絵本作家インタビュー

vol.136 絵本作家 いちかわけいこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『ねぇだっこ』『しってるねん』など子どもの目線を大事にした温かいお話が人気の絵本作家・いちかわけいこさんにご登場いただきます。いちかわさんは、読み聞かせの活動を地元で17年も続けています。2児の母そして保育士としての経験、長年の読み聞かせ活動から思う読み聞かせとは!? 人気作の制作エピソードもたっぷりと伺ってきました。(【後編】はこちら→

絵本作家・いちかわけいこさん

いちかわ けいこ

1964年、千葉県生まれ。東京教育専門学校卒業。絵本作家、保育士。2002年、『ねぇだっこ』でデビュー。主な絵本作品に、『おとうと』『しーっしずかに』(以上、絵・つるたようこ、佼成出版社)、『それはすごいなりっぱだね!』(絵・たかはしかずえ)、『しってるねん』(絵・長谷川義史)、『とらばあちゃんのうめしごと』(絵・垂石 眞子、以上アリス館)、『おばけかな?』(絵・西村敏雄、教育画劇)など。『うんちうんちぽっとん』(絵・夏目尚吾、童心社)など紙芝居の作品もある。「この本だいすきの会」会員。

絵本を見ると、「愛されている」と実感できた

いちかわけいこさん

子どもの頃好きだった絵本は、『講談社のマザー絵本1 銀河鉄道の夜』に『ぐりとぐら』、『もりのなか』、『そらいろのたね』などですね。中でも一番好きだったのは『銀河鉄道の夜』。もうボロボロなんですけれどね。何回読んでもらったか分からないくらいです。他にも『エルマーとりゅう』も大好きでしたね。実は『そらいろのたね』と私、同い年なんです。福音館の絵本黄金期に私ちょうど生まれて育っているんです。特にいい絵本が出ていた時期ですよね。

この『もりのなか』なんですけれどね、私、親になって再度これを手に取った時に、白黒だったんでびっくりしたんです。私の中では、色がついていたんですよ。子どもって、白黒の絵も、自分の頭の中で色をつけて見ているんだって、自分自身の体験から知りました。子どもと一緒に絵本に出合い直したという感じですね。だから皆さんも「こんな地味な絵本」って思わずに、どんどんいろんな絵本を読んでほしいなって思います。

子どもの頃は母が教育熱心で、3歳の頃にはバイオリンを弾いていました。バイオリンって難しいですから、「1日2時間はレッスンしないとついていけない」って、それは厳しかったんです。カメラマンの父は海外を飛び回っていてあまり家にいなかったので、母が一人二役やっていたんでしょうね。その厳しい母が、夜は必ず本を2、3冊読んでくれたんですね。絵本の時だけは母がすごく優しくて、それがうれしくて。絵本を見ると、愛されている、と実感できたんです。

そんなに絵本がたくさんあったわけではなかったんです。だけど新聞の書評を見ては、本屋さんで取り寄せてくれたり、小学校に入ってからは、自分が好きな本を月1冊買っていいというお約束もしてくれたりしていました。

父方の祖母が、戦争をくぐり抜けてきた人で、本にだけはお金を惜しんじゃダメよ、身についたものは火事や空襲に遭ってもなくすことはないから、という考え方だったんですね。母方の祖母も、家の向かいの本屋さんから貸本を借りまくっていたそうなんです。「女が本なんか読むな」と言われていた時代で、ある時お布団をかぶってランプを持ち込んでこっそり本を読んでいたら、ちょっとボヤを(苦笑) そんなことをしてまでも読みたかった人らしいんですね。その流れで、自然と母も私に読んでくれていたんじゃないかなって思うんです。

大人になってから周りの方にお話を伺うと、家庭で本を読んでもらってないという方が多くて、びっくりしたんですよ。私にとって本を読んでもらっていることは、当たり前だったんですよね。

公園のお母さん友だちと始めた、おはなし会

子どもたちには、夜は3冊と決めて読んであげていましたね。1冊か2冊は子どもが好きなもの。電車が好きならば電車の本でいいと思うんです。子どもが好きなものを認めてあげる。そして最後の1冊は自分が好きなものを読むんです。これは、親の気持ちを伝えていくという意味ですね。

ただ私、子育てでは失敗しました(笑) あまりにたくさん本を読みすぎちゃって、子どもに今「どの本が好き?」「どれが記憶に残っている?」って聞いても、「ない」って言うんですよね。「ノンタン」シリーズは何回も何回も持ってきましたし、こどものともの『とべ コウタ』っていう話にすごいこだわっていた時があったんですけれどね。でもそれは、親が覚えていればいいことなんでしょうね。

家庭文庫を、夫の仕事の都合でマレーシアに行くまで、10年ほどやっていたんです。だから一時期、家に本が1500~2000冊くらいはあったかな? もうだいぶ整理したんですけれど。当時文庫に来ていた子が、いまだに「文庫のおばちゃん!」って道で会うと声をかけてくれたり、成人式の着物を見せにきてくれたりするんです。もう閉じちゃっているのにね。ちょっとの間だけどやっていて良かったなって思います。

