絵本作家インタビュー

vol.134 絵本作家 森川百合香さん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、はつらつとした子どもの笑顔と、色の重なりと温かい空気感が魅力の絵本作家・森川百合香さんにご登場いただきます。複雑な色の重なりは、失敗から生まれたものだった!? デビュー作の『おひさん、あめさん』や最新作の『おかあさんは なかないの?』などの制作秘話から、子ども時代の読み聞かせエピソードなども伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・森川 百合香

森川 百合香(もりかわ ゆりか)

1970年、神奈川県生まれ。女子美術大学洋画専攻卒業。絵本作家。2002年、『おひさん、あめさん』(詩・金子みすゞ、選・矢崎節夫、JULA出版局)でデビュー。主な絵本作品に、『ふうせん』(作・湯浅とんぼ、アリス館)、『ねこがおどる日』(作・八木田宜子、童心社)、『みどりの こいのぼり』(作・山本省三、世界文化社)など。日本児童出版美術家連盟会員。

骨太な話が好きだった子どもの頃

子どもの頃は、結構体が弱かったんですね。ちょっと何かすると熱出したりおなかが痛くなったりして、保健室の常連みたいな感じだったんです。でも、父や親戚に連れられて、川で釣りしたり、カブトムシを採りに行ったりとか。体は弱かったんだけれど、おてんばな一人っ子として育ちました。

今でも虫は大丈夫で、時々セミがコンクリートの歩道で亡くなっているのを見つけると、木かげの土に還したくなりますね。昨日も、横断歩道の手前でセミを持ってたら、女の子が「なんでセミを手に持ってるの!?」という視線を送ってきて(笑)

本も好きで、父と母と3人で自転車に乗って、毎週図書館に通っていましたね。今でも覚えている本というと、いっぱいありすぎて困っちゃいます(笑) 骨太な感じのお話、例えば『かたあしだちょうのエルフ』は好きでした。ずっと忘れられなくて、大人になってから買い直したくらいです。『おによりつよいおれまーい サトワヌ島民話』も、素朴で力強くて、とてもいいですよ。

伝記も好きでした。ヘレン・ケラーとか野口英世とか。病気で学校を休んだ時も、本を読むことで行けないところに行けたり、その人の人生を自分が体験したような気持ちになったりして、勇気付けられましたね。

絵については、公園で枝を拾って地面によく描いていました。そういう写真も残っています。花など自然のものを描いていたような気がします。学校では、友だちの絵をよく描いていましたね。こっそり秘密で先生の似顔絵を描いたりね。

お姫様のような女の子っぽいものは苦手で、女子美術大学に行っていた時も、フワフワとした絵は描いていませんでしたね。粘土をこねたり、デッサンで、ゴリゴリと形を掘り出したりしていく感じが好きでした。

「森川さん、絵本の挿し絵の仕事をできたらいいのにね」

おひさん、あめさん

▲金子みすゞの詩のうち、子どもらしさがありのびやかな15編に、森川さんが明るく温かい絵を添えた。「ほしとたんぽぽ」は、「みえぬけれども あるんだよ。みえぬ ものでも あるんだよ。」のフレーズが有名『おひさん、あめさん』(JULA出版局)

美大を卒業してから、コナミという会社に就職したんですね。子ども向けのゲームをつくる部門で、キャラクターデザインのお仕事を、2年半くらいしたんです。そこの同僚がうちに遊びに来た時に、私が学生の頃描いた絵を見て「森川さん、絵本の挿し絵の仕事をできたらいいのにね」という話をしてくれたんです。

絵本は大好きだったので、それはいいなぁと思ったんです。同時に、ゲームも子どもたちが楽しんでやってくれるのはうれしいんですけれど、私ができることはもう少し違う形なのかな、と思いはじめていた頃だったんですよね。

それで会社を辞めて、この同僚の友人を通して、童画芸術協会という絵本などの絵を描く団体を紹介していただいて、子どもに向けた絵を描き始めたんです。

すぐにはイラストレーターとしてだけではやっていかれないので、油絵の講師や本屋さんのアルバイトをながら、展覧会で絵を発表していったんです。国語や道徳の教科書のお仕事もしました。子どもの頃、テスト用紙に載っていた谷川俊太郎さんの詩にとても感動して、テスト中に真剣に読んだ覚えがあるんです。どんなに小さな挿し絵でも、子どもたちの心に広がることがあるんだと思って、心を込めて大事に描いています。

2000年の展覧会のテーマが「金子みすゞの詩」で、「おひさん、あめさん」と「木」という詩をテーマに出品したんです。それをJULA出版局の方が見て下さって、初めての絵本『おひさん、あめさん』を描くことになりました。

矢崎節夫さんに詩の候補をいっぱい出していただいて、みんなで選んで絵本をつくっていきました。私も「ほしとたんぽぽ」という詩の絵が描きたくて、15編の中に入れていただきました。油絵でこってり描いたんですが、初めてだったこともあって完成まで1年くらいかかりましたね。2週間ごとに絵を持っていっては編集者さんやデザイナーさん、営業の方たちにも見てもらって、というのを繰り返してできたんです。できあがった時は、うれしくて泣いちゃいましたね。

失敗の足あとから、奥行きのある絵が生まれる

ふうせん

▲黄色いふうせんをそっと風にあげたら、黄色いちょうちょになった!35年以上保育園で歌い継がれてきた歌に絵をつけた『ふうせん』(アリス館) 作は湯浅とんぼさん

ねこがおどる日

▲リツコがある夜ふと目を覚ますと、なんと家の白猫と黒猫がダンスを踊っています! そしてリツコの誕生日の夜に……『ねこがおどる日』(童心社)作は八木田宜子さん

この『おひさん、あめさん』をアリス館の方が気に入って下さって、『ふうせん』を描かせていただくことになりました。いろんな色のふうせんを空にあげるという歌に絵をつけたものです。ページをめくるごとに、お花畑や森の中の空、夕焼けと、いろいろな色のかわいい絵本になって、楽しかったですね。

シンプルで単純でも、奥に広がっていくような絵が好きですね。見るのも描くのも、のびのびしているのが好きですね。紙いっぱーいに描きたくなっちゃうんで、原画は絵の具がつかないように持つのが大変なんですよ(笑)

わりとさらっと描いているようでも、塗ったり、取ったり、また塗ったりとしていて、実際の絵は分厚いんです。「色の重なりが複雑だよね」って言われるんですけれど、複雑になっちゃってるというか、失敗の足あとというかね。でも、失敗の後は成功があるので、それがまた喜びもひとしおという感じなんですけれど。苦しんだ分ね。それが絵の奥行きにつながっていったらいいなと思います。

その後『みどりのこいのぼり』や『ねこがおどる日』など、何冊か絵本の挿し絵を手がけていますが、いつも心がけているのは、基本の答えはテキストにあるということですね。それだけに集中するため、好きな音楽も何も聴きません。テキストを自分で声に出して読んで、じっくりと体に染み通らせながら描きます。描いてて迷うことはたくさんありますから、編集者さんとのやり取りは大事にしていますね。

初めに絵を編集者さんに見てもらうのは、とても楽しみです。どういう反応でも。それによって、今度は別の角度から描いてみるなどして、お互い納得すると、すごくうれしいですよね。


……森川百合香さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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