絵本作家インタビュー

vol.116 絵本作家 高橋和枝さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『それはすごいなりっぱだね!』の絵でおなじみの絵本作家・高橋和枝さんにご登場いただきます。読んだ人を癒してくれるかわいいクマやイヌ、ネコなどのキャラクターはどうやって生まれたのでしょうか? 新作『もりのだるまさんかぞく』の制作エピソードや、絵本を選ぶ際のアドバイスなどを伺いました。(←【前編】はこちら

絵本作家・高橋和枝さん

高橋 和枝(たかはし かずえ)

1971年、神奈川県生まれ。東京学芸大学卒業。イラストレーター、絵本作家。2001年、『くまくまちゃん』(ポプラ社)で絵本作家デビュー。作品に『それはすごいなりっぱだね!』(作・いちかわけいこ、アリス館)、『ねこのことわざえほん』(ハッピーオウル社)、『りすでんわ』(白泉社)、『くまのこのとしこし』(講談社)、『もりのだるまさんかぞく』(教育画劇)などがある。
クマネコ日記 http://kumanekonikki.jugem.jp/

編集者との会話から育った『もりのだるまさんかぞく』

もりのだるまさんかぞく

▲森に引っ越してきただるま一家のちょっと変わった日常をゆかいに描いた『もりのだるまさんかぞく』(教育画劇)

『もりのだるまさんかぞく』のだるまの家族はもともと、ある雑誌の目次に描いていたイラストだったんです。その絵を見た教育画劇の編集の方が声をかけてくださって絵本になりました。

私はオチを考えながら話すことができないんですが、『もりのだるまさんかぞく』の編集者さんは、そんな私の話をとてもおもしろがってくれたんですよ。「トイレは描きたい」「文章をポップにしよう」「もっと癖を出した方がいい」など、彼女といろいろと話すうちに、そこからまた別のアイデアの芽が出ることも多かったです。これなら彼女に喜んでもらえるかな?と思ったものがそのままお話になった一冊です。

編集者の方から、自分とは違う意見を言われることもあります。キャラクターは「私が言わないことは言わない」といったように、反射的に「ダメ」と思ってしまうこともあります。ただ、最終的にはこだわりを捨ててできるだけ譲るように心がけています。自分だけでは小さくまとまりがちですから。

彼女はすごくいい最初の読者でいてくれました。彼女が、私の軽かったり、ひとりほくそ笑んでいたりするところをおもしろがってくれたおかげで、自分に正直でありながら、楽しくポップな作品になったと思います。

何気ない日常の、小さいけれどとても大切なこと

りすでんわ

▲「でんわ」を初めて知ったりすたちが「でんわ」をつくったら……。『りすでんわ』(白泉社)

『くまくまちゃん』や『りすでんわ』、『もりのだるまさんかぞく』などの自作絵本は、どれも何気ない淡々とした日常の中の小さなできごとを描いています。小さいできごとや小さい気持ちを大切にしたいと思っているんです。

以前絵を描かせていただいたこともある童話作家の森山京さんは、私が理想としていることを書かれています。代表作の『きいろいばけつ』には、小さな動物たちの小さなできごと、それによって生じた小さい心の動きが大事に書かれていると感じています。

どうでもいいようだけれど本当はどうでもよくないことって、日常にもたくさんありますよね。『りすでんわ』では小さな箱の中につめこむようなイメージで細やかに描いたり、『もりのだるまさんかぞく』では冗談交じりにしたりと、できるだけいろいろな表現を通して、絵本という形にしていきたいと思っています。

小さな心の動きは、小さすぎて見失いがちです。でも、そんなことこそ絵本を通じて伝えたいことだと思っています。

お母さんの直感に響いた本は、子どもにも響くはず

絵本作家・高橋和枝さん

『それはすごいなりっぱだね!』などで、いちかわけいこさんの絵本の絵を描いたことは、とても勉強になりました。いちかわさんは読み聞かせの活動をされていて、「子どもに聞かせる」「子どもに読ませる」ということについて、とても深く考えていらっしゃる方なんです。読み聞かせを意識した言葉のダイナミズムなどは、自分の中にまったくないことなので刺激になりました。

絵本っておもしろいなぁと改めて思いました。シンプルな言葉で、いろんなことをページに閉じ込めることができるんですよね。『それはすごいなりっぱだね!』では、同じ言葉の繰り返しとその変化を、絵によってパワーアップしていけたらいいなと思って描いています。めくるたびにびっくりしてもらえたらうれしいです。

私自身は、読み聞かせが苦手で……。甥っ子に読んだときも、あまり反応がなくて途中で心細くなっちゃいました(笑) 終わってみればよく聞いていたようで、おもしろかったみたいなんですが。ですから絵本作家として、「こう読み聞かせてほしい」ということは特にありません。逆にどうやって読んでくださるのか、すごく興味があります。ぜひ、聞かせてほしいです。今後絵本を作っていく上で少しずつ取り入れていきたいところです。

ただ、絵本をかわいがってほしいな、とは思っています。本屋さんで手にとった時に、「かわいい!」と思っていただけるような絵本をつくろうと、いつも心がけています。本って、形がまずかわいいですよね。しかも、読むとおもしろい。私がくまくまちゃんのかわいい顔を描いて温かい気持ちになったように、みなさんが絵本を見て少しでも幸せな気分になってもらえたらうれしいです。

本を選ぶときは、「これ!」という直感を大切にしてほしいですね。縁がある本は表紙など装丁からして縁があると私は感じています。直感に響いたということは、その本のうちの何かを、その時のお母さん自身が必要としているんだと思います。そういったものは、お子さんが受け取って悪いものであるはずがありません。きっと子どもの心にも響くはずです。


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