絵本作家インタビュー

vol.136 絵本作家 いちかわけいこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『ねぇだっこ』『しってるねん』など子どもの目線を大事にした温かいお話が人気の絵本作家・いちかわけいこさんにご登場いただきます。いちかわさんは、読み聞かせの活動を地元で17年も続けています。2児の母そして保育士としての経験、長年の読み聞かせ活動から思う読み聞かせとは!? 人気作の制作エピソードもたっぷりと伺ってきました。(←【前編】はこちら

絵本作家・いちかわけいこさん

いちかわ けいこ

1964年、千葉県生まれ。東京教育専門学校卒業。絵本作家、保育士。2002年、『ねぇだっこ』でデビュー。主な絵本作品に、『おとうと』『しーっしずかに』(以上、絵・つるたようこ、佼成出版社)、『それはすごいなりっぱだね!』(絵・たかはしかずえ)、『しってるねん』(絵・長谷川義史)、『とらばあちゃんのうめしごと』(絵・垂石 眞子、以上アリス館)、『おばけかな?』(絵・西村敏雄、教育画劇)など。『うんちうんちぽっとん』(絵・夏目尚吾、童心社)など紙芝居の作品もある。「この本だいすきの会」会員。

手仕事を伝える大切さ『とらばあちゃんのうめしごと』

とらばあちゃんのうめしごと

▲僕は生まれて初めての木登りをして、おばあちゃんと一緒に「うめしごと」をした。2ヶ月以上かかってできた梅干しは、「すっぱーい」『とらばあちゃんのうめしごと』(アリス館) 絵は垂石眞子さん

主人の実家が農家で、子どもが生まれて、そこで4世代同居していました。そこの一番上のおばあちゃんが「とらばあちゃん」のモデルです。実際には、たかばあちゃんでした。上の子はひいおばあちゃんと80歳違いで、すごく気が合っていて、かわいがってもらいましたね。この子が怖がりで、実際に「木にも登んないで大人になるつもりか!」って怒られていました。たかばあちゃんは、88歳の時に木に登っていたんですよ。「ばあちゃん、何やってるの!?」って言ったら、「隣に聞こえるから静かに」って。まさに、お話そのままです。

今の方って、おばあちゃんと一緒に暮らすということがないじゃないですか。同居しているからそりゃあ、ゴタゴタはあります。あるんですけれども、年を取っていく人間を間近で見せてもらうという経験は、やっぱり身内じゃないとできないんですよ。

私は孫の嫁だからかすごくかわいがってもらったんですね。昔は味噌もしょうゆもつくっていたという話を聞いたり、酒まんじゅうやよもぎだんご、柏餅にぼたもちなどを一緒につくって、季節的なことをいろいろ教えてもらったりしたんです。それを誰かに伝えたくて、梅干しだけでもって思って絵本にしました。「梅仕事」といういい言葉が、なくなるのは嫌だなと思っていたこともあります。他にも、切り干し大根の話も書きたかったんですよ。冬になるとね、手を真っ赤にしてつくるんですよ。ただ、絵を描くのが大変でしょう? 細かいから。

私の将来の夢なんですけれど、おばあちゃん塾を開きたいなっていうのがあるんです。もっと「おばあちゃん力」をつけたい。うちのおばあちゃんたちはみんな長生きでいろいろ教えてもらったから、できれば何かの形にしたいなと思うんですよ。だから、みんなで「おばあちゃん力」をつけるクラブみたいなのを開いたらどうかなって。季節ごとに漬物を漬けるなど、一緒にしてみたいなと思っているんです。まだそこまで至っていないですけれどね。

手仕事というか、そういうのが大好きなんですよ。断ち切るのは簡単なんです。簡単なんですけれど、伝えていくというのが大事なのかなって思っています。

子どもが共感する『しってるねん』などの人気作エピソード

私は千葉県出身ですが、『しってるねん』は関西弁で書いています。私、マレーシアに2年間行って、関西弁のバイリンガルになって帰ってきたんですよね(笑) 周りの日本人は関西の人ばかりで、英語を話さない日はあっても、関西弁を聞かない日はないという感じでした。

この話は、日本で書き始めていたんです。でもしっくりこなくて、宿題としてマレーシアに持って行きました。ある日、子どもたちがけんかしながら「おれ、しってんねん!」って言ったのを聞いて、「いい響きだな」ってひらめいて、話を関西弁にしてみたら急にリズムが良くなって。ただ、関西弁をしゃべっている人に「どの関西弁がスタンダード?」って聞くと、みんな「わてや(私だ)」って言うんですよ(笑) 困っちゃって! 結局関東の人が分かる関西弁にしようと、兵庫の方の関西弁を参考にしました。絵を描かれた長谷川義史さんは関西の方。「これはヤワな関西弁です」って前置きされてから読み聞かせをされるそうですよ(笑)

