絵本作家インタビュー

vol.128 絵本作家 タダサトシさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『カブトくん』や『むしのもり』などの昆虫絵本が人気の絵本作家・タダサトシさんにご登場いただきます。2歳の頃から虫好きというタダさん。漫画家で絵本作家の父・多田ヒロシさんが「僕よりうまい」と言った少年時代の虫の絵や、『カブトくん』や新作『オオムラサキのムーくん』の制作エピソード、絵本への思いなどを伺いました。 (←【前編】はこちら

絵本作家・タダ サトシ

タダ サトシ

1968年、東京都生まれ。多摩美術大学卒業。絵本作家。1999年『カブトくん』(こぐま社)でデビュー。絵本作品に『カマキリくん』、『ありんこ リンコちゃん』、『オオムラサキのムーくん』(いずれもこぐま社)、「むしのもり」(小学館)シリーズは3冊が既刊で、月刊雑誌「おひさま」に不定期連載中。『こんちゅうことばあそびかるた』(こぐま社)は、絵をタダさん、文を父・多田ヒロシさんが手がけた。

信じられないくらいかわいい『オオムラサキのムーくん』

オオムラサキのムーくん

▲冬眠から覚めたオオムラサキの幼虫ムーくんは、お腹がぺこぺこ! 近くにある草や木の葉をかじってみますが、全然おいしくありません。ムーくんが食べられる葉はどこに?『オオムラサキのムーくん』(こぐま社)右側の絵は最初のラフ原稿

オオムラサキの幼虫の話は、作家になってからずっと描きたいと思っていたんです。信じられないくらいかわいい顔してるんですよ。本物はもっとかわいいんです。ポヤポヤしてモジャモジャして、ちょっと毛が生えているような感じで。で、頭だけカリッと固くてね。それが脱皮の時、お面としてポロッと取れるんですよ。このお面が取れることを題材に、誰かに先に描かれちゃったらどうしよう、って思っていました。

日記にも、この「お面」を貼り付けたものが残っています。昆虫写真家の山口進さんに、僕が虫が好きというのを父が話したら、いろんなところに連れて行ってくれるようになったんです。この時は冬で、秩父まで車で行ったんです。そこに大きなエノキがあって、根元の枯れ葉をひっくり返していくと、幼虫がいるんですよね。それを採ってきて育てたんです。

まずは、エサになるエノキの葉が芽吹く春まで、容器に入れて冷蔵庫の中で冬眠状態にしておくんです。で、春になってから目覚めさせたんですが、その時エノキがないと困るんで、母親に植木屋さんに相談してもらって若いエノキの木を買ってもらいました。

最初は7~8匹いたんですが、脱皮して緑色になった途端エノキの葉をモリモリ食べるようになっちゃって。結局葉っぱがなくなって、新しいエノキも用意できなくて、結局死んじゃったんですよ。だから、茶色の脱皮したお面はノートに貼れたけれど、緑色のお面はないんです。

この本は、ラフからほとんど変わらないままにすんなり行きました。十何年かかってようやく(笑) 幼虫の本だから苦手な人も多いと言われて、写実的ではなく、描き方を省略してやりました。

幼虫の関節と言うかフシの順番って、ほとんど共通してるんですよ。前胸中胸、後胸、そこから2つおいて足のような形をした吸盤のようなのがあって。デフォルメしているから、今回はそこまで考えてなかったんですが、ハタと気づいて、ページめくったら数が違うのがあって、全部一度原画を戻してもらって直しました。デフォルメしても正しいかどうかが気になって、もう、小学生の頃のような自由な絵には戻れないですね。

自分が一番大事なものを、見せてあげるように

図鑑風に正確に描くことと、親しみやすく省略することの、バランスをどう取るかがテーマなんです。完成形を求めると、どうしても描き込む方に行っちゃうんですよ。描いていると楽しくなってきちゃう。目が顕微鏡みたいになって、どんどん見えてくる。

ただ、描き込みすぎると体が具合悪くなっちゃうんですよ。今「むしのもり」シリーズの新作を描いているんですけれど、図鑑的になってます(笑) あれは最初から細密に描いている本なんで別ですけれど、どう図鑑的な要素を省いていって、という段階に今きているのかな。難しいですね。