下の子が2歳の時に公園で知り合ったお母さんたちと、小学校でおはなし会をしようという話が持ち上がったんです。全員下の子が2歳だったので「青二才」から、「青の会」って名づけました。2歳の子を持っていてもおはなし会ができるよ、という意味を込めています。1人がおはなし会に行っている間にお互いの子を見合いながら続けて、今17年目になるのかな? 子どもが学齢を過ぎちゃったし「そろそろ辞めようか」って言っていたんですが、去年、藤沢市から地域に貢献したということで表彰されて、辞めるきっかけを失っちゃいました(笑)

最近は、とにかく細々とでも続けていこうと、近くの小学校に月1回お昼休みに行って、2~3冊読んでいます。また地元の本屋さんの店頭で、月1回第4土曜日に仲間のうちの1人がおはなし会をやっています。私も時々ゲストで行っておはなし会をしています。ここは40組くらいの親子が毎月必ずくるんですよ。

青の会を始めてから、「この本大好きの会」の方が声をかけてくださったんです。3人いたら支部ができて、そうすると会報とかいただけるし、年末に、せな先生とか絵本作家の先生を呼んで集まる会があるというので、入ることにしました。「この本大好きの会」の小松崎進先生に講演会に来ていただいたりとか、年末の会に出入りさせていただいて、お話を聞いたりしているうちに、絵本作家さんと知り合うようになって、絵本を書くようになってしまったんです。

ぬくもりの大切さを根底にしたデビュー作『ねぇだっこ』

ねぇだっこ

▲弟が産まれてから、お母さんはずっと弟を抱っこ。複雑な思いのお姉ちゃんは「ぞうの抱っこはどんなふう?」と、次々と動物の抱っこの仕方を聞きます。最後に聞いたのは……『ねぇだっこ』(佼成出版社)絵はつるたようこさん

とよたかずひこ先生が初めて講演会をなさるというので、千葉まで「この本大好きの会」の会合に出かけていったんです。確か『でんしゃにのって』が出てすぐだったと思います。会の後の反省会というか飲み会で、アスラン書房の社長さんとたまたま席が隣になって、私が農家の嫁だという話をしたんです。そうしたら野菜の絵本を描こうとしている画家さんがいて、畑を見せたいっておっしゃって。それが『ねぇだっこ』のつるたようこさんだったんです。

その前後にね、私、絵本を買うお金ほしさにあちこち懸賞に応募していたんです。童話を書いたり、エッセイは賞に選ばれて四国や京都に呼ばれていったりしていました。そんなこともあって、つるたさんが来る前の日に『ねぇだっこ』の原案が、ポンッて落っこってきたんです。そうしたら、つるたさんが「原画展をやる時に、絵本をやってみたいと思っていて」と言うんで、そのお話をお渡ししたんです。それから1年だか2年だかたった頃、「できたから」って急に連絡があって。原画展を見た佼成出版社の方とアリス館の方が声をかけてくださって、絵本をつくることになりました。

絵本って読んではいたけれど、書くとなると、大人向けのものとは違ってギュッと凝縮されているので、すごく悩みました。それで、とよたかずひこ先生に相談したんです。とにかく何にも分からなくて、「ぞうさんって「さん」をつけていいの?」とか(笑) とよた先生には、ずいぶん助けていただいたきました。絵本ができた時には、お祝いにお食事に招待してくださって。足を向けて寝られないです(笑) 長野ヒデ子先生ともお付き合いさせていただいていて。「1冊出した出版社からはお礼の意味も込めて3冊は出すべきよ」なんて、絵本をつくっていく上のルールみたいなものを、つくりながら教えていただけたんですよね。

これまで絵本は9冊出していますけれど、中でも一番記憶に残っているのはこの『ねぇだっこ』ですね。最初の本ということもあるけれど、他の絵本も「抱っこ」で伝わるぬくもりの大切さ、というのが根底にあると思います。

上の子が5年生の時に、友人がインフルエンザにかかって亡くなったということがありました。その時、息子が泣けなくなってしまったんですよね。テレビを見ていて笑いそうになるのに、フッとその笑いを引っ込めてしまうような状態が1ヶ月くらい続いたかな。そんな時小松崎先生の講演があって、子どもに指1本でもいいから触れることの大切さについてお話してくださったんです。それでとにかく帰ってすぐに子どもをギュッと抱きしめた。そうしたら、子どもが、「忘れるんじゃない、しまうんだ!」と言いながらワーッと泣いた、というか泣けたんですよね。

また下の子が2歳の頃に、一緒にテレビを見ながらダンスをしていたら急におなかが痛くなっちゃったんです。これはヤバいなと感じて「お母さん病院行ってくるから」って。実は盲腸で、そのまま入院して手術! 2週間くらいして帰ってきたら、子どもが遠巻きにしてすぐには近寄ってこないんですよ。しばらくしてから、そっと後ろから近づいてきて、ギュッと抱きしめて「お母さん、いい匂い」って。『ねぇだっこ』の最後はこの経験から書けたものですね。

子どもは100%親を愛してくれる。こんな親で申し訳ないと思うことも多いのにね。親になれて良かったと思います。


……いちかわけいこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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