絵本作家インタビュー

vol.153 スーパーデュオ ケロポンズさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回はスーパー保育デュオとして舞台などで大活躍のケロポンズさんにご登場いただきます。ケロちゃんことますだゆうこさんは、ケロちゃんえほんシリーズや季節の行事絵本シリーズで人気。ポンちゃんこと平田明子さんは、『モジャキのくすり』で絵本作家デビューをされました。2人の出会いから、絵本や表現への思いなど、笑いを交えつつたっぷりと伺ってきました。今回は【後編】をお届けします。
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ケロポンズ

ケロポンズ

1999年結成。ケロことますだゆうこさんと、ポンこと平田明子さんの2人組のスーパー保育デュオ。親子や保育者を対象にした、歌や遊び、体操、ミュージックパネルなどのステージを全国各地で開催。主な絵本作品に、ますださんは、「ケロちゃんえほん」シリーズや「季節の行事絵本」シリーズなど多数。平田さんは『モジャキのくすり』がデビュー作。ケロポンズ名義で「フトッチーニとホソッチーニ」シリーズ。
公式ホームページ カエルちゃんネット https://www.kaeruchan.net/

ポンちゃんデビュー作『モジャキのくすり』

モジャキのくすり

▲ゴリラのモジャキの楽しみは、こっそり鼻くそを食べること!! ある晩フクロウに見られて、つい「頭の良くなる薬だよ」と答えてしまったから大変! 翌日から森中の動物が…… 『モジャキのくすり』(作・平田明子 絵・高畠純、ほるぷ出版)

平田明子さん(ポンちゃん・以下敬称略) 私の初作、鼻くそを食べる話なんで、いきなりモラル的に難しいテーマで……(笑)

でも鼻くそってゴミだから取るまでは分かるのよ。でもなんで誰も教えていないのに、子どもって食べるのかなぁ? 私自身も食べていたわけだけれど(笑) この疑問がきっかけで担当編集者の人に話したら、ネットでお母さんの悩みみたいなものをたくさん見つけてくれたんです。「うちの子食べてるんですけれど、これ普通ですか?」とか、「食べ過ぎは良くないんじゃないでしょうか?」とか。みんな経験しているんだったら、話にしてもすんなり行くよね、ということでスタートしました。

モジャキは鼻くそを食べていることを内緒にするために嘘をつくんですが、それをどうストーリーとして面白く、同時に教育的にならないようにするかで相当悩みました。「嘘はダメ」とも、「嘘をつくこともあるよね」ともできるしね。誰が手にとってもストンと落ちるように、嘘を持っていくというのが……。

ますだゆうこさん(ケロちゃん・以下敬称略) でもこれね、それがすごくちゃんとできているよ。よくステージで読んでいるんだけれど、本当に子どもが好きだね。よく笑うんだ!

平田 きっかけと言えば、もう10年以上前になりますが、あべ弘士さんが「音楽やっているなら1回アフリカに行ったほうがいいよ」って誘ってくださって、アフリカに行ったことがそもそもですね。

ますだ 市居みかさんとか新沢としひこくんも一緒に行ったの。編集者も含めて10数人で。すごい経験だったね。楽しかった。

平田 ケニアからタンザニアに入って、サファリをしました。国定公園の中のテントロッジに泊まるんですが、ここは人はマサイくらいしかいなくて、あとは動物だけ。夜になると「ウーッ、ウッッウッ」という声や川の音くらいしか聞こえない。そんな感じのところを、食事のあと1人で歩いていたら、急にテントとテントの間から小さな音が聞こえてきたんですよ。誰か隠れていたなと思ってパッと振り返ったら、白くて長い牙が見えた。目の前にいたのがオスのゾウだった。

「ワッ!」って言ったら、ゾウが「ブォッ」って(笑) 私が一歩下がったら向こうも一歩下がって。結局夜警の人が強力な懐中電灯で照らしてくれて、ゾウは草原に消えて行ったんですが。

その後いろいろあってタンザニアの人と結婚しまして、何回もタンザニアには行っているんです。彼らと触れ合ううちに、日本人ほどには、嘘に罪悪感がないことに気づいたんです。嘘って全体的にダメだけれど、私が「ダメ」って思っている感覚が、世界的に全部同じなわけではないんだなと知ったんです。