最近の題材は、近所でその年に採れた「採れたて」の虫のことが多いですね。昔は目を向けていなかったちっちゃい虫に目が行くようになりました。子どもの頃は、ハデなカブトムシとかの甲虫類が好きしたからね。

今は国分寺の方に住んでいます。自然がいまだに残っていて、虫の多様性があって、本当に夢のようです。近くの神社にカブトムシがわんさかいて、カブトムシの今までの価値がガクーッと下がった(笑) こんな都内にいたのかって。今まで見ていない虫も目にするんです。子どもの同級生の子がキャンプ行って採れたからって、オケラを見せてくれました。大人になるまで見たことなかったんです。そんな出会いが題材に(「むしのもり」シリーズ)なります。

世の中の子どもが虫が好きになればいいな、なんて思いを伝えるつもりはまったくなく、自分が好きなように描かせてもらって出していただいているんです。ただそんな中で、虫がダメだった娘がこれを読んで見るようになりましたとか、実際に虫に触れてくれているという言葉が来た時は、うれしいですよね。それが一番やりがいを感じる時ですね。

僕の母親は「あんたがいなかったら、虫を見られなかったわよ」って、今でも言うんです。同じことが知らない人のところでも起きているというのは、よかったなと思います。いまだに虫嫌いのお母さんから「ページが開けません」とも言われますけれどね(笑) 買うのは親なのに、子どもが欲しがるんでしょうね。子どもが「この本!」というのが本当の絵本だと思うから、その点ではうれしいですよ。編集者の方が僕の作品を「自分が一番大事なものを、友だちに見せてあげる感じ」と言ってくれたんですが、うまいこと言ってくれました(笑)

むしのもり
おいでよ! むしのもり
はっけん! むしのもり
▲虫が大好きなさっちんは、「むしのもり」に住むオオクワガタのオオクワくんと友だちです。むしのもりに住むたくさんの虫たちとの交流を描くシリーズ。『むしのもり』『おいでよ! むしのもり』『はっけん! むしのもり』(小学館)

読み聞かせは、楽しく、おかしく、好きなように

タダ サトシさん

普段は月~金、9時~5時で絵画修復の仕事をしているので、帰ってきてからや土日に作品を描いています。子どもを、父親が僕にしてくれたようできないのが、なんとなくつらい感じがしますね。いろんなところに連れて行ってあげたりね。

息子は読書が好きですね。僕よりもはるかに、妻よりも好きです。絵は描かないんですが文章が浮かぶみたいで、変なお話をつくって話すんですよ。それを「書け」って言ってるんですが、形にしないんですね。こっちが書き留めておこうかなって思う。今度は原作を息子にしようかな?(笑)

読み聞かせは、やりましたね。ましませつこさんとか、柳原良平さんとかね。僕の機嫌が悪いと僕の本持ってきたりしてね。『ムーくん』はラフの時に読んであげたら、「んー、これこれおいしい!」というセリフを覚えていました。

読み聞かせって、エンターテインメントですからね、家庭でやる場合は、何やってもいいんじゃないですかね? 読み聞かせのルールってあるらしいですけれど、好きなように、おっかしなことやったらいい。笑って寝ればいいって思ってるんですよ。寝る前に騒ぎたがりますよね、子どもって。その一環だと思って、読み聞かせをやればいいんじゃないかなって。

読む本を悩むようなら、親が子どもの時に読んでいた本からはじめればいいと思います。自分が好きだった本から。結局そこに戻るのが、自然ですよね? 自分が受けたことをしてあげる。「入ってきて出る」という単純な繰り返し。

あとは、積み重ねでしょうか。毎日欠かさずやっていくのと、たまにしかやっていかないのじゃ違っていたりするんじゃないかな。うちは、一時期毎日やっていたんですが、それじゃないと寝なかったんです。子どもは、待ち構えてましたからね。「今日は何にする?」って言ったら、3冊くらい持ってきてね(笑)


ページトップへ