絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『にんじゃサンタ』などユニークで楽しいユーモア絵本が人気の、イラストレーター・絵本作家の丸山誠司さんにご登場いただきます。独特な視点と畳み掛けるダジャレに抱腹絶倒な『おしろとおくろ』などは、一体どうやって生まれたのでしょうか? 最新作『だるまなんだ』や『しろずもう』の制作エピソードや、次回作についても伺ってきました。
(←【前編】はこちら)
1968年、岐阜県生まれ、愛知県育ち。大阪府立大経済学部卒、Masa Mode Academy of Art卒。イラストレーター・絵本作家。書籍装丁や雑誌、広告のイラストレーションを手がける傍ら、絵本を制作する。主な絵本作品に、『にんじゃサンタ』『おこさまランチランド』(以上PHP研究所)、『ふじさんです』(教育画劇)、『こんなことがあっタワー』(えほんの杜)、『おしろとおくろ』『しろずもう』(佼成出版社)、『だるまなんだ』(おおなり修司文、絵本館)。
丸山誠司と越智あやこのホームページ http://maruxocchi.com/
▲今も昔も僕らを見てる、赤いタワー。50歳になった赤いタワーがある日言っタワー。「もうずっといっしょであきタワー」!?『こんなことがあっタワー』(えほんの杜)
▲立派なひげがご自慢の白いお城のおしろじいさまと黒いお城のおくろじいさま。どちらのひげがかっこいいかって? 白黒つけよう、いざ勝負!『おしろとおくろ』(佼成出版社)
絵本をつくる時は、どっちかというと言葉を先に考えますね。例えば『こんなことがあっタワー』だと、「~タワー」で行くんだ! それだけで今回はお話をつくるんだ! と決めちゃいます。とにかく「~タワー」という言葉を出しに出してから、それをつなげて話をつくりました。最後に「最後に~タワーもってきて、よしできタワー! やっタワー!」。じゃ、絵を描こうって(笑) もちろん、その間何となく絵は浮かんでいるんですけれどね。
こうやってお話を考えている時が、一番楽しくて一番苦しいですかね。『おしろとおくろ』だと、白いお城と黒いお城があって、おしろとおくろが白黒つけるって面白いよねというところまではパッて行っていて、それからどうやって白黒つけるかを考え出すのが、一番楽しいし、一番苦しい。思いついて、ヤッター!って描きだしたら、思ってた絵を描いているのになんか違うなってってなると苦しいですよね。オイオイ、これどうなっちゃうのよって(笑)
絵本ごとに、その都度描き方を変えたり、画材を変えたりしています。『こんなことがあっタワー』はカラーインクを使っているんですけれど、この時初めて使った画材です。『おしろとおくろ』は、クラフト紙という茶色い紙に描いています。白い紙に描いてしまうと、その時点でおしろが勝ってるじゃんと思って。茶色い紙だと、おしろも白く塗らないといけないので、黒と対等だなと、そういうくだらないこと思って、クラフト紙に描いてみました!(笑)
お城好きは小学校からで、「すごいなー。これ何年に建ったんだ」みたいなことに感動する子どもでした。夏の家族旅行というと、必ずお城に行っていた気がします。夏休みの自由研究もお城。天守閣がドーンとあるのを見に行くのが好きですね。帯を寄せてくださった春風亭昇太師匠みたいに、石垣しか残っていない、もっと言ったら土がぽっこりしているだけのところで昔に思いを馳せる、みたいなことは僕はできないですけれど(笑)
生まれたのが岐阜県の大垣市なんですが、復元した大垣城がある公園でよく遊んでいたことから、相当影響を受けていると思います。育った愛知県は、織田信長・豊臣秀吉・徳川家康の場所なので、お国自慢がコマーシャルにも出てくる。身近なんですよね、お城がね。『おしろとおくろ』は、自分の一番好きなことを絵本にしてみた、というところですね。
▲だるまさんが、ころんだ。だるまさんが、にらんだ! きけんだ!? しずんだ!『だるまなんだ』(絵本館)。文はおおなり修司さん
▲モジャモジャもみあげのおくろ兄貴は、しろずもうの横綱だじょう。おくろ兄貴のようになりたいおしろうは、武者修行の旅に出たんだじょう!「おしろ」シリーズ第2弾『しろずもう』(佼成出版社)
『しろずもう』は、これもダジャレです。しろ、しろ、おしろ、おしり……おー!(笑) お城のおしりってどこだ? 石垣か? 石垣同士ぶつけ合ってしりずもうで戦っているのって、いいんじゃない? 「俺の石垣の方が強いんだ」みたいな(笑)
