絵本作家インタビュー

vol.119 絵本作家 谷川俊太郎さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、ミーテでも大人気の『もこもこもこ』や「ことばとかずのえほんシリーズ」など多数の絵本でおなじみの詩人・谷川俊太郎さんにご登場いただきます。当時は珍しかったナンセンス絵本はどうやって生まれたのでしょうか? 母親っ子だったという子ども時代の話から、最新作『すき好きノート』の制作エピソードまでをうかがいました。
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詩人・谷川俊太郎さん

谷川 俊太郎(たにかわ しゅんたろう)

1931年、東京生まれ。詩人。1952年、詩集『二十億光年の孤独』でデビュー。詩作のほか、絵本、翻訳、作詞、脚本など様々なジャンルで活躍。主な絵本作品に、『わたし』(絵・長新太、福音館書店)、『あな』(絵・和田誠、福音館書店)、『もこもこもこ』(絵・元永定正、文研出版)、「ことばとかずのえほんシリーズ」(絵・堀内誠一、くもん出版)など多数。最新作に『すき好きノート』(装画・安野光雅、アリス館)がある。
谷川俊太郎.com http://www.tanikawashuntaro.com/

子どもたちが選んだ『もこもこもこ』

もこもこもこ

▲ミーテでも大人気の『もこもこもこ』(文研出版)。「もこ」や「にょき」といったナンセンスな文章に引き込まれます。

※谷川俊太郎さんは2024年11月13日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

『もこもこもこ』は最初に、子どもたちに受けたんですよね。大人には、どうやって読んだらいいのかわからないと言われました。ただ、子どもが面白がるから仕方なく与えるといったようでした。子どもに選んでもらった本ですね。この頃は物語絵本が主流で、こういったナンセンスな絵本と言うのに拒否反応があったんだと思いますよ。

この本は、絵を描いてくれた元永定正さんとの出会いが先なんです。アーティストに対する奨学金みたいなものをもらって、ニューヨークに8ヶ月ほど住んでいたんです。その時、元永さんも同じ奨学金を受けていて、同じマンションの上下に暮らしていました。部屋を訪れて絵を見せてもらったり、車で一緒に出かけたりして親しくしていたんです。

それで二人とも日本に帰ってきてから、絵本を作ろうという話が出たんです。確か元永さんの絵が先だったんですよね。いっぱい絵を並べて、それに言葉をつけました。こういうオノマトペを使ったナンセンス絵本は、思いつくかどうか、インスピレーションが湧くかどうかなわけです。

理詰めでは出てこない言葉を生み出すのはというのは大変です。ただ、この本の時は、作るのに苦労したという記憶はあまりないですね。絵に言葉が引き出されたようでした。元永さんとは、通じ合うものがあったのかもしれませんね。

読者参加型で、親子のやり取りができる『すき好きノート』

すき好きノート

▲親子で一緒に書きたい『すき好きノート』(アリス館)。装画は安野光雅さん

最近出した『すき好きノート』という本は、左から読むと子どものページで、右から読むと大人のページとなっています。読むだけではなく自分の好きなことを書く(描く)読者参加型の本になっています。親子のやり取りにもなる。いい本でしょう?(笑) もともとはね、以前書いた「好きリスト」という詩があって、この詩で本を出そうと出版社の方が言ってくださったのが始まりだったんです。それを、読者参加型の本にしたら面白いんじゃないかと思いついて、こういう形になりました。

「好きな言葉は何ですか?」と、よく聞かれるんですよ。でも、言葉は僕にとって素材ですから、どれということもない。そこで、「好き」という言葉が好きだと言うようにしています。いい言葉ですよね。何が好きかを考えるのは、大変だけれど楽しいものじゃないですか? 作っていても楽しかったですね。

読者参加型の本ですから、読者が本に書きやすいように心がけました。本の途中に手書きで「あの、読んでいるだけではふつうの本とおなじになっちゃう。そろそろ何か書いて(描いて?)みませんか?」とあります。これが好評みたいですね。子どもは迷わず書くそうですが、大人はなかなか書けないらしいですよ。

言葉はスキンシップ 子どもを膝に乗せて絵本を読んで

おならうた

▲「いもくって ぶ」など、おかしくてリズミカルな文章と迫力ある絵に、笑わないではいられない『おならうた』(絵本館)。絵は飯野和好さん

僕は朗読を長く続けていますが、観客が違えば、反応も必ず違いますね。大人ばかりなのか、子どもが多いのか、地方によっても違います。だから、数冊持って行ってその場で読む本を決めるということがよくあります。子どもに人気なのは『おならうた』。これは必ずウケますね。

前にね、本を読んであげる時に子どもを自分の前に座らせている、というお母さんの話を聞いて、びっくりしちゃった。観客じゃないんだから(笑) 本を読んであげるのはスキンシップのひとつだと思います。だから、膝に乗せて同じ方を向いて、読んであげて欲しい。それから、ほかのおもちゃと同じように、絵本でも遊んでいいと思いますよ。

会話することって、もともとスキンシップなんですよね。みんな忘れているだけで。実際の会話は、意味のある文章だけではなく、「ああ」とか「そうそう」とか、笑ったり相づちを打ったり、そういう意味のない部分があるでしょう? それが潤滑油になって、「この人はわかってくれたな」と感じる。それと同じで、お母さんの声や抑揚、体の温かさが、読んでいる本の言葉以上に伝えることがあるんじゃないでしょうか。

絵本を選ぶ際は、まず、お母さんが好きな本を選ぶべき。だって、読んでいる方が楽しくなかったら、聞いている子どもも楽しいはずないでしょう? トイレトレーニングとか好き嫌いをなおすとか、そういう役割の本もあると思いますよ。でも、これを与えれば子どもはこう進歩するだろう、っていう教育的な発想ではなく、一緒に楽しむことが一番大切なんじゃないかな。


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