絵本作家インタビュー

vol.150 絵本作家 山本省三さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、赤ちゃん絵本『トンネルねるくん くるまなにかな?』から、科学絵本「動物ふしぎ発見」シリーズなどで幅広く活躍する人気の絵本作家・山本省三さんです。人気シリーズ誕生のエピソードや、子育てエピソードなどをお聞きしました。
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絵本作家・山本省三さん

山本 省三(やまもと しょうぞう)

1952年神奈川県生まれ。横浜国立大学卒。現在日本児童文芸家協会常務理事。作品に『にわとりのおっぱい』(講談社)、「動物ふしぎ発見」シリーズ、「あてっこのりもの」シリーズ(共にくもん出版)他多数。「動物ふしぎ発見」シリーズ全5巻では第34回児童文学文芸家協会賞特別賞を受賞。
ホームページ:http://yamamotoshozo.jp/

自分の思いを読み手と共感できた時が喜び

『みんなをのせて バスのうんてんしさん』ほか、「よみきかせお仕事えほん」シリーズは実際に自分で取材に行っています。やはり取材で体験できるわくわくした気持ちをこめて書かないと、子どもに伝わらないと思います。作者としては、自分が感じた「おもしろい」「楽しい」「悲しい」「恐ろしい」などといったさまざまな感覚や思いを読者に伝えて、それを共感できた時が喜びですね。

子どもの場合、お母さんやお父さんと本を読んだ時に、同じ所で笑ったりするのがすごく好きみたいです。例えば聞いた話で、園で先生が一度読んであげた絵本を家に持って帰って、親に同じ絵本をもう一度読んでもらう時、自分が笑った場面になると、親の顔をじーっと見て、そこで親も笑うとすごく幸せそうな顔をするそうです。僕が笑って、お母さんも笑った、お父さんも笑った、というのがすごく嬉しい。子どもが読み聞かせが好きなのは、そういう所にもあると思うのです。

赤ちゃん絵本をつくる時も、読むのは赤ちゃんだからと考えずに、どうしたら赤ちゃんがわくわくするかな?読んであげる大人もわくわくさせられるかな?ということを考えています。例えば、『トンネルねるくん くるまなにかな?』だったら、トンネルから車が出てきて、まず音が聞こえて、次に何が出て来るかな?と考えたら、楽しいだろうなと思いました。

みんなをのせて バスのうんてんしさん

▲子どもたちに人気のある職業をテーマにした絵本シリーズ。その職業の方の朝起きてから夜家に帰るまでの仕事の様子を詳しく紹介しています。ほかにパン屋さん、獣医などがあります。『みんなをのせて バスのうんてんしさん』(絵・はせがわかこ 講談社)

トンネルねるくん くるまなにかな?

▲トンネルのねるくんは、いろんな車とお友だち。トンネルの向こうに見える車をあてっこしながら読めるコミュニケーションのりもの絵本。『トンネルねるくん くるまなにかな?』(絵・いちはらじゅん くもん出版)

読み聞かせは親と子の幸せな時間

わが家の子どもは女の子ふたりで、高校生と大学生になりました。小さい頃はよく読み聞かせをしていましたね。なんといっても私の作品の、誰より最初のモニターでしたから(笑) 読み聞かせの時間は、夜寝る前とか決まった時間に読んであげるのは母親の役割で、自分は気分で、おもしろい絵本を見つけた時に、「おもしろい絵本があるよ」と読んであげることが多かったですね。

子どもでも、その日の気分で選ぶ絵本も違うわけですし、もちろんこちらの調子もあるので、その時々読み聞かせのスタイルは変えていいと思います。必ず1冊全部読まないといけないというものでもないし、飽きちゃったら途中でやめてしまってもいいし、違う絵本にしてもいいと思います。そして読み聞かせのスキルを磨く必要なんてまったくなくて、上手に読む必要はないから、自由に読んで欲しいですね。

だけど、いちばん大事な読み聞かせの基本は一対一だと思っています。本というのは本来自分で読むものですけど、まだ自分で本を読めない小さい子が絵本を読んでもらうということは、その時間だけ、読んでくれる人を独占できる時間なんです。

例えば兄弟だったら、下の子が寝た後にお兄ちゃんだけお母さんに絵本を読んでもらう、という時間がすごく大切な時間になるんです。兄弟がいるとお母さんは忙しいけど、たったひとり、自分のためだけに本を読んでくれて共感し合えたら、とても幸せな時間になるんじゃないでしょうか。

子どもと共感できる絵本は次第に分かってくる

山本省三さん

大人でも本をたくさん読んでいれば、なんとなく自分の好みの本というのは分かってきますよね。同じように子どもにも絵本をたくさん読んであげれば、その子が共感する絵本が分かってくると思います。だから、おうちの方が取捨選択するのではなく、お子さんの読みたい本とおうちの方が読ませたい本と、いろいろな本を読んであげて欲しいと思います。

小さいうちは、小さなことから感動を得るようにすればよいのであって、成長するにしたがって、次第に世の中のいろいろなことが分かるようになってきます。その一助として、たくさんの本を読む体験を重ねて、読書は楽しいことだと感じてもらうことが大切だと思います。そしてだんだんと、世の中にはおもしろいことがたくさんあることや、いろいろな人たちがいることも知る。それが生きているってことだと思います。

僕はずっと家で仕事をしているし、料理が得意なものですから、子どもの離乳食から現在の食事も、だいたいつくっているんです。娘って大きくなると、「お父さん嫌だ」と言って離れていくと聞きますけど、「父親は美味しいご飯つくってくれる人」だと思っているので(笑) 幸いなことに嫌がられることがいまだにないんですね。

ご飯を「美味しいね」といっしょに食べるのも、共感でしょう。言葉でいくら愛しているよ、大事にしているよ、と伝えるよりも、自分のために美味しいご飯をつくってくれる、自分が好きな味を親が分かっている、というのは、子どもにとっていちばん伝わる愛情表現ではないかと思います。

もし、子育てに悩んだ時には、その子が好きなものをいっしょに食べたらいいんじゃないかな。もちろんつくるだけではなくて、食べに行ってもいい。もちろん、それですべてが解決できるだけじゃないだろうけど、お互い「美味しいね」って共感できたら、きっと幸せな気持ちになれますから。


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