絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『それはすごいなりっぱだね!』の絵でおなじみの絵本作家・高橋和枝さんにご登場いただきます。読んだ人を癒してくれるかわいいクマやイヌ、ネコなどのキャラクターはどうやって生まれたのでしょうか? 新作『もりのだるまさんかぞく』の制作エピソードや、絵本を選ぶ際のアドバイスなどを伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1971年、神奈川県生まれ。東京学芸大学卒業。イラストレーター、絵本作家。2001年、『くまくまちゃん』(ポプラ社)で絵本作家デビュー。作品に『それはすごいなりっぱだね!』(作・いちかわけいこ、アリス館)、『ねこのことわざえほん』(ハッピーオウル社)、『りすでんわ』(白泉社)、『くまのこのとしこし』(講談社)、『もりのだるまさんかぞく』(教育画劇)などがある。
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▲くまくまちゃんののんびりライフが魅力的な高橋和枝さんのデビュー作『くまくまちゃん』(ポプラ社)
本にかかわる仕事をしたいという思いは子どものころから漠然とあったんです。でも、「絵本をつくりたい」とまで、具体的に思ったことはありませんでした。
絵本作家としてのデビュー作は『くまくまちゃん』です。でも、その前にデザイナーとして勤めていたステーショナリメーカーで、ギフト絵本を数冊出しています。封筒がついていて、そのままプレゼントにできる、本屋さんにも文具屋さんにも置けるタイプの本でした。ただ、まだ実験段階の企画だったからか、絵を描くのは「業務時間外にやって」と言われてしまって(笑) その分、決まっていたのはテーマだけで、あとは自由にやらせてもらいました。
その企画以外では、基本的には便せんや封筒のイラストやデザインの仕事をしていました。ただやはり便せんのために描く絵というのは、季節感のあるものなど、ある程度決まっています。何年か続けていると、似たような絵をローテーションで描いているような感じになってきて……。もっといろんなものを描けたらいいな、やめる潮時かなと思うようになりました。
その後、会社を辞めて、たまたま知っていたポプラ社の編集の方のところへイラストを持って行きました。そこで「絵本をつくりませんか?」と言っていただいたんです。その時、これだったら絵本にできるかもと思ったのが、以前便せん用に描いていたクマでした。
このクマを描いた当時は仕事が忙しく、通勤も辛くて、とても疲れていたんです。それが、こんなクマが自分の中に住んでいてだらだら暮らしている、と思ったら、なんだか元気が出てきて。この気持ちを、共有できる人がいるんじゃないかと思って、『くまくまちゃん』が生まれました。
このころから、かわいいことってすごく素敵なことだなと思うようになったんです。かわいい顔を描いているときって、「かわいくなるといいな」と、息をつめて描いているようなところがあります。描くことで自分も救われるような気がします。今から思うと、くまくまちゃんが私の背中を押してくれていたのかもしれません。
▲「『来年』ってどんなもの?」クマの子どもが、お正月を迎える準備をする『くまのこのとしこし』(講談社)
私もクマの絵本をよく描いていますが、昔から物語にはクマがよく登場していると思いませんか? イヌやネコほど身近な動物ではないのに。「クマが後ろ足で立った姿が、人の立ち姿に似ているから」と言った人がいて、なるほどなと思っています。
くまくまちゃんについては、本物のクマではないけれど、どこかの森に住んでいるなと思えるクマにしたかったんです。動物園に行って実物を見たり、図鑑を見たりもしましたが、描くときは一旦忘れます。一回自分の中に飲み込んで、クマはこういう形だと意識はしますが、描くときはリアルでありすぎず、すべてが画面のなかに溶けこんでるようにしたいと思っているんです。
描いているのは、自分自身なのかもしれません。だから、すべてをコントロールしたいと思ってしまうのかも。
アリス館の元編集長の後路好章さんに、「ありのままの自分を表現しなさい。ちょっとだけそこに理想をふくませて」と言っていただいたことがあります。胸にストンとくる言葉で、強く印象に残っています。
それ以来、理想を反映しつつ、でも同時にできるだけ自分に正直なものをつくりたいと思っていて、その狭間にある答えを探しています。
▲繰り返しが楽しい一冊『それはすごいなりっぱだね!』(作・いちかわけいこ アリス館)
『なに たべてるの?』『それはすごいなりっぱだね!』『まっくらまっくら』と、いちかわけいこさんの文章の絵本を3作描いていますが、実は自分自身、あんな絵を描くとは思っていなかったんです。
どの作品にもネコが登場しますが、実際に自宅でネコを飼っていつも見ているからか、自分や理想を投影することなく、ネコそのものを描いています。そんなネコの絵を後路さんがご覧になって、いちかわさんの絵本の絵を描くよう声をかけてくださいました。「この本にはこのネコがあっていると思うの」って。自信はなかったのですが、引き受けてしまいました。
小さい子ども向けの絵本を描くのは初めてだったので、描きなれず苦労して……。後路さんには「あなたならできる」「できるまで待っているから」と言われたんですが、実はちょっとプレッシャーでした(笑) でも、生き生きとしたいちかわさんの言葉に負けないよう、嘘のない絵を描きたいと心がけました。小首をかしげたかわいいイヌも、性格が悪いようなネコも、自分の正直な姿なんです。
私は、そのときどきに「答え」があると信じてがんばるところがあるんです。後路さんは、描いて欲しいと思っているものの「答え」をはっきりと伝えてくださる方でした。そういう方ってそうはいない。まるで学校に行っているかのような貴重な体験でした。
つくっている最中はとても大変で、後路さんの「答え」と自分の絵が違うのはわかるけれど、何が違うのかがわからず、完成まで1年以上はかかったと思います。ただ最後には、納得がいく絵になりました。
またその「答え」にたどり着くまでの過程で、こういう風に描けるんだと自分が開放されたような感じを味わえて、おもしろかったです。絵本作家として、転機となった作品と言えるかもしれません。
……高橋和枝さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)