絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、愛嬌ある妖怪が登場する「妖怪横丁」シリーズが人気の絵本作家・広瀬克也さんです。イラストレーターやグラフィックデザイナーとしても活躍されているなか、絵本作家としてデビューされるまでのいきさつや、子育てエピソード、手掛けているワークショップなどのお話などを伺いました。
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1955年、東京都生まれ。イラストレーター、グラフィックデザイナーとしても活躍。デザイン事務所に勤務しながら応募した「クレヨンハウス絵本大賞」で優秀賞を受賞。受賞作『おとうさんびっくり』(絵本館)で絵本作家デビュー。絵本作品に『さがしものはネコ』(架空社)、『みつけたよ!』『まぁだだよ!』(主婦の友社)、『妖怪横丁』『妖怪遊園地』『妖怪温泉』『妖怪食堂』(絵本館)、『ばけれんぼ』(PHP研究所)など。
子どもの頃から絵本はよく読んでいました。強烈に覚えているのは、幼稚園に入る前に買ってもらった、武井武雄さんが絵を描いたピノキオの絵本。ほかの同作品とは違って、子ども向けとは思えないような絵柄で怖いんですよ。怖いけど、とにかくおもしろかった。
子どもって、怖いの平気なんですよね。子どもに迎合してはいけないなあという思いは、そのあたりの経験からきているでしょうね。
小学生になると、マンガが大好きになって、家でマンガを描く時間が多くなりました。マンガ家になりたいと思うようにもなって、手塚治虫先生にファンレターを書いて返事をもらったこともあります(笑)
あとは、石ノ森章太郎先生が『マンガ家入門』という本を出されていて、それにも夢中になりました。本当にボロボロになるまで見て描いていました。その本が大ベストセラーになって、当時の日本でマンガ家志望の子どもがすごく増えたらしいですよ(笑)
絵を描くのが子どもの頃からとにかくずっと好きで、今の仕事は好きなことだから、苦労とは思ったことはないけど、自分らしさを見つけるまでがいちばん大変なことでした。
自分らしさを追求するためには、単に何でもたくさん描けばいいんじゃなくて、色々な物を吸収して、そんな中で自分らしさを見つけていくということだから。これだというのを見つけられたら、描いていておもしろくなるんですね。
▲かわいい子どもたちがこれから生まれるじぶんのいえを探しながら、空からおりてきます。『みつけたよ!』(主婦の友社)
▲「ねぇ、そろそろうまれるの?」「まぁだだよ!」おなかのなかはほんとにほんとにいいきもち!『まぁだだよ!』(主婦の友社)
わが家にはもう成人した娘がいますが、娘が小さい頃はよくいっしょに絵本を読んでいました。それは読み聞かせというよりも、いっしょに見て楽しむという感じ。上から目線で子どもに「これいいよ」と言うんじゃなくって、「これ、いっしょに読もうよ」という感じで読んであげていました。そうすると娘も喜んでましたね。
だから、読んだ絵本も親が好きなものです。ある意味押し付けですよね(笑) うちは仕事柄夫婦で絵本が好きなので、少し特殊なのかもしれませんが、ためになる絵本を選ぶとか、教育的な配慮でとか、そういう意図で絵本を読むことはありませんでした。
子どもに絵本を選ぶ時に、何かを教えるためとか、知識が増えるよう役に立つ絵本を選びたい、という方が多いみたいだけど、絵本で何かを学ばなければいけないとは思わないし、どんな内容の絵本でも、親が自分でいいと思ったものを選べばいいんじゃないかと思います。
その分、親も絵本の中身をちゃんと見て、納得して絵本を選んであげて欲しいですね。そうやって選んだ絵本は、子どもにもちゃんと伝わると思います。
うちの娘は小さい頃読んだ絵本で、今でも好きな絵本がたくさんあると言っています。大人になった今でも絵本を読むということは普通のことなんです。
僕自身は親に絵本を読み聞かせしてもらった記憶はないけど、よく本は買ってもらっていました。父親も絵が好きで、当時流行っていた美術全集なんかが家にあって、クレーやピカソの絵をみて、楽しいなと思った記憶があります。父親の美術好きに少しは影響を受けたのかもしれません。
家に本があると、子どもって手にとりますからね。子どもを本好きにするには、まず家にいろんな本があるといい。そこから子どもが自分で好きな本を手に取るのが理想だなと思います。
赤ちゃん向け絵本を2冊『みつけたよ!』『まぁだだよ!』を出していますが、それは娘を見ていて出てきた発想が元で出来た絵本です。生まれる前のことを盛んに話してくれる時期があって、それがすごくおもしろかったんです。
子育て真っ最中の方になにかアドバイスがあるとすれば、あまり親として自分を縛らず、子どもといっしょに楽しめばいいんじゃないかと思います。こうあって欲しいとか、理想の形を親が作ってそれに当てはめようとしないで、子どもの個性をあるがままを受け止めて見ていけばいいと思う。それが子どもをちゃんと見るということだと思うんですよね。
よその子と比較すると苦しくなっちゃうでしょ。子どもも辛くなってしまう。子どもの成長って、徐々じゃないじゃないですか。急に伸びる時があったり、変わらないように見える時期があったり。だからあまりあせらないでいいと思います。そのほうが子どもも楽じゃないかな。
去年の後半ぐらいから、ワークショップで、小学校や書店、イベント会場などで子どもたちと過ごす機会が増えてきました。自分は人前で話したりするワークショップには向いていないんじゃないかと思っていたんだけど、やってみたら楽しくてね~。すごい貴重なことをやらせてもらっているなと思いながらやっています。
この前小学校でやったのは、4人ぐらいで班を作って、「教室にあるもので妖怪を描いてみよう」というワークショップ。例えば子どもたちが、「顔がサッカーボールで、目が消しゴムで、口がえんぴつで……」みたいに考えながら描いてもらって、完成した絵を僕に見せずに、言葉で発表してもらうんです。
それを聞きながら僕が描いていくんですが、見事合っていたら拍手! はずれたら残念。という風にして。これが結構盛り上がりましたね。子どもたちが作ったものを、言葉で一生懸命伝えようとする姿がかわいくてね。
これからの絵本の出版予定ですが、妖怪シリーズの5作目を今年中に完成させる予定です。来年は、電車の絵本も手掛ける予定です。といっても、普通の電車じゃないんです! オバケでもないですよ!どんな電車なのか、楽しみにしていてください。これからも、ちょと風変わりなおもしろ~い絵本に取り組みたいなあと思っています。