絵本作家インタビュー

vol.150 絵本作家 山本省三さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、赤ちゃん絵本『トンネルねるくん くるまなにかな?』から、科学絵本「動物ふしぎ発見」シリーズなどで幅広く活躍する人気の絵本作家・山本省三さんです。人気シリーズ誕生のエピソードや、子育てエピソードなどをお聞きしました。(【後編】はこちら→

絵本作家・山本省三さん

山本 省三(やまもと しょうぞう)

1952年神奈川県生まれ。横浜国立大学卒。現在日本児童文芸家協会常務理事。作品に『にわとりのおっぱい』(講談社)、「動物ふしぎ発見」シリーズ、「あてっこのりもの」シリーズ(共にくもん出版)他多数。「動物ふしぎ発見」シリーズ全5巻では第34回児童文学文芸家協会賞特別賞を受賞。
ホームページ:http://yamamotoshozo.jp/

コピーライターから絵本作家に

大学卒業後、絵本作家になる前はコピーライターをしていました。じつは大学は教育学部で、すでに教員採用試験も受かっていました。ただ、コマーシャルとか広告にも興味があったこともあり、たまたまある飲料メーカーの広報部がコピーライターを募集しているのを知り、結局そちらへ入社することになりました。

会社員としてコピーライターをやりつつ、イラストレーションも好きで興味があったんですけど、専門的に勉強をしたことがなかったんですね。そんな時に通い始めた絵本作家講座では、児童文学者の故・高橋宏幸先生が講師をされていました。もともと僕はそこに絵を描きたくて習っていたんですけど、コピーライターをやっていたこともあり、多少文章が書けるだろうということで、高橋先生からは「もちろんイラストも大事だけど、まず物語が大切なんだ」と教え込まれました。

それがおもしろくて仕事以上に熱心にはまってしまい、会社で仕事中でも、こっそりコピーを書いているフリをして物語を書いていました。原稿用紙に向かっていれば分からないので(苦笑) そうやって書いていたから物語はたくさんつくれたのですが、イラストを描く時間がなかったんですね。さすがに勤務中に絵を描くわけにはいかなかったので……。

そんな時、同じ講座に通っている女性がいて、描かれる絵がとても魅力的だったことが気になって、つくってあった物語を渡して絵をつけてもらったんです。それを高橋先生に見ていただいたところ、「なかなかいいね」ということで先生の事務所に置いてくださり、出入りする編集者に見せてくださったようです。

そうしたらたまたま、出版予定の絵本の絵描きさんの進行が遅れて、予定の日に出せなさそうだという差し迫った状況の編集の方が、「これだったらいけるかも!」と思ってくれたようで、「すぐ編集会議にかけてみます」という幸運にも恵まれて、デビューすることができたんです。

そうやって、デビュー作『ロイおじさんのちょっとかわったレストラン』(絵・鈴木博子 コ―キ出版)が出たことで、調子づいてしまい(笑) 思い切って当時勤めていた会社を辞めてしまったんです。

「これってわくわくするよね」が作品のテーマに

パンダの手には、かくされたひみつがあった!

▲パンダの指は5本じゃない? 動物の体のふしぎや、進化の秘密を明らかにしていく動物学者の研究を描く、「動物ふしぎ発見」シリーズ第1弾。『パンダの手には、かくされたひみつがあった!』(絵・喜多村武 監修・遠藤秀紀 くもん出版)

30歳手前ぐらいの時だったんですけど、恩師の高橋先生に相談もなく、突然「先生、会社辞めちゃったんですけど」と言ったら、「1冊出たぐらいで食べていけるなんて、そんな甘い世界じゃない!」って、ものすごく怒られましたね。ところが、高橋先生は優しい先生で、編集部に紹介状を書いていただいたりして、その紹介状を持って出版社に営業まわりをしました。

高橋先生に言われたことは、「来た仕事は断るな。必ずフィードバッグするものがあるから」ということでした。全然違う世界の仕事でも、次に活かすことは何かしらあるから、これだからやらない、ということは決めないんだとおっしゃっていました。

僕が絵本にとどまらず、赤ちゃん絵本から、サイエンス系のノンフィクション単行本、すごろくの案、キャラクターの物語の構成など、さまざまな作品を手がけているのはその時の先生の教えにあります。

作品づくりのモットーとして、自分が子どもの頃、この本が目の前にあったらすごくわくわくするだろうな、という本をつくりたいといつも思っています。

『パンダの手には、かくされたひみつがあった!』も、ある日新聞に、“パンダの7本目の指は、上野動物園のパンダが死んで、解剖してから発見した”ということが書いてあって、「えっ! パンダって7本も指があるんだ!」とびっくりして。これって動物好きの子どもが聞いたらわくわくするだろうな、と思ったのがきっかけです。

それから編集の方に、このトピックを本にしたいと話して、その新聞にこの話を書かれていた遠藤秀紀さんに、自分で電話をして取材しました。

作品を出した後、監修いただいた遠藤さんに相談したら、「動物の不思議な話だったら無尽蔵にあるよ!」と言っていただいて、現在は「動物ふしぎ発見」シリーズとして、ゾウやペンギンなど、5冊出しています。

科学物は子どもに解りやすく噛み砕いて

もしも宇宙でくらしたら

▲宇宙で暮らしたらどうなるの? 無重力のしくみって? もしケガをしたら? 宇宙ステーションで暮らす小学生のひかるが、宇宙での学校生活や家の様子などの楽しい毎日を紹介します。『もしも宇宙でくらしたら』(WAVE出版)

毎年、僕が住む神奈川県逗子市では子どもフェスティバルが行われていて、縁あってお手伝いをしているんですけど、まとめ役の方のご主人が、なんと宇宙ステーションの設計をされている村川恭介さんでした。村川さんが『宇宙で暮らす!』というアメリカの本を訳されていて、その本をいただいたんですね。

ぶ厚くて専門的な本なんですけど、宇宙で生活すると、いろいろな大変なことが起こるんだということが分かり、もし将来宇宙に人が行くことになって、泣いたらどうなるか、ケガをしたら血はどう出るのかとか、無重力のおもしろさを宇宙の1日で見せられたらおもしろいだろうな、と思いました。

宇宙飛行士の話や絵本はいっぱいあるけど、宇宙で普通の人が普通に暮らしたらどうなるかという絵本は見たことないよな、と思ってできたのが『もしも宇宙でくらしたら』です。こちらはその村川さんに監修をお願いしました。

科学物って、根本的に間違って教えちゃいけないのはもちろんですが、子どもに解りやすくするために、長く説明的にならないよう、どこを省略するかの選択がひじょうに難しい。結果的に正しい知識が身に付くように、噛み砕いて書かないといけませんからね。

『パンダの手には、かくされたひみつがあった!』の時も、監修の遠藤さんから「僕の研究は子どもには理解できないんじゃないか?」と制作途中に指摘いただいたことがあったんです。進化論だから難しい部分はもちろんあるんですけど、「動物ふしぎ発見」シリーズを何冊か出した頃、「やっぱり子どもに理解してもらえる論文じゃなきゃ本物じゃないよね」と言っていただけました。


……山本省三さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


ページトップへ