絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、絵本のほか、『れいぞうこのなつやすみ』や『かめきち』シリーズなど中学年向けの絵童話でも大人気の作家・村上しいこさん。どの作品にも、朗らかな笑いと、心温まるメッセージが込められています。作品の誕生秘話をはじめ、童話に込められた村上さんの思いなどをお聞きしました。
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1969年三重県生まれ。結婚後に創作活動を始め、2001年、毎日新聞《小さな童話大賞》『とっておきの「し」』で俵万智賞受賞。『かめきちのおまかせ自由研究』(岩崎書店)で第37回日本児童文学者協会新人賞、『れいぞうこのなつやすみ』(PHP研究所)で第17回ひろすけ童話賞を受賞。主な作品に『だいすきひゃっかい』『かめきちのたてこもり大作戦』(共に岩崎書店)、「ももいろ荘の福子さん」シリーズ(ポプラ社)など。執筆のかたわら、書店や小学校、図書館などで講演会や読み聞かせ会などを積極的に行っている。
ホームページ:http://www.geocities.jp/m_shiiko/
『なにわのでっち こまめどん どっちもどっちの巻』は、佼成出版社の編集者さんから「子ども向けの"丁稚の話"を、どうしても村上さんに書いてほしいんです」とお話をいただいたもの。丁稚が出てくる小説は世の中にごまんとありますが、確かに、絵本には存在しませんでした。
「そんなネタがあったか」とヤル気になったものの、丁稚についての資料が探してもなかなか見つからず……私と編集者さんと、何か月もかけて集めました。舞台は大阪・道修町の薬種問屋。おつかいを頼まれたこまめどんが、大阪城まで行くというストーリーですが、果たして道修町から大阪城まで、子どもの足で歩けるものか?
それを実証するため、自ら歩いてみました。南奉行所跡を確認したり、「この橋を渡っている時、こう歩いていくとお城はこの角度で見えるんやね」など、様子の再現も忠実に、こまめどんの足跡を記した地図をつくっていきました。こまめどん心得帳「泣いたらええやん、笑たらええやん」が付いていますが、人間同士のつながり・絆がテーマとなっている作品です。
『れいぞうこのなつやすみ』は当初、シリーズものではなく、単品の予定だったんですよ。ものすごく売れて、今もまだ季節関係なく版を重ねさせてもらっている、異例中の異例の作品です。通常、制作の過程は「原稿ができる⇒編集さんのOK⇒営業会議でOK」といった流れですが、『なつやすみ』の後、営業さんから続編を請われ、夏秋冬春、四季が揃いました。さらに「季節ものは、シーズンが終わると書棚から撤退されちゃうので、四季に関係のない"昼休み"で書いてください」と依頼をもらい(笑) 後からシリーズ名が付きました。
『とびばこのひるやすみ』は、最初は『てつぼうのひるやすみ』やったんですよ。編集さんのOKをもらったのに、長谷川義史さんの「しいこちゃん、鉄棒なんて絵にしてもおもろないで」の一言でボツ。「じゃあ、とびばこや!」で書き直してOK(笑) こんな風に、シリーズになると直接やりとりができて、巻を増すごとに意思の疎通もスムーズになるので、こちらも「こう書いたらおもしろく描いてくれるんじゃないか」などわかっていきます。やりがいがありますね。
▲おつかいを頼まれたけれど、めかつら売りに、のぞきからくり、途中には、誘惑がいっぱいや…。『なにわのでっち こまめどん どっちもどっちの巻』(佼成出版社)
▲毎日毎日、せっせと働いているのに、れいぞうこにはどうして夏休みがないんやろうか?『れいぞうこのなつやすみ』(PHP研究所)
▲とびばこの練習してたら、とびばこに手と足がはえてきた!しかも、とびばこは学校を飛び出し、向かったところは…?『とびばこのひるやすみ』(PHP研究所)
作と絵、両方を手がける方もいらっしゃいますが、私は幸い、絵が描けないので(笑) いろんな画家さんとお仕事をさせていただけるのがとても楽しいです。文章があって絵があって編集者さんがいて、と三角形ができますが、このカタチがキレイであればあるほど、子どもたちに伝わる作品ができあがるんです。
私が「もうちょっと、こういう風に描いてほしい」と言うこともあれば、画家さんから「こうした方がおもしろいよ」と言ってくださることも。みんなで一緒に誌面をつくっていける作品は「これイケるんちゃう?」と手応えを感じます。
編集者さんは、物語中におもしろいエピソードをひとつふたつほど入れただけではOKしてくれません。「村上さんが書かれるんですから、もう一押しいるんです」「しいこさんしか書けないんです」とか言われて、「え~ほんま~そうかな~じゃあ書く~」ってしっぽ振るんですわ(笑) 「しまった、乗せられた!」と後悔しますが、「次、これでどやっ!」という話を出して、「そうきましたか~さすがです!」というセリフを待つ(笑) 本づくりの楽しさでもあり、大変さですね。
世の中にはいろんな人がいて、いろんな個性を持つ人がいる中、子どもたちは皆、幸せになるために生まれて来ます。なのに、ちょっとできないことや不得意なことがあったら「どうせ自分なんか」と思う子が、今、増えているらしいんですね。だから、私は作品に「そうじゃないんだよ」というメッセージを込めています。
かめきちも、れいぞうこ、すいはんきの話も、基本的に「アホやな~」なドタバタ系(笑)そこに、いろんな個性のキャラクターが登場しますが、どれも子ども目線でストーリーが展開していきます。
『かめきち』を読んだ小学生たちから「こんな子がクラスにいたら絶対友だちになりたい」という感想メールをもらいますが、かめきちを"本の中の人物"じゃなく、自分の身近な存在として捉えてくれていることが、とてもうれしいです。
心が柔らかい時期に、子どもの時にしか感じられない、暑さや痛さ、土や風の匂いに触れてほしい。そのきっかけとなるのが、まず絵本だと思うんです。絵本によって、外の世界や人に興味を持ち、さらに自分で体験して、経験を積んでいく。親と子どもは、絵本を通してそれを共感できますよね。
絵本は勝手に動いていく映像と違って、ページに思う存分浸って、とどまってまた前に戻って、など自分のリズムで、その世界に浸ることができます。読み聞かせについては、先へ先へとめくろうとせず、子どもが興味を示したページはゆっくりと見せてあげてください。本の内容は何でもいいと思います。
子どもにとっては、お父さんやお母さんの声が聞こえて、ゆっくりと一緒にいられる最高の時間。それは、きちんと子どもの心の中に、だんだんとたまっていく、何よりも大切な経験だと思います。