絵本作家インタビュー

vol.134 絵本作家 森川百合香さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、はつらつとした子どもの笑顔と、色の重なりと温かい空気感が魅力の絵本作家・森川百合香さんにご登場いただきます。複雑な色の重なりは、失敗から生まれたものだった!? デビュー作の『おひさん、あめさん』や最新作の『おかあさんは なかないの?』などの制作秘話から、子ども時代の読み聞かせエピソードなども伺いました。
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絵本作家・森川 百合香

森川 百合香(もりかわ ゆりか)

1970年、神奈川県生まれ。女子美術大学洋画専攻卒業。絵本作家。2002年、『おひさん、あめさん』(詩・金子みすゞ、選・矢崎節夫、JULA出版局)でデビュー。主な絵本作品に、『ふうせん』(作・湯浅とんぼ、アリス館)、『ねこがおどる日』(作・八木田宜子、童心社)、『みどりの こいのぼり』(作・山本省三、世界文化社)など。日本児童出版美術家連盟会員。

みんなの力を結集してできあがった『おかあさんは なかないの?』

おかあさんは なかないの?

▲転んで、痛くて泣いてしまったなみちゃん。でも、お母さんが泣くのは、どんな時? 注射した時? お母さんが泣くのはね……『おかあさんは なかないの?』(アリス館)作は平田昌広さん

『おかあさんは なかないの?』の原画

▲『おかあさんは なかないの?』の原画。なみちゃんとお母さんの肌の透明感とほんのりとした赤いほほ。キラキラ光って見えました

『ふうせん』でお世話になった編集者さんと、以前お仕事をご一緒させていただいた平田昌広さんから、「ぜひ」と言っていただいて『おかあさんは なかないの?』の絵を描くことになりました。本当にうれしかったですね。

今回の作品は、最初のラフから思うとずいぶんと変わったんです。初めのものはもっとシンプルで、今から思うと物足りない感じでした。例えば、最初の空想の場面は、大きな注射とお母さんだけだったんです。それを編集者さんが、なみちゃんの空想の中に「お母さん、こんなに痛そうで大きな注射だけど大丈夫?」と心配しているなみちゃん自身がいたらどうか、と提案してくれたんです。

絵の中でなみちゃんが、お母さんを心配して見守っているような感じが、すごくいいなって思いました。なみちゃんが看護婦さんになったり、救急隊になったり、私も楽しんで描き進めることができました。

描いていくうちに、カエルちゃんも登場し、傘などの小物もそろってきましたね。傘は雨のイメージです。涙にも悲しい時やうれしい時がありますが、雨も嵐になったり恵みの雨になったりしますよね。そういったことが、だんだん重なり合っていきました。

中でも時間がかかったのは、陣痛と出産のシーンですね。すごくシンプルなんですけれど、1枚4~5日かかった気がします。子どもが生まれるのも大変だから、絵も大変だったのかな? 編集者さんから、お母さんが力む姿は、もうちょっと身を起こして踏ん張っている感じだとか、生まれたばかりの赤ちゃんは息を吸うために泣くから涙が出ないということを聞いて、心にじ~んときましたね。

描きあがった原画をずらっと並べて、作の平田さんにテキストを読んでくださいとリクエストしたこともありました。実際に聞きながらみんなに原画を見てもらって、この文章は次のページに移した方がいいね、などと微調整をしました。さらにテキストと絵が合っていくようでうれしかったですね。うっかりお母さんの指輪を描き忘れているページも、見つけることができました(笑)

印刷の工場にも初めて連れて行っていただいたんですね。そこで、「赤ちゃんを産んだばかりのお母さんは、もっと上気した感じにしたい」などと、直接相談して色を調整していただきました。暑い工場の中で、繊細な技術で大きな印刷機械を動かしていらして。大変なお仕事にとても感動しましたね。

絵本というものは、みんなの力を結集してつくっているんだなって実感しました。土台の文章をつくる作家と、それを表現する画家だけでなく、絵本として映えるように整えるデザイナーや絵本の形に仕上げる印刷の方たち、全体をまとめて進める編集者など……。いろんな意見を言い、こうしたい、ああしたいと言って、ご迷惑をかけつつも全体に関わることができたので、『おかあさんは なかないの?』は一生忘れることができない絵本になりましたね。

親も子どもも、互いに思いあって一緒に楽しむ、読み聞かせの良さ

森川百合香さん

小学校の学童保育でアルバイトをしていたことがあるので、紙芝居の読み聞かせなどをしましたね。楽しいですよね。私は、母に読み聞かせてもらった記憶はないんですね。覚えてないだけで、たぶん読んでくれていたと思いますが。ただ、それよりも覚えているのは、自分が字が読めるようになって、母親に読み聞かせていたということなんです。自分も読んでいて物語に引き込まれているんだけれど、母もすーっと話に聞き入っているのを感じて、すごく楽しかったですね。

『おかあさんは なかないの?』にもありますが、子どもはすごく親のことを思っていますよね。お互い思いあいながら、一緒に楽しめる読み聞かせというのは、すごくいい体験だなと思います。

読み聞かせする際も、構えることなく自分が楽しいと思える絵本を読んでほしいですね。お父さんやお母さんが楽しみながら読んでくれるのが、子どもたちもうれしいでしょうし。

絵本というものが、この社会で親しまれ続けているのは、多くの方の空想力や技術力、アイデアやちょっとした気づきのすべてが結集して、できあがっているものだからだと思います。だからどの絵本もすばらしいんですよね。選ぶ時は、好みとか今の気分とか、そういうのでいいと思うんです。季節ごとに楽しんだりとかね。いいことも悪いことも教えてくれますからね。責任重大ですよね!

絵本は役に立つものですからね。言葉を覚えたり、いろんな色や形があることを知ったり。青い鳥でも、水色や濃い青、ウルトラマリンと、いろいろあるんだとかね。私の場合はただ夢中になって描いて、できあがってみたら、いろんな色で描けたなって感じなんですけどね(笑) 何かの役に立てたらいいなという気持ちはあります。それはみんな心の中にあるんだと思います。自分一人のものではない、絵本もみんなのものですもんね。

「震災で消えた小さな命展2」

9月17日(火)まで東京で、その後9月20日(金)~23日(月・祝)に岩手・宮古で「震災で消えた小さな命展2」が開催されます。東日本大震災で亡くなった動物たちを、被災者の方からの依頼を受けて画家たちが描く作品展です。これに私も関わらせていただきました。ご家族のメッセージとともに一年間各地を巡回してきた動物たちの絵は、宮古市での展示の後、ご家族のもとに贈られます。

2012年3月の「東日本大震災チャリティーこどもの本の画家たち展」(日本児童出版美術家連盟)に、私も参加しました。その際に、絵本作家のうささんが代表を務められている「震災で消えた小さな命展」のことを聞いて、私も描かせていただくことになりました。

岩手の方にご縁があり、家族は助かったんだけれど、「犬のジューンだけが亡くなってしまった」という、お手紙と写真を拝見しました。かわいい小さなジューンを絵に描いて私も涙がこぼれました。人間だけではなくて、動物たちも家族の一員ですから、大事に思っていきたいですね。

▼震災で消えた小さな命展 http://www.chiisanainochi.com/

最後に、みなさんにメッセージを。「お父さんとお母さんと子どもたち、みんなが心身ともに健やかに、仲良く生活できるように、心から祈っています。元気にがんばりましょうね」。


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