絵本作家インタビュー

vol.121 イラストレーター 市原淳さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『トンネルねるくん くるまなにかな?』のシリーズや『すごいくるま』などの絵本でおなじみのイラストレーター・市原淳さんにご登場いただきます。人気の絵本から、世界的な展開をしている『ポペッツタウン』の制作エピソード、毎晩子どもに読み聞かせをしたというパパとしての顔までを、たっぷりと伺いました。
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絵本作家・市原 淳

市原 淳(いちはら じゅん)

愛知県生まれ。イラストレーター。大阪芸術大学デザイン学科卒業。キャラクター制作を手がけた『ポペッツタウン』がカナダでテレビアニメ化され、世界約100ケ国で放送。主な絵本作品に、『トンネルねるくん くるまなにかな?』のシリーズ、「はたらくくるま」シリーズ(文・山本省三、くもん出版)、『にっこり にこにこ』『わーらった』(文・風木一人、講談社)、『すごいくるま』(教育画劇)など。
市原淳のイラストレーション http://ichiharajun.com/

僕の「デビュー作」、『すごいくるま』

すごいくるま

▲パパのくるまは空も飛ぶしお菓子もつくれる、北極へも宇宙にだって行かれちゃう!『すごいくるま』(教育画劇)

『すごいくるま』という絵本を出したんですが、初めて企画から自分でつくった作品なので、これが絵本のデビュー作だと思っています。子どもの頃から、こんな車があったらいいなというのがあって、そういうシーンをいっぱい集めて一冊の絵本にしたような本なんです。車から足が生えて渋滞をスイスイ進むシーンや、車が自分で修理するメカっぽいところ、あとは空は飛ばせたい、とかですね。

この本の絵は、筆ペンなどで黒い線を先に描いています。それをパソコンに取り込んで、パソコン上で着色していくんです。それをプリントして、その上にまた色鉛筆とかパステルでタッチをつけたり影をつけたりして描いています。オーロラなどもあとでだいぶ足していますね。シンプルさを心がけていますが、手描きの暖かさを出すために描き方を工夫しています。

やっぱり作絵の両方を手がけた作品は、もっとこうしたら面白くなるんじゃないかと思ったら、描いている途中でもどんどん変えていけるところが楽しいですね。めくった時の驚きとか、そういう展開を考えられるのも面白いです。

絵本をつくる時って、苦労らしい苦労ってないんです。むしろ絵本はどんどん制作していきたいです。ただ、レギュラーで決まっているイラストレーションの仕事があるので、本の制作にまとまった時間をつくるのが厳しいんですよ。だから、スランプとか言ってられないという感じです。もっと描きたいですね。

以前書店で、『すごいくるま』の読み聞かせとぬりえをするイベントをしたんです。塗るのはもちろん、描き足してくれてもいいんだよって、自分なりのすごいくるまを描いてもらいました。みんなすごい一生懸命でした。白い紙に勝手に描いている子もいました。動物が乗っていたり、足が生えていたり、車の下に力持ちがいたりとか。

その時、店の奥で原画展をしていたんですが、一人の子が「上手に描けたから、僕の絵も貼ってほしい」と言い出したんです。それはぜひ貼っていいよって、お店の方も了解してくれて、子どもたちの絵も一緒に並べて展示しました。読者さんとの接点を持ったのは初めてで、新しい発見がありました。読み聞かせをした時も、みんな熱心で反応もよかったですね。すごい楽しい体験でした。

絵の力でワクワクさせたい!

『トンネルねるくん くるまなにかな?』のシリーズは、先に山本省三さんの文章があって、編集者さんが僕に声をかけてくださったんです。最初文章だけをいただいた時はすごい変な本だなと思いました(笑) 車の本だけれど、トンネルが主人公じゃないですか。作の方が別にいる作品は、難しいお題を出されて、どううまく答えるかって楽しんでいるところがありますね。なるべく面白い返事をしなくっちゃって。

トンネルの中をいろんな車が通っているので、ちょっと斜めにして車がスッと出てくる感じにしたら面白そうだとか、山ももっと大きいものや角ばっているものもありました。目の感じは白目があったほうがいいとか、いろいろ試作を描きながら、編集者さんに見ていただいてつくりました。

芸術家ではないので、いろんな人の意見を聞きながら、いいものができたらと思っています。イラストレーションの仕事をいっぱいしてきているので、いろんな人に好かれるものということはいつも考えています。子どもにわかりやすくなっているかとか、自分では面白いと思っていてもそれが万人受けする面白さなのかとか、編集者の方とアイデアをキャッチボールしながらつくり上げていくのが好きですね。

絵の力でワクワクドキドキさせられたら、すごくいいなって思っています。今は、ゲームとかDVDとかいろいろあって、本から離れていく子どもがたくさんいるので、もっと本の楽しさを知ってほしいですね。本のよさって、いつでも開いたら世界が広がる、自分の好きな時に好きなところから、好きなペースで読める、というところだと思うんです。子どもが夢中になれる本をいっぱいつくって、もっと本を読むきっかけになれたらいいですね。

くるまなにかな??トンネルねるくん
でんしゃなにかな??てっきょうてっちゃん
しんごうごうくん はたらくくるまなにかな?

▲なにかな、なにかな? トンネルや鉄橋、信号を通ってやってくる乗り物を当てっこしながら楽しめる『トンネルねるくん くるまなにかな?』『てっきょうてっちゃん でんしゃなにかな?』『しんごうごうくん はたらくくるまなにかな?』(文・やまもとしょうぞう、くもん出版)

読み聞かせは、子どもが想像する余地を残して

いろいろかたち いろかたち

BabyKumonセットの絵本『いろいろかたち いろかたち』。○□△の形や色の認識を助ける本。いろいろな形が隠れているので、さがしっこ遊びとしても。文はもとしたいづみさん

小学校6年生の息子が一人いるんですが、低学年くらいまで、毎晩読み聞かせをしていました。寝かしつけが僕の仕事だったので、布団に入っていろいろな本を読みました。何でも読みましたね。昔話に外国の本。図書館でも借りましたし、自分でもいっぱい持っています。

自宅兼事務所なので、子どもと一緒に過ごす時間が多いほうだと思います。毎晩読み聞かせをしていたことも大きな要因だったかもしれません。ほかのお父さんよりも距離は近いと言うか、何でも話してくれるというのはあると思います。

読み聞かせのアドバイスというのは、読むプロではないので難しいですね。ただ、あまりキャラクターをつくりすぎて読むのはよくないのかなって思いますね。想像する余地を与えながら読んだほうが、子どもが自分の頭の中でキャラクターをつくるんじゃないかなという気がしますね。

本をつくる側としては、お父さんにもどんどん楽しんで読んでほしいなというのはあります。『すごいくるま』はお父さんにもすごく喜ばれています。これからも、お父さんが読みやすい本をつくっていかれたらと思っています。

今は何冊か本を製作中ですが、直近ではBabyKumonセットの絵本『いろいろかたち いろかたち』があります。登場する子どもや動物、街並み、楽器などが、○□△を組み合わせたり、丸を切ったりしてつくっています。繰り返し読んでたくさんの形を見つけてもらえたらうれしいです。ほかにも、羊の話のオリジナル絵本とか、しかけ絵本なども準備しています。内容はまだ秘密ですが、きっとワクワクしてもらえると思いますよ。


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