その思いが『モジャキのくすり』にはすごく反映されていて、子どもたちには「嘘、誰だってつくことあるよね」というところからスタートしたかった。子育てでも「嘘はダメ」とか「登っちゃダメだよ危ないから」とか言うのは簡単だと思うんです。でもやってみないと、分からないこともいっぱいあるから。お母さんが譲れるならば、色々やらせてあげてほしいと思うんです……ってそんな真面目な話をするつもりはなかったんだけれど(笑)

人気シリーズ「ケロちゃんえほん」、たちもとみちこさんとの行事絵本

ますだ 自作のパネルシアターのお話をリメイクした「ケロちゃんえほん」はもう10冊以上もださせてもらいました。長谷川義史くんの『いろいろおんせん』、あべ 弘士さんの『ねこのおいしゃさん』、市居みかさんの『すてきなぼうしやさん』などなど。

トラや帽子店でサマーカレッジに出ていたから、「ケロちゃんえほん」を出す時、そこで出会ったそうそうたる作家さんたちが「いいよ、いいよ」と絵を描いてくださったんです。この時たくさんの作家さんに出会えたことは、宝物みたいな感じですよね。トラや帽子店をやっていなかったら絵本の文章なんて書いていなかっただろうし、本当にこの時の「おかげ茶屋」!

平田 おかげって意味ですね。ケロちゃん語です(笑)

ますだ 「ケロちゃんえほん」シリーズはリメイクだけれど、絵本用に文章をつくり直しています。私はリズム的に文章を書くところがありますね。歌みたいに。歌もついているんだけれどね。『えらいえらい』の「えらいこっちゃ、えらいこっちゃ、はくしゅ~♪」みたいなね。それに合わせて竹内通雅さんも、めちゃくちゃノリノリの絵を描いてくださっている。本当に絵に救われています。

『おしょうがつおめでとうはじまりの日!』などの行事絵本はわりと文章が長くて、行事の知識や情報などをふまえてやらないといけないから、難しいところがあるんだけれど、たちもとみちこさんの絵がとっても良くて、おかげさまで人気シリーズとなりました。たちもとさんが楽しんで描いてくださってるのがうれしいですね。なるべくお話を奇想天外にして、楽しく子どもに行事を覚えてもらえたらいいかなと思って、毎回いろいろ悩んで、煮詰まりながらも楽しく書いています。

平田 1冊読むと、行事のこともわかって、お話もあって、とすごい喜ばれているし、子どもがすっごい好きだよね。お母さんは西日本だったからこのお雑煮、お父さんは東日本だからこれとか、家での会話のもとになるしね。

ますだ 行事は園とかだけではなく、親子でもそんなふうに楽しんでもらえたらうれしいです。

平田 絵本って、開けて読み始めると、エッツの『もりのなか』みたいに、そこの世界にいるみたいな気持ちになっちゃうじゃん。ケロちゃんの絵本は、連れてかれちゃう感が魅力だよね。

ますだ そんな言ってもらえてありがたいでございますよ。パネルシアターと絵本の違いって言うとね、パネルはね、白い背景に人形を貼ってリズミカルに動かすんだけれど、絵を見ているんだか、人間を見ているんだかわかんないところがある。パネルって、子どもとコミュニケーションしながらつくっていくんです。

平田 そうすると筋や、結末まで変わることがあるよね。

ますだ うん。すごいライブ感があるものだし、背景がない分、子どもたちの想像がそれぞれの中で広がっていく。絵本は絵にいろんなことが描き込まれていて、読んでもらわなくても絵だけを見ていても楽しいじゃないですか。パネルじゃ絶対できない。これはもう幸せな世界。パネルは幼稚園でたくさんの園児を相手にやれるけれど、本はお母さんと2人で読んでさ。幸せな気持ちになったり、笑ったり泣いたりとかね。そういう素晴らしいものだね! 絵本って素敵ね(笑)

えらいえらい!

▲靴はえらい、なんでえらい? 毎日いっぱい歩くから! カバは? かさは? ケロちゃんえほんシリーズ1作目『えらいえらい!』(作・ますだゆうこ、絵・竹内通雅 そうえん社)

いろいろおんせん

▲いろんな色の温泉がありました。茶色いゴリラがやってきて、青い温泉入ったら? ケロちゃんえほんシリーズ人気作『いろいろおんせん』(作・ますだゆうこ、絵・長谷川義史 そうえん社)

おしょうがつおめでとうはじまりの日!

