絵本作家インタビュー

vol.51 絵本作家 石津ちひろさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『くだものだもの』や『しりとりあそびえほん』などでおなじみの絵本作家・石津ちひろさんです。回文や早口言葉、しりとり、なぞなぞなどの絵本をたくさん生み出している石津さんは、まさに言葉遊びの達人! 石津さん流の回文のつくりかたや、子育て中の思い出、人気作の制作エピソードなどを伺ってきました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・石津ちひろさん

石津ちひろ(いしづ ちひろ)

1953年、愛媛県生まれ。早稲田大学文学部仏文科卒業。3年間のフランス滞在を経て、絵本作家、翻訳家に。『なぞなぞのたび』(絵・荒井良二、フレーベル館)でボローニャ児童図書展絵本賞、『あしたうちにねこがくるの』(絵・ささめやゆき、講談社)で日本絵本賞、詩集『あしたのあたしはあたらしいあたし』(理論社)で三越左千夫少年詩賞を受賞。『くだものだもの』(絵・山村浩二、福音館書店)、『しりとりあいうえお』(絵・はたこうしろう、偕成社)、訳書に「リサとガスパール」シリーズ(ブロンズ新社)ほか多数。

大人になってから知った絵本の楽しさ

『まさかさかさま 動物回文集』

▲「夜起きぬタヌキおるよ」「ゾウくん、パン食うぞ」など、遊び心満載の回文絵本『まさかさかさま 動物回文集』(河出書房新社)。絵は長新太さん

子どもの頃から本が大好きでした。本がお友達みたいな感じで、時間があれば本ばかり読んでいたんです。ただ、絵本はあまり読んでなくて、もっと読み物的なものをたくさん読んでいました。

絵本って楽しいなと気づいたのは、大人になってから。大学卒業後、3年ほどフランスに留学していたんですね。帰国してからは、フランス語の先生や舞台関係の翻訳の仕事をしていたんですが、時間だけはいっぱいあったんです。それで、毎日のように図書館に通うようになって。図書館は大きな公園のはじっこにあったので、公園を通って図書館に行く、その道も気に入ってたんですよ。

最初は絵本の本棚は素通りして、詩集や小説の並ぶ本棚の方に行ってました。でもあるとき、何気なく絵本を手にとって見てみたら、こんなに楽しいんだ!と気づいたんですね。図書館だとその場で読めるので、本当にいろんな絵本を読みました。その頃に出会って楽しませてもらった、長新太さんや片山健さん、スズキコージさん、宇野亜喜良さんなどの描くダイナミックな絵本は、今もとても好きです。

長新太さんには、私の初めての絵本『まさかさかさま 動物回文集』で絵をお願いしました。好きな作家さんと絵本をつくることができて、本当にうれしかったです。

石津さん流 回文のつくりかた

私の父は言葉遊びが好きで、よくしゃれを言ったりしていました。私を寝かせるときの歌もあったんですよ。「ちーたー ちんころ ころりとねむれ ねむったえがおは またかわいい」なんて感じで。言葉への興味はその頃に芽生えたのかもしれませんね。四国で生まれ育って、東京に出て、それからフランスに行って……その間に言葉をより客観的にとらえられるようになって、さらに興味が高まっていったというのもあるかと思います。

回文をつくるようになったのは、フランス留学中のことです。友達何人かとカフェに行ったときに、「回文をつくりっこしよう」という話になったんですね。私はそのとき回文がどんなものかさえ知らなかったんですけど、「上から読んでも下から読んでも同じ言葉」と教えてもらって、つくってみたんです。そうしたら、その場でどんどんできてしまって。

帰国後もたまに回文をつくっていたら、それを見た編集者さんから、もっとたくさんつくって絵本にしましょう!と言っていただいて。そうしてできあがったのが、『まさかさかさま 動物回文集』です。ちょうど娘が生まれた頃で、おっぱいを飲ませながらつくったこともありましたよ。

小学校の頃、父が映画館をやっていた時期があって、字幕つきの映画にもけっこう親しんでいたんですね。それで、文字が頭の中に焼き付けられるようになったのかもしれません。回文をつくるときも紙には書かずに、頭の中に文字を浮かべて考えています。

くだものだもの ことばあそびえほん
しりとりあそびえほん なぞなぞのたび

▲回文、しりとり、なぞなぞなど、石津さんの絵本には楽しい言葉遊びが満載! 『くだものだもの』(絵・山村浩二、福音館書店)、『ことばあそびえほん』(絵・飯野和好、のら書店)、『しりとりあそびえほん』(絵・荒井良二、のら書店)、『なぞなぞのたび』(絵・荒井良二、フレーベル館)

回文は、人とかかわりながらつくるのが一番楽しいですね。たとえばお花見をしながら、みんなで「さくら」という言葉で回文をつくってみるんです。「さくら」は逆に読むと「らくさ」になりますよね。真ん中に「ひ」と入れると、「さくら ひらくさ」。もうちょっと長いのだったら、「さくらひとつ ぱっとひらくさ」。講演会のときには、来てくださった方のお名前をつかって、即興で回文をつくることもあるんですよ。

なぞなぞや早口言葉など言葉遊びの絵本をつくるときは特に、リズム感を大事にしたいなと思っています。心と体に気持ちのいい絵本をつくっていきたいですね。

実話がもとに!『あしたうちにねこがくるの』

『あしたうちにねこがくるの』

▲どんな猫がくるのかな? 想像力広がる絵本『あしたうちにねこがくるの』(講談社)。絵は、ささめやゆきさん

娘が小学生の頃、移動教室で山登りに行ったことがあったんですね。そのとき、先生からうちに電話があって、「ゆりさん(娘さん)が、山登りのときに……」と切りだしたので、何があったんだろう?とかなり緊張して次の言葉を待っていたら、「猫を拾ったんです」って。「連れて帰りたいと泣いてるんですが、いいですか」と聞かれたので、「いいですよ」と答えました。ブルーの瞳とグレーの毛のきれいな猫だと聞いて、「グレーの毛の猫が好きなのでうれしいです」と言ったら、「それが実は、2匹いまして……」って(笑) それが我が家の猫、ミミとロロです。

偶然なんですが、親しい編集者から猫の絵本をつくってほしいと頼まれたのは、まさにその猫たちが来る日だったんです。それで、どんな猫が来るんだろうっていう、ドキドキする気持ちを『あしたうちにねこがくるの』という絵本にしました。それまで、絵本は言葉遊びか翻訳だけだったんですけど、この絵本でストーリー性のあるものをつくったので、そういう意味で私にとって記念すべき一冊です。

翻訳を担当している「リサとガスパール」のシリーズにも、もちろん愛着があります。文章も絵もすごく好きな作品なので、かかわれるということ自体がうれしいですね。

翻訳の場合は、すでに基盤となるものがあるので、そこから離れるわけにはいきませんよね。でも、そのまま日本語にしただけでは伝わりにくいこともあるので、原文の雰囲気をできるだけうまく伝えられるようにと心がけながら、言葉を選んでいます。


……石津ちひろさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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