絵本作家インタビュー

vol.133 絵本作家 くわざわゆうこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、温かなタッチでユニークなキャラクターを生み出す、くわざわゆうこさんです。「とにかく本に関わる仕事をしたかった」と、編集やデザインの仕事を経て、あるきっかけでイラストの仕事を始めることになったそう。「絵の仕事をしているなんて、自分でも不思議なんです」とおっしゃるくわざわさんの、絵本への思いをお聞きしました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・くわざわ ゆうこ

くわざわ ゆうこ

岐阜県生まれ。編集プロダクション、デザイン会社勤務を経てイラストレーターとして独立。おもな絵本の作品に『でちゃったときは』(作・織田道代、フレーベル館)、『に~っこり』(作・いしづちひろ、くもん出版)、iPad電子絵本『みにくいあひるの子』があるほか、『らくがきあそび』(作・川島隆太、成美堂出版)など、子どもの絵本や教材を中心に活動中。OLから子育て中のママにも好評の『4色ボールペンでかわいいイラストを描く!』(主婦の友社)が発売中。
ホームページ:http://www.kuwaco.com/

"下手"と言われていた絵を「味がある」と認めてもらえて

おそらく異例の経歴だと思うのですけど、絵本の仕事を始める前は、名古屋で編集とかライターの仕事をしていました。3年間続けましたが、文を書く才能がないと自分で思いはじめて。でも本が好きなので、本に関わる仕事はしていきたくて、だったらデザインの仕事かカメラマンかと考え、上京してデザイン会社に入りました。

そこでラフ(デザインの元となるもの)や、空いたスペースに絵を描く機会があって、それを見たデザイン会社の社長が「味がある」と評価してくれて、あるイラストのプレゼンに参加してみない?と誘ってくれたんです。それまでちゃんと絵を描いたこともないし、絵の勉強をしたこともない。美術の成績も悪くて、ずっと下手くそと言われていたので、絵の仕事をするなんて、まったく考えたことはありませんでした。

その時も犬の絵を描いて出したら、見せた人みんなに「これは、ウサギだ」と言われて、結局ウサギと言うことになったぐらい(笑) それがはじめてちゃんと描いた絵になるんですけど、その絵をプレゼンに出して、通ってしまったんです。

それから「大変だ、描かなければ!」という状況に急になってしまって、それがきっかけで絵を描くようになりました。その後、10年間デザイン会社の内部のイラストレーターとして勤めて、独立しました。

だから今、絵本や子ども向けの本の表紙や挿絵などの仕事をしているのが、本当に不思議だなと思っています。親がいちばんびっくりしていて、本を送っても、未だに信じていないんですよ(笑) 「本当にあなたが描いたの?」って。小さい時に描いた絵もまったく残っていなくて、自分がどんな絵を描いていたのかも覚えていないんです。絵が苦手な人って、「絵心がなくって」とかいうじゃないですか。私そっち側にいたんです(笑)

だけどライターの時は、言葉が生まれなくてすごく苦しかったし、デザイン会社にいる時も、デザインって難しいなと、やっぱり苦しくなることがあって、ストレスとかプレッシャーが常にあったんですけど、絵に関してはそれがまったくなかったんです。

絵を描くのが本当に楽しくて、アイデアがすぐ浮かんで、思いついたものを描いて……。例えて言うなら、子どもがお絵描きしているようなテンションで楽しんで描いているので、イラストの仕事に出会えて本当に良かった。最初に「味がある」と認めてくれた社長さんには、感謝しています。

本当にいたら……という思いで生まれたキャラクターたち

でちゃったときは

▲「ぷ」とおならが出ちゃったときは、「リンリン」とベルを鳴らして「プリン」にしちゃおう!思わず笑ってしまう言葉遊び絵本『でちゃったときは』(作・織田道代、フレーベル館)

デビュー作、おならの絵本『でちゃったときは』は、子どもが描いたような絵だと思いませんか? ちょっと絵の上手な子どもがそれなりに描いたというか、少しいびつと言うか、つまりきちんとしていないんです。それを味があると捉えてくださる読者の方がたくさんいて、良かったです(笑)

まずお話をいただいた時は、クマというキャラクターも決まっていませんでした。担当の編集の方が心の大きな方で、1冊も絵本を出したことがない、駆け出しの私に、好きな絵を描いてください、大丈夫ですと言ってくださって。

白クマにしたんですけど、山にいるというシチュエーションにしたかったので、耳をキノコっぽくしたんですね。そうしたらあまりクマに見えないみたいで、コアラ? とか言われるんですけど、なんだかよくわからないキャラクターになった方が、子どもが好きなように受け取ってもらえて広がるので、これでいいですと言ってもらえました。

実は、私はそういう意図はあまり考えていなくて、自分がこんな生き物がいたらいいな、こんな動物がいてくれたらいいなと思いながら、願望を描いている感じでした。この子に名前はあえて付けていません。読んでくれたお子さんが、勝手に付けてくれていいと思っています。おかげさまで今後、この子で続編を出すことが決まりました!

絵本を通して気持ちを伝えることができるのが魅力

くわざわ ゆうこ

絵本をお子さんに選んであげる時には、まずお母さんがかわいいなとか、楽しいなとか思える絵本を選んでもらいたいですね。お母さんが楽しいと思ったら、その気持ちは子どもにも伝わると思います。

あと、自分が小さい頃は『ぐるんぱのようちえん』(福音館書店)が大好きだったんですけど、ぐるんぱがみんなにビスケットを分けたりするのを見て、そういうみんなで分け合おうという気持ちなどを、絵本を通して知ることができたと言うか、このキャラクターが言っているから、自分もしようと思ってもらえるのが絵本の魅力だと思います。

親から子に直接言葉で伝えるだけじゃなくて、絵本を通して間接的に伝えると、子どもはよく理解できると思います。例えば、「お菓子はお兄ちゃんと半分こするんだよ!」と怒りながら言うよりも、絵本を通して分け合うことを教えた方が子どもの心には伝わると思うんです。

自分が子どもの頃も、親に怒られても素直に聞く子じゃなかったけど、絵本で"半分こ"と言われたのはすごく覚えているので、今もそのことを覚えているということは、効果があったんじゃないかと思います。

思いやりって、なかなか言葉では伝えられないし、なんとなく学んでいくことだと思うので、私も子どもが好きになってもらえるような、へんてこなキャラクターをたくさん作って、役に立てればいいなと思います。


……くわざわゆうこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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