あとは「しりずもう」をどうやったら膨らませるかだけを考えて、お城同士だけじゃなく大仏とやったら、強そうだから面白いよな。大仏は、鎌倉か、奈良か。奈良の方が出てきにくそうだし、いいんじゃないかってなって。鎌倉は外に出ていて、スッと立ちそうじゃないですか。奈良の方が「どうやって出るんだ?」ってなるじゃないですか。
テキストにはダジャレをどうしても入れたくなっちゃう。普段の生活ではそんなに連発しないです。でもテキスト考えているとね。読んでいて楽しくなるかなと思うんです。
『だるまなんだ』は、初めて他の方の文章に絵をつけたんです。とても、楽しかったです(笑) お話を考えたけれど、描いてみたらなんか違った、みたいな葛藤がないじゃないですか。テキストは揺るぎなくあるので、どうやって絵的に楽しくなるかということだけを考えていたら、すごく面白かったです。もちろんおおなりさんのテキストのリズムがとても楽しかったからなんですけれど。テキストを渡されて、読んで「クッ!」って笑って、そのまま持って帰って、パーッとイメージが湧きました。
この『だるまなんだ』を描く際に、絵本館社長の有川裕俊さんにお会いしたんですが、「くだらないということは褒め言葉」というようなことをおっしゃっていたんです。それにいたく共感しました(笑) くだらない、馬鹿馬鹿しいと言われるとうれしい、みたいなところはあるなと。くだらないと言って楽しんでもらう。そういうのをうれしいなと思いますね。そういう方にどうしても行っちゃうというか、そういうのしかつくれないのかもしれませんけれど。
読んでいる人も楽しくなればいいなというのはあります。『こんなことがあっタワー』を読んでいるその人が「楽しくなっタワー」みたいな、そういうのは、よかったなと思います。テキストを考える時は、リズムが心地いいとか楽しくなるように、一生懸命考えます。僕自身、リズム感のあるテキストが好きということですかね。
今娘は小学校6年生です。絵本は妻が寝かしつける時に、布団で読んでいました。僕もたまにやりましたけれどね。トミー・アンゲラー『すてきな三にんぐみ』はテキストを覚えるくらい読みました。かこさとしさんの本も、読みましたね。『ねえ ねえ なにかうの』『だるまちゃんとてんぐちゃん』とか。かこさんの絵は、自分も子どもの頃見ていたと思うんですけれど、しばらくの間忘れていて、自分に子どもができた時に改めて見たというか。それですごい衝撃を受けました。男の子や女の子の絵が、いわゆるかわいいって顔をしていないじゃないですか。でもかわいい。この不思議な感じがすごいなって。だるまちゃんのぬいぐるみも持っているんですよ!
自分が子どもの頃は、絵本は読んでいたはずなんですけれど、覚えているのは『おしいれのぼうけん』だけ。話に出てくるねずみとかがすごい怖くて、ずっと覚えているんですよね。最初は保育園で読んでもらったんじゃないかと思うんですけれど、自分のうちにもあって。娘に見せたいと思って買い直しましたね。
自分が読み聞かせをする時は、自分が楽しくなるように読もうみたいなことは思って読んでいたと思います。だから調子に乗っちゃうと、テキスト通りに読んでいないということもままあり(笑) でもちゃんと読んで欲しい娘からは、「そうは書いていないでしょう、違う違う」みたいなツッコミをされつつ、でも、ま、いいかって(笑) いい加減な感じで、そんなノリでやってました。
新作の『だるまなんだ』は、すでに「2」のテキストもいただいているんですよ。「2」も、同じだるまさんたちが登場する……と思いますよ。でも、どうですかね。ガラッとは変わらないと思いますけれど、新しい登場人物がいてもいいですよね。だるまって日本全国にたくさんあるんで。おおなりさんからは『アルパカパカパカやってきて』という絵本のテキストもいただいています。
「おしろ」も、もう1冊どうかと言われています。『おしロック』という、お城がエレキギターを背負っているという絵づらはできているんです。お話はまったくできていないんですが。これは、「ええー、『おしロック』って言ってたじゃん」となる可能性もありますけれどね。くだらないことをまだまだ考えています。くだらない、馬鹿馬鹿しいは褒め言葉なんで。受け売りですけれどね(笑)