絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本への思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回ご登場いただくのは、浪曲風痛快チャンバラ時代劇絵本「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズの絵本作家・飯野和好さんです。着物姿が粋な飯野さんの絵本の原点は、子ども時代のチャンバラごっこ。あさたろう誕生エピソードや、絵本と映画の共通点、絵本作家や落語家、絵本専門店店主を集めてつくった劇団の話など、たっぷりと語っていただきました。今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら)
1947年、埼玉県秩父生まれ。セツ・モードセミナーでイラストレーションを学ぶ。「小さなスズナ姫」シリーズ(偕成社)で第11回赤い鳥さし絵賞受賞。『ねぎぼうずのあさたろう』(福音館書店)で第49回小学館児童出版文学賞受賞。そのほかの作品に「くろずみ小太郎旅日記」シリーズ(クレヨンハウス)、『ハのハの小天狗』(ほるぷ出版)、『あくび』(文・中川ひろたか、文渓堂)、『妖怪図鑑』(文・常光徹、童心社)、『おならうた』(文・谷川俊太郎、絵本館)などがある。ブルースハープ奏者として、ライブ活動も展開中。
ファンタジーって、空想から生まれたつくりものじゃないですか。でもたとえ空想の世界でも、背景がリアルじゃないとうわついちゃって、ちっともおもしろくないんです。
だから私も、絵本をつくるときはリアルな部分もしっかり追求します。たとえば、どんな街道があるのか、茶店の内部はどうなってるのか、着物の柄はどんなものが流行っていたのか、あと刀の長さや差し方はどうだったのか、とか。そういうのを、映画や当時の文献や浮世絵なんかを見たりして、いろいろと調べるんです。荒唐無稽な物語をつくるにしても、こんな風に当時の風俗をきっちり調べていると、時代にうるさい人にもなるほどと楽しんでもらえるかなと。
それから仕事柄、日ごろからよく人間観察をしています。電車の中とか街中とかでね。結構たくさんいらっしゃるんですよ、思わず描きとめたくなるような人。電車の前の席一列、見事にそういう人が並んでることがあります(笑) そんなときは「瞬きスケッチ」。ぱちぱちっと瞬きして、目の中に入れておくんですよ。あの人はこんなキャラクターになりそうだな、なんてね。あとは「空スケッチ」っていって、手を動かして覚えとくこともあります。我々みたいな職業だと、手を動かすことによって脳に刺激がいって記憶に残るんですよ。どうしてもっていうときは実際に描いたりもしますけど。じーっと見てきて気持ち悪いおっさんだなぁなんて思われてるかもしれませんね(笑)
米朝一門の噺家・桂文我さんと、縁あって両国シアターΧ(カイ)で一緒に落語と絵本の会をやったんですよ。それがおもしろかったんで、半年後くらいにまた何かやりませんかと言われて、今度は芝居をやることにしたんです。それで結成したのが「てくてく座」。中川ひろたか、あべ弘士、ささめやゆき、荒井良二……などなど、気の合う絵本作家連中に声をかけて、私が本を書いて。長屋を舞台にしたミュージカル時代劇です。みんな主役にしたいような連中ばかりだから、必ずいいところをつくってね。これが非常にいい出来で、芸に厳しい文我さんも「こりゃあちょっとおもしろいですよ」って言ってくれたんです。
その舞台を九州の絵本の関係の方が観に来てくれていて、ぜひ熊本に来てくださいと言われたんですが、その熊本の舞台というのが八千代座で。明治に造られた芝居小屋なんですが、江戸時代の伝統的様式で造られていて、坂東玉三郎さんが特別公演をするようなところなんですよ。すごいでしょう? ああいう板は素人が踏めるもんじゃないんですけどね、たまたま地元の方の力添えで実現したわけです。
800人もお客さんが入るところなんですがチケットがなかなか売れなくて、主催者の方が市長さんに会ったり、ラジオに出たり、私たちも公演当日にはお練りっていって舞台に出るときの格好で「ありがとうございます、てくてく座でございます!」なんて街を練り歩いたりしてね。そうしたら結局3階席まで満席になりました。もう大変なことですよ。本当に幸せな、奇跡の舞台でした。
その翌年にはまた宮城の塩釜で公演をしたんですが、そのときは太田大八さんが「おもしろそうだから、私も出たい」って言ってね。吉原通の粋なご隠居さんになってもらって、都々逸をうたってもらいました。3分くらいの出番だったんですが、我々とは風格が違うんですよ。あれはすごかったですね。今はメンバーがみんな忙しくなってしまって休み中なんですけど、本当にいい芝居でした。
▲シリーズ最新作『くろずみ小太郎旅日記 その6 怪僧わっくさ坊暴れる!の巻 』(クレヨンハウス)
「あさたろう」にしても「くろずみ小太郎」にしても、せっかく時代物なんでね、普通にさらーっと読んじゃうともったいないと思うんですよ。だからまずは、映画やテレビで時代物を見て、ああいうしゃべりの台詞を楽しんでもらいたいですね。「あさたろう」には浪曲が入ってるので、難しくて無理ですって人も多いんだけど、真似事でいいんですよ。「何が何して何とやら~ 何が何して何とやら~」って感じで、自分なりに調子をつけてもらえばいいんです。日本の大衆芸能の中には漫才、落語、講談のほかに浪曲というのがあるんだと知ってほしくてつくったようなものなんですよ、「あさたろう」は。だからとりあえずその世界に入ってみてほしいですね。
絵本の読み聞かせに限ったことではありませんが、大人が楽しんでないと、子どもは安心して楽しめないんですよ。目くじらたてて「楽しくしなさい!」なんて言っても、無理でしょう(笑) 子どもが安心して遊べる場をつくってあげるのが大人の役目だと思います。みなさんやってらっしゃるだろうけど、ひざの上に乗っけて絵本を読んであげるっていうのも、お母さんお父さんのあたたかさに包まれて、子どもはものすごく安心しますよね。そういったことを味わっている子は、そんなに悪い子にはならないんじゃないですかね。
▲かご屋と妖怪との珍道中を描く『しんた、ちょうたのすっとび! かごどうちゅう』(学習研究社)
ときには勇気をもって叱るってことも必要です。物の扱いとか、食事の作法とか、近所の人たちとの挨拶とか、そういうのができないときは、自分の子でも近所の子でも叱る。昔なんかはそういう風にしてましたからね。
あとは、縄や紐の結び方みたいなことも教えるといいですよ。今の生活の中ではあまり必要ないかもしれないけれど、そういう体験をしていると、たとえば絵本を読んでいて「おじいさんが山に薪を取りに行きました」って出てきたとき、こんな風にしていたんだなってわかりますからね。『しんた、ちょうたのすっとび! かごどうちゅう』(学習研究社)という絵本をつくったときに、江戸時代のかごをつくるワークショップをやったんですけど、あれは本当におもしろかった。できあがったかごをお父さんお母さんがかついで、子どもを乗っけてね。かごがどんなに肩に食い込むか、体感したお父さんお母さんも驚いていました。縄や紐の結び方なんかは、私が子どもの頃はおじいさんとか隣近所のおじさんから教えてもらっていたんですけど、絵本を通じてそういうことを知るというのもいいですよね。