絵本作家インタビュー

vol.14 絵本作家 飯野和好さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本への思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回ご登場いただくのは、浪曲風痛快チャンバラ時代劇絵本「ねぎぼうずのあさたろう」シリーズの絵本作家・飯野和好さんです。着物姿が粋な飯野さんの絵本の原点は、子ども時代のチャンバラごっこ。あさたろう誕生エピソードや、絵本と映画の共通点、絵本作家や落語家、絵本専門店店主を集めてつくった劇団の話など、たっぷりと語っていただきました。
今回は【前編】をお届けします。 (【後編】はこちら→

絵本作家・飯野和好さん

飯野和好(いいの・かずよし)

1947年、埼玉県秩父生まれ。セツ・モードセミナーでイラストレーションを学ぶ。「小さなスズナ姫」シリーズ(偕成社)で第11回赤い鳥さし絵賞受賞。『ねぎぼうずのあさたろう』(福音館書店)で第49回小学館児童出版文学賞受賞。そのほかの作品に「くろずみ小太郎旅日記」シリーズ(クレヨンハウス)、『ハのハの小天狗』(ほるぷ出版)、『あくび』(文・中川ひろたか、文渓堂)、『妖怪図鑑』(文・常光徹、童心社)、『おならうた』(文・谷川俊太郎、絵本館)などがある。ブルースハープ奏者として、ライブ活動も展開中。

原点は子ども時代の「ごっこ遊び」

私は秩父の山奥の農村で育ちました。いつも隣近所の仲間たちと外で遊んでいましたね。特におもしろかったのが、チャンバラごっこ。ほかにも探検ごっこで沢登りをしたり、隠れ小屋をつくったりして。空想好きな、ちょっと変わった子どもでした。

絵本を描き始めた頃はヨーロッパのファンタジーを描いていたんですが、実際にヨーロッパに行ったらその差を思い知りました。やっぱり背負っている文化が違いますからね。それで日本の文化が愛おしくなってきて。だったら日本のファンタジーを探ってみようかなと思って、そこで行きついたのが、子どもの頃夢中になっていたチャンバラ。江戸時代の日本です。

それからは江戸時代について、映画を観たり本を読んだりして、ひたすら勉強しました。そうすると当時の暮らしぶりや文化がわかってくるんですが、これがまた今とは全然違うんです。身分制度の時代なんですが、町人は町人で割り切って独自の文化をつくって楽しんでいるし、お百姓さんたちはお百姓さんたちでお祭りごとをやりながらがんばっている。メリハリがしっかりしているから、何にしても筋が通っていて、物事の善し悪しもはっきりしているんですね。それが非常におもしろくて。日本人としてのDNAが刺激されるのか、江戸時代のことを知れば知るほど、何か自分の中で沸き立つものがあるんですよ。

子どもの頃のチャンバラごっこの記憶に、改めて勉強したことが重なって、いい具合に合体して今の私の絵本ができた……そんな感じです。

「ねぎぼうずのあさたろう」誕生秘話

▲シリーズ最新作『ねぎぼうずのあさたろう その7 さんぞくまつぼっくりのもんえもんのなみだ』(福音館書店)

前に青山で掛け軸展という個展を開いたんですね。かぼちゃの親分とかきゅうりの浪人とか、野菜ばかりを掛け軸に描いたんですが、その中で渡世人の「たまねぎのあさたろう」というのも描いていたんです。ちょうどそのころ、『ハのハの小天狗』(ほるぷ出版)のようなチャンバラ時代劇絵本をつくってほしいと出版社から話がきていて、また人間の男の子が主人公というのもどうかな、と思っていたので、それならこいつをデビューさせてやろう!と思い立ちまして。

でも、「たまねぎのあさたろう」だとちょっと語呂が悪い。そうだ、ねぎぼうずならちょうど人の形をしているな、あれがぽーん!と切れて旅したらおもしろいな、と。だから、野菜ばかりの掛け軸展の中からオーディションで主役に抜擢された、みたいな感じですよね(笑)

9月に出た7巻で、あさたろうは東海道中鈴鹿まで来ちゃってるんで、次は京都や伊勢の方にでも行こうかなと。そこで宮本武蔵にとっての沢庵和尚みたいな、ああいうお師匠さんに出会って、「お前はねぎなんだよ」なんて言われて、ねぎとしての自分を確認して、北に向かって国への戻り旅を始めるんです。それがあと残り3巻でできればいいですね。その後も続くかもしれないですけど、ある程度決めておくと物語も締まりが出てくるんで、今のところは10巻までで一区切りつけようと考えています。

絵本はまるで短編映画のようなもの

絵本は、めくってなんぼっていうものですから、11見開き、15見開きという制約の中で、どれだけおもしろく見せられるかが重要です。特にこだわるのは、アングル。絵ですから実際は動きはないんですけど、ページをめくった瞬間にふわっと動いて、次のシーンに行くんです。そのときに目を楽しませるにはどの角度がいいか、相当考えますね。

絵を描くときは、自分の意識は登場人物のいる現場に行っているんです。登場人物の近くに行ったり、鳥になって上から見たり、虫になって下から見たり……と、いろいろと視線をめぐらして、どの場面が一番いいか考えて組んでいくんです。全体としては映画みたいに動いていて、その中を決められたページ数に合わせて切って見せるわけです。朗読という語りが入りますから、文章もリズムよくつけてきますね。

言ってみれば、短編映画をつくってるようなもんです。キャスティングも考えないといけないし、ロケハンもしなくちゃならないし、大道具さんや小道具さんも必要だし、町娘はこんな着物、飯屋の旦那はこんな着物って、ヘアメイクやスタイリストも必要になってくる。私にとって絵本づくりっていうのは、それを全部一人でやってるようなものなんですよ。

子どもの頃チャンバラごっこでいろいろつくって遊んでいて、つくることのおもしろさがよくわかってるから、そういうことは慣れてるんですよね。小さい子から大きい子まで仲間で集まって遊ぶときも、あの子が悪者でこの子がお姫様っていう風に役どころを決めてましたし、演出も、主役がここにいて、悪者が向こうから来て……みたいなこと、子どもの頃からやってましたから。それが今、絵本の世界で活きてるんですよ。


……飯野和好さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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