絵本作家インタビュー

vol.115 絵本作家 松成真理子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、『まいごのどんぐり』や『じいじのさくら山』などでおなじみの絵本作家・松成真理子さんにご登場いただきます。子どもならではの心情を生き生きと描いたお話や、あたたかくやさしい色彩の絵は、どのようにして生まれるのでしょうか? サトシンさんとの新作『おかあさんだもの』の制作エピソードや、絵本を通じて伝えたい思いなども伺いました。(←【前編】はこちら

絵本作家・松成真理子さん

松成 真理子(まつなり まりこ)

1959年、大分県生まれ、大阪育ち。京都芸術短期大学(現・京都造形芸術大学)卒業。イラストレーター、絵本作家。『まいごのどんぐり』(童心社)で第32回児童文芸新人賞、紙芝居『うぐいすのホー』(童心社)で第43回五山賞奨励賞受賞。主な絵本に『じいじのさくら山』『ふでばこのなかのキルル』(白泉社)、『ぼくのくつ』『せいちゃん』(いずれもひさかたチャイルド)、『ころんちゃん』(アリス館)、『こいぬのこん』『いまなんじ?』(学研)、『たなばたまつり』『はるねこ』(いずれも講談社)などがある。

編集者さんの妊娠・出産を経て描いた『おかあさんだもの』

サトシンさんとの絵本『おかあさんだもの』は、赤ちゃんが生まれた日のことを描いたお話です。

編集者さんからこのお話の絵をお願いされたときは、出産経験のない私には無理だと思って、断ろうとしたんです。でも、「どうしてもだめですか?」と聞かれて、「いや、どうしてもっていうわけでは……」と答えたら、「じゃあやりましょう!」と(苦笑)

お話を書いたサトシンさんは男性だし、私は子どもを産んでいないし、大丈夫かなって思ったんですけど、ちょうどそのとき、その編集者さんが妊娠されたんですね。出産・育児で仕事をお休みする間、担当をほかの方に引き継ぐという話もあったようですが、こういう本だからということで、結局そのままその方が担当されることになったんです。おかげで、妊娠から出産までの流れを近くで見させてもらうことができました。

おかあさんだもの

▲わが子が生まれた日の感動を思い起こさせる一冊『おかあさんだもの』(アリス館)。文はサトシンさん

絵を描くにあたって、出産にまつわるイメージを自分の中に入れておきたかったので、いろいろと取材もしました。編集者さんが産院に行くときに同行して、超音波の画像を一緒に見せてもらったり、映画「うまれる」の上映会に足を運んでみたり…… 生まれたばかりの赤ちゃんも見せてもらいました。『おかあさんだもの』に描いた、生まれたばかりのおさるさんのような赤ちゃんは、その編集者さんの赤ちゃんがモデルなんですよ。

サトシンさんが絵本の最後に「『出産の日を思い出す』ことは、すべての人にとって意義のあること」と書いてらっしゃるんですが、私もこの絵本の絵を描いていて、本当にそれはその通りだなと思いました。私はお母さんではないけれど、お母さんから生まれてきた存在ではあるわけで…… それに、おなかの大きい妊婦さんや幸せそうなお母さんを見ていれば、同じ女性として何かしら感じるものはありますからね。

お母さんの気持ちで描くのではなく、もう少し客観的に、お母さんの気持ちを見守るような視点で描けたのかなと思っています。

絵本を通じて伝えたいのは、一人じゃないよってこと

ぼくのくつ

▲新しい靴をもらった男の子の心情を生き生きと描いた『ぼくのくつ』(ひさかたチャイルド)

落ち込んでいるときに、たとえば手紙をもらったりとか、そういったちょっとしたことがきっかけとなって、気持ちがすっと楽になることってありますよね。私は、そんなきっかけとなるような絵本が描きたいと思っているんです。

その絵本を開いたことで、今よりちょっと元気になれるような絵本。元気な人は元気なままで。元気がない人に元気を出してって言うつもりはないんですけど…… 一人じゃないよってことを、伝えたいのかもしれませんね。味方になってくれる人は絶対いるよって。それは、私自身が不安だったときに言われたかったことなんだと思うんですけど。そういう絵本になれてたらいいなと思います。

友達がいなくて悩んでいる子はきっと、友達がほしいほしいって強く願っていると思うんですけど、その思いがあれば、絶対いつか友達はできると思うんですね。まずは、相手のことを好きになればいいんです。自分の心を閉じたまま好かれたいって願うのではなく、まずは自分から心を開いていけば、相手も心を開いてくれる…… 私も昔はそういうことがわからずにいたので、私の絵本が、それに気づくためのヒントになればうれしいですね。

絵本がつなぐ、親子の幸せな時間

こねこのさんぽ

BabyKumonセットの絵本『こねこのさんぽ』では、瞳が印象的な愛らしい小猫を描かれています。文は石津ちひろさん

甥っ子が小さい頃、ときどき一緒に寝ていると、甥っ子の肌と私の肌がべったりくっつくことがあって…… それがもうめちゃくちゃ幸せだったんですね。このまま離れないで~!って思うんですけど、寝相の悪い彼は、寝ている間に一回転くらいするので、そのうち離れていってしまいます(笑)

こんな、子どもがそばにいるだけで幸せっていう感覚は、子育て中のお母さんはいつも味わっているんでしょうね。私は限られた時間しか一緒にいられないけど、お母さんはちょっと生意気になるまでは毎日ずっと一緒にいるわけですから、幸せなことですよね。

私は子どもの頃、絵本をそれほど読んでもらってなかったんですけど、その代わりによく母から怖い話を聞かせてもらっていたんです。火の玉の話とか、怖くてたまらないのに、聞かせて聞かせてってせがんで…… 怖い場面になると「きゃー! こわい!!」って言って、お母さんにしがみつくんです。寄り添っている時間が好きだったんでしょうね。

絵本はそんな風に、親と子が寄り添うきっかけをつくるものだと思うんです。小さい頃にお母さんやお父さんから読み聞かせをしてもらっていた子が、大きくなってから昔読んでもらった絵本を見て、子ども時代を思い出すってことも、きっとあるでしょう。それってすごく幸せなことですよね。

絵本を通じて親子が笑顔になれる時間が増えたらいいなって思います。


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