この本と、『それはすごいなりっぱだね!』は、クアラルンプールにいる間に出た本なんです。この絵を手がけてくださった高橋和枝さんとは前に一緒に絵本をつくっていたので、苦労はそれほどなかったですね。色校なども送ってもらってマレーシアで校正しました。だから、1版のプロフィールにだけ「クアラルンプール在住」と書いてあるんですよ。

一番新しい絵本『おばけかな?』は、韓国でも出版されました。出版のお話から1年半くらいたって送られてきたら、表紙が変わっていてびっくりしちゃったんですけれど(笑) これ擬音語・擬態語を面白くしてあるつもりなんです。韓国ってオノマトペが日本語の次に多いらしいんです。それで面白がってくださったのかな。実際に読む時は、そこをできるだけ盛り上げて読んでいただけたらうれしいなって思います。瀬戸大橋を渡っている時に「橋を渡るってワクワクするな」って、ポンッってアイデアが降ってきた話なんですね。

「昔ばなし大学」という所に行っていたことがありまして、そこで昔ばなしの繰り返しの重要性などを学ばせていただいて、それを生かしているつもりです。「髪の毛一本橋」などの昔ばなしにおいても橋を渡るというのは異界に行くということなんで、そんなイメージで書きました。そうしたら、絵の西村敏雄さんがこんな面白い地図をつくってくれて! 「おお、こうきたか」という。画家さんに渡すとこうなってくるのかと、すごく楽しかったです。

また、主人公は分かっていないけれど、読者は分かっているという二重構造で書いているんです。ハッチンスの絵本『ロージーのおさんぽ』みたいなのが日本にはなかったので、書いてみました。そういう意味で、ちょっと実験的な絵本かもしれないですね。

今も保育士として毎日子どもと接していますが、つくられた話じゃダメなんですよね。どの作品を生み出す時も、「共感」ということを大事にしています。より子どもの目線というか、小さな人たちの感覚に近いものを、渡していきたいなと思うんです。

しってるねん

▲あれ? あのおばちゃん誰やった? 前に会ったことあんねんなぁ。薬屋のおばちゃん? それとも花屋のおばちゃん? それとも……『しってるねん』(アリス館) 絵は長谷川義史さん

それはすごいなりっぱだね

▲あおむしさん、いっぱい食べて何になるの? ちょうちょ。それはすごいな。りっぱだね! おたまじゃくしくん、ひよこちゃん、そして、ねこさんは?『それはすごいなりっぱだね!』(アリス館) 絵は、たかはしかずえさん

おばけかな?

▲ひなこちゃんはお散歩に出かけました。橋を渡ると、あれ? 誰かいるような……。橋を渡るたびにおばけが増えていきますが、ひなこちゃんは気付いていないみたい?『おばけかな?』(教育画劇) 絵は西村敏雄さん

読み聞かせは、「あなたのことを思っている」と伝える手段

いちかわけいこさん

私はまだ絵本作家(サッカ)って自分で言ったことはなくて、まだ錯覚(サッカク)状態だと思っています。しかも「サッカク」の「ク」は苦しいの「苦」です(笑) 小松崎先生に、「10冊出さないと絵本作家と認めない」と、最初の2冊を出した頃に言われたんですね。ぽっと出じゃダメだということなんだと思うんですけれど。今、9冊なんです。最近、紙芝居をやり始めていることもあって、なかなか進まないんですよね。だからまだ作家じゃないです。でも「シッカク」とは言われていないから(笑) もうちょっとがんばろうかなって。

読み聞かせは、私にとって今となっては、空気みたいなものですかね。あって当たり前というか。あ、でもね。「あなたのことを思っているわよ」ということを伝える手段、かな。愛を伝える手段。くさいかしら?(笑) 昔、母に読んでもらっていた絵本を見ると、私のために一生懸命読んでくれたんだという思いがよみがえるんですよね。今、自己肯定感を持てる子が少ないって言われているじゃないですか。私はこの絵本を見るだけで、自己肯定ができるんですよ。「私はお母さんに愛されていた子だ」って、これが証明っていうかね。

お友だちの中に、火事で子どもの時に読んでもらった本が1冊もないという子がいるんですよ。でもその当時の絵本はみんな頭の中に入っていて、子育て中に買ってきたり借りてきたりして読んでいると、焼ける前のうちの配置から何から全部出てくるんですって。すごいなって。よく絵本は漢方薬だって言いますけれど、私にとってはドラえもんのタイムマシンのようなものでもあるのかなって思います。

ミーテ会員の方に最後に。子どもが小さい時に好きだった本を1冊でも2冊でもいいから、捨てないで手元に残してほしいなって思います。子どもが結婚する時に持たせてあげてください。その子がお父さんお母さんになった時、絶対にその本を手に取って読みます。これは必ず読むと思いますよ。そのためにも、ぜひ。


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