絵本作家インタビュー

vol.12 絵本作家 山田詩子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェ インタビュー」。今回は、二人の男の子のお母さんでもある絵本作家・山田詩子さんにご登場いただきます。カレルチャペック紅茶店のオーナーとしても活躍される山田さんは、ご自宅に3000冊もの絵本をコレクションしているという大の絵本好き。そんな山田さんが描く、楽しくおいしい絵本の数々は、どのようにして生まれるのでしょうか?
今回は【後編】をお届けします。 (←【前編】はこちら

絵本作家・山田詩子さん

山田詩子(やまだ・うたこ)

1963年、愛知県生まれ。立命館大学卒業。東京・吉祥寺の紅茶店「カレルチャペック紅茶店」代表で、雑貨デザイナー、イラストレーター、絵本作家としても活躍中。絵本に『ぶたのチェリーのおはなし』(偕成社)、『トルテのピンクケーキ』(学習研究社)、『さあ おでかけ』『おいしいよ』をはじめとしたファーストブックシリーズ(ブロンズ新社)など。『紅茶好きのメニューブック』(文化出版局)など、紅茶やお菓子にまつわる著書も多数。夫、息子2人の4人家族。
カレルチャペック紅茶店 http://www.karelcapek.co.jp/

実体験も盛り込んだ新作『ジョニーパーティーへいく』

▲9月の新刊『ジョニーパーティーへいく』(教育画劇)

9月に『ジョニーのクリスマス』の続編『ジョニーパーティーへいく』(いずれも教育画劇)が出版されるんです。『ジョニーのクリスマス』では、クリスマスはもらう日じゃなくてあげる日だよ、もっと自分から楽しもう!ということをテーマとしていたんですが、今回のテーマはみんなで楽しむティーパーティー。お菓子づくりが大好きなジョニーは、今回スコーンづくりに挑戦します。パーティーだからちょっとおしゃれな感じに、アイシングをかけたり、ラッピングをしたりするんですよ。

実は、このティーパーティーのような企画をこの前、PTAのイベントでやってみたんです。公民館を借りて、パンとか、パンにはさむハムや卵、寒天やアイス、トッピングにするチョコやホイップクリームなどを用意して、みんなでわいわいつくって食べたんです。それがすごく盛り上がって。男の子たちなんてむちゃくちゃトッピングを盛って、なんかもう、アメリカンドリームみたいな、すごいことになってました(笑) みんな「おいしいおいしい」って言って楽しんでくれたんですよ。

『ジョニーパーティーへいく』には、そういう楽しさも盛り込みました。ストローに紙で目印をつけてマイカップだとわかるようにするとか、ちょっとしたパーティーアイデアも盛り込んでます。みんなのおうちでもこんなパーティーをやってもらいたいですよね。

子どもの個性に合う1冊を見つけてあげよう

▲ブロンズ新社から出ている山田さんのファーストブックは全6冊。こちらは『さぁおでかけ』

上の子が生まれたとき、文化出版局さんからヘレン・オクセンバリーさんのボードブックをいただいたんです。私は絵本のことをいろいろ知っているものだから、初めて読ませる本はどれにしようなんて異常に興奮したりしてたんですが、息子はそのボードブックが気に入ったようで、いつも必ずその絵本を出してくるようになって。

私はそういう厚紙タイプの絵本ってそれまであまり好きじゃなかったんですけど、赤ちゃんは、色の美しさやストーリーなんかはまだわからないので、まずはモノとしての絵本に親しむことから始まるんですよね。おもちゃみたいな感じで手にとれて、自分のものだって思えるような絵本を好きになるんです。

これは私にとっては新たな発見で、この経験をもとに、『のりもの』『ともだち』といったファーストブックのシリーズ(ブロンズ新社)をつくりました。めくりやすいボードブックで、どのページを開いても楽しめる絵本です。お父さんが読んでも恥ずかしくないようにと、女性的な言葉遣いは避けて、シンプルな言葉を選ぶように工夫したりもしました。子どもを産む前につくっていたら、ああいう絵本は生まれなかったんじゃないかと思いますね。

兄と弟で絵本の好みが全然違ったのも、新たな発見でした。上の子は1歳前から本をすごく読んでて、2歳ぐらいから絵も描いて、しかも絵もうまかったんですよ。だけど下の子は全然本を読まなくて、たくさんある本の中から2~3冊しか選ばないんです。しかもそのうち1冊は、自動車の教習所の教本なんですよ。記号や絵文字ばかり見ていて、絵も描かないし、言葉も遅いし、どうしたのかな?ってくらい。でも1年生にあがってから急に花開いて、絵も本も大好きになりました。

今、4年生の上の子はボタニカルアートに夢中で、2年生の下の子は科学や江戸時代に興味があるようです。もし一人しか産んでいなかったら、子どもは親の教育次第だなんて言ってたかもしれないんですけど、子どもって同じ環境で育てても、一人一人個性がまったく違うんですよね。だから、なかなか絵本に反応してくれなくても、「うちの子は絵本が嫌いなんだ」と決め付けずに、ぜひ図書館に行ってありとあらゆる絵本を読んであげるといいと思います。絵本にもいろんなジャンルがありますから、そのうちその子が反応する絵本がきっと見つかるはずですよ。

子どもと一緒にいる時間も「自分の時間」

子育てをしていると「自分の時間が全然ない」という声を聞いたりしますよね。でも私にとっては、子どもと一緒にいる時間も「自分の時間」。私の場合、陣痛の合間に絵本の原稿を入稿したり、出産した次の日に色校正をしたり……と、ちょっと普通とは違うと思うんですけど、何かするときはいつも子どもを背負ってたので、これも自分の時間だよなって思ってました。

うちの近所のお母さんたちは、高齢出産の人ばかりなんです。バリバリ働いてから出産して、今は専業主婦となって子育てしているという人が多くて、みんな「子どもはすごい」「子育てって楽しい」と夢中になってますよ。子どもができると、独身時代の暮らしはできなくなるし、着ている服とか行くお店とかも変わってくると思うんですけど、その変化がまたいいんです。いつまでも若いときと一緒のわけはないんですから、変わることを楽しむべきじゃないかなと。

子どもは単純にかわいいし、何かちょっとやってあげたり、つくってあげたりしただけでも喜んでくれるから、没頭する価値がありますよね。中腰でやったらなんでもしんどいので、子育ての時期は子育てを本腰でやった方がいいと思います。もうとにかくかわいがれるだけかわいがってほしいですね。どれだけかわいがっても限界はないですから。


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