▲今日は大晦日。いつもと違う家族の雰囲気に、子猫のみ~みは……季節の行事絵本シリーズ最新刊『おしょうがつおめでとうはじまりの日!』(作・ますだゆうこ、絵・たちもとみちこ 文渓堂)

自分たちがやりたいこと、やったことがないことを追求

ケロポンズさん

平田 絵本の話を考える時って、小さい時の風景とかを思い出して、その世界に戻っていく感じが私はあるな。

ますだ そうそうそう。本当に不思議と小さい頃に戻るね。

平田 自分の知っている絵本の世界が幼少期につながっていて。例えばうちの近所に田んぼがあって、春になると周りがレンゲの匂いでいっぱいになるほどレンゲが植えてあって、よくそこでバタッと仰向けに寝っ転がったんですよね。そうすると、顔の周りが全部レンゲでしょう? ブーンってハチが顔の真横の花に留まって、その重みで花がたゆんで、ハチが中心に分け入って蜜を吸っているというのを見ていたんですよね。

その時の匂いとか、音とかが、お話を考える時にバーッとくるんです。そこに浸って考えることがすごい幸せで、それからこんな話にしてみようかなとか考えるんです。

ますだ 「むぎちゃん」なんかは、自分の小さい時の遊びの経験が話になっているし、『とのさまのひげ』も実際にプラスチックのヒゲで遊んでたんですよ。それが飛んでっちゃって、しかもいろんなものにくっついちゃったら面白いなって、そんな風に変なことを考えたくなっちゃうんですよね。自分の中の変なものを、こう、吹き出したい! できるだけ変になりたい! みたいな(笑)

平田 (笑) 十分変なんなんですけどね!

ますだ なんて言ったらいいのかな。あんまり人と同じようなことをしたくない。すごくそれがあるのかな。オリジナリティーを追求したくて、それはすごく難しいんだけれど、何とかしてそこにたどり着きたいといつも思う。誰もやったことがないし、誰も見たことがないようなものに近づきたいというか。

それが私の中の目的なんです。なにをやるんでもそうなんです。だからケロポンズは本当にやっていて楽しいし、そういうところを目指しているよね? 女子でこういうことやっている人っていないし、ちょっとお笑いみたいなことやりつつね。常に2人で、自分たちが面白いとか楽しいことを追求している感じ。

平田 そうです。やりたいこと、やったことないことをずっとやってきたもんね。

ますだ こんなに違うけれどすごく合う2人組。奇跡的に出会ってよかったなって思います。本当に幸せだなと。

平田 私が合わせているので(笑) ウソウソ、すごく合ってる。

ますだ おおらかな人なんで助かってます(笑)

読み聞かせについてはね、お母さんや先生が、本当に自分が好きな絵本を、読んであげればいいんだと思う。これを行事でやるから読んであげなくてはいけないとかではなくて……、私、行事絵本を書いていますけれど、すいません(笑)

平田 でも面白いからね。

ますだ 自分の好きな本を、自分の読み方でやったらいいんじゃないかな。あんまり気張らずに、普通に会話するみたいな感じで。絵本って自分なりに読んでもらって、使ってもらっていいと思います。私は舞台で音楽をつけてやっていますけれど、別に音楽つける必要全くないし、楽しんでやってもらったら一番いいかなと思います。

平田 私もそう思います。それと自分が子どもに読んでいて思ったんだけれど、自分が好きな本でも子どもが好きじゃないことがある。そうすると、子どもってものすごい正直だから、ちゃんといなくなるの(笑) 私も途中で何度も立たれたんですけれど、自分じゃガンガン読みたい気分で、「今日うまくない? お母さん」みたいなこと言っても全然ダメ。お呼びでない(笑) まあ、子どもの気持ちによればいいだけのことですかね。

ますだ でも好きな本は何度でも読んでっていうしね。不思議だよね。

平田 気に入ると、2~3歳でも持ってくる。だから何を読むかは、子どもに聞けばいい。最初はお母さんが決めていいけれど、あとは子どもに合わせればいいし、長いかなと思えば端折ればいいし。

ますだ 年齢が上がったらわかるかもしれないし。

平田 そうそう。子どもありきだから。その子との生活の中に絵本が転がっていればいいじゃないね。

がんばろうって思っちゃうんだよね。私も思っちゃったりしましたけれど。これ面白いねってお母さんが笑うと、子どもにはそれがうれしいことだったりするんだよね。がんばらないで、一緒に読むのがうれしければ、読めばいいって思います。


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