできるし……とアイデアが湧いてきて。それで3冊同時に出すことになったんです。だからこのシリーズは、上の子がきっかけをつくって、二人目が引き金になったみたいなものです。子どもがいたからこそできた絵本なんですよ。

ごあいさつあそび
いないいないばああそび
いただきますあそび

▲2007年に創刊20周年を迎えたベストセラーシリーズ「あかちゃんのあそびえほん」。左から『ごあいさつあそび』『いないいないばああそび』『いただきますあそび』(偕成社)

実は最初、絵本に出てくる子どもは長女の名前をつけていたんです。でも、男の子のうちでもあの本が使えるようにという配慮から、「ゆうちゃん」という名前に変えました。髪の毛の長さも着ている服も中途半端にして、女の子にも男の子にもなりえるようなオールマイティな子どもにしたんです。

絵本は基本的に主人公がいて、冒険する主人公に感情移入してハラハラドキドキしたりするわけですが、0歳児で感情移入というのは大変かなぁと思うんですね。絵本の主人公に感情移入できるようになるのはもうちょっと先で、赤ちゃんのうちは、自分はまだ自分のままなんです。「あかちゃんのあそびえほん」はそういう意味で、主人公に感情移入するような絵本ではなく、自分対絵本という形で見られるからよかったんじゃないかなと思います。

作品は生き物。活きのいいものほどいい

絵本づくりの中でこだわっていることは、子ども向けに描かないこと。たとえば5歳児向けの絵本をつくってくださいと言われて、5歳児を想像して描いたとしても、うそになるんですね。だって、自分は5歳じゃないのに、きみたちは5歳なんだからこの程度のもので喜ぶだろうって、勝手につくるんですから。

でも人間ていうのは、バームクーヘンみたいに自分の中にも5歳の頃の自分がいて成長していくわけですから、今自分が発見したおもしろいことは絶対子どもにも通じるだろうと思ってるんです。もちろん、5歳児にもわかる言葉遣いでつくりますけど、根っこにあるテーマは「5歳児ならこういうことに喜ぶんじゃないか」というのではなくて、日常の中で自分が「あ! これおもしろいな」と思ったことなんです。

それから作品っていうのは、僕は基本的に生き物だと思ってるんです。より活きのいいものほどいい作品。100年前に描かれた話でも、表紙をめくればまるで今生きてるかのようにすべてが動き出す世界なんです。いい作品は、会うたびに違う面がわかります。「初めはとっつきにくいやつだと思ったけど、会ってくうちに本当はすごくいいやつだな」とか、「こういう面もあったのね」とか。ひとつの作品でも、いろんな角度で見えてくるんです。

読者のおたよりで一番うれしいのが、「うちの子がこの本を読んですごく感動したんだけど、これから中学、高校、大人になるまでに何度かこの本を開いて、そのたびに何か違うものを感じてくれるでしょう」というもの。落語とかも、みんなオチまで知っているのに何回も聞いて味わうでしょう。だからそういう作品をつくりたいなと思うんですよね。


……きむらゆういちさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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