絵本作家インタビュー

vol.110 絵本作家 きむらよしおさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ねこガム』や『ぎょうざつくったの』などの作品でおなじみの絵本作家・きむらよしおさんです。奇想天外なユーモア絵本で人気のきむらさんが、絵本づくりで大事にしているのは、”新しさ” ”驚き” ”不思議さ”という3つのキーワードとのこと。人気作の制作エピソードもたっぷり伺ってきました!(←【前編】はこちら

絵本作家・きむらよしおさん

きむら よしお(木村 良雄)

1947年、滋賀県生まれ。イラストレーター、絵本作家。主な作品に『じいちゃんのよる』『ぎょうざつくったの』『ワンワンぶらぶら』『ねこガム』(いずれも福音館書店)、『ゴリララくんのコックさん』をはじめとする「ゴリララくん」シリーズ、『はしれはしれ』『ふとんちゃん』(いずれも絵本館)、『三まいのおふだ』(文・長谷川摂子、岩崎書店)などがある。その独自のユーモラスな作風で人気を博している。

「ゴリララくん」シリーズが生まれるまで

「ゴリララくん」シリーズは、もともとは8ページだけのシンプルなもので、職業も花屋さん、パン屋さん、魚屋さんなど、10点以上考えていたんです。

中には銀行員なんかもあったんですよ。金魚のおばさんがポケットやかばんに小銭をいっぱい詰めて、ゴリララくんの働く銀行にやってくるんですけど、小銭がバーッと床に落ちたりして大変なことになるっていう話。全然子ども向きじゃないなってことで、ボツにしたんですけど(笑)

そもそも8ページだと短いから話も単純で、おもしろみがなかったんですね。それで、10点以上あった中からましな話3つを選んで、もう少し話を長くして、つくりなおしたんです。そうしてできあがったのが、『ゴリララくんのコックさん』『ゴリララくんのしちょうさん』『ゴリララくんのおぼうさん』の3作です。

ゴリララくんのコックさん
ゴリララくんのしちょうさん
ゴリララくんのおぼうさん

▲「ゴリララくん」シリーズ3部作『ゴリララくんのコックさん』『ゴリララくんのしちょうさん』『ゴリララくんのおぼうさん』(絵本館)

3つの中で、僕自身は『ゴリララくんのおぼうさん』が一番好きなんですよ。「あなたは誰ですか」「わたしは誰でもない」なんていう禅問答が繰り広げられる話なので、ちょっと難しいかなとも思ったんですけど、意味はわからなくてもいいと思っているんです。誰でもないって誰!?という驚きと不思議ささえあれば、それで十分かなと。だいたい僕自身、よくわかってないんです。哲学的なものですからね。誰でもない誰かがいる、そんな見方もあるんだと知ってもらえればそれでいいかなと思っています。

『ゴリララくんのコックさん』では、ちくわが大好きなゴリララくんが、ちくわの穴になんでもかんでも詰めていく様子を描いたんですけど、ちくわの穴も哲学ですよね。穴の部分はちくわなのか、ちくわではないのか。穴がなかったらちくわと言えるのか、言えないのか…… そんなおもしろさを味わってもらえたらうれしいです。

絵本づくりのキーワードは、新しさ、驚き、不思議さ

じいちゃんのよる

▲子どもみたいで、不思議な力を持ってるじいちゃんと僕の夏休み。『じいちゃんのよる』(福音館書店)

世の中で多くの人にうけるのは、“共感”だと思うんですね。

“共感”というのは、すでに知っていることなんです。自分が知っていることと同じだから、“共感”するわけですよね。たぶん情緒的な話というのは、ほとんどが“共感”だと思うし、たとえば乗り物絵本なんかも、自分が知っているものが出てきてうれしいという“共感”です。

もともと知っているもの、知っていることを本を通じて再確認して、より詳しく知ったり感動したりするというのは、それはそれで大事なことだと思うんですね。ただ、僕自身にとってそういうものは、それほどおもしろいものではないんです。

僕がおもしろいと思うのは、“新しさ”“驚き”“不思議さ”。だから僕のつくる絵本も、そういうものばかりなんです。毎回、“新しさ”“驚き”“不思議さ”をキーワードに、自分がどれだけおもしろがれるかってことを一番に考えて絵本をつくっています。

教育のことは僕はよくわかりませんけど、驚きや不思議さを経験するのも大事なことだと思うんですよね。怖さ、悲しさ、怒りなども含め、絵本を通じていろんなことを経験するのは、子どもにとってもいいことだと思います。

僕らは子ども時代に、驚きも不思議さも怖さも、実体験で味わってましたけどね。昔は親が仕事で忙しくて、子どものこともほったらかしだったから、夜の墓場で遊んだり、よその家の中を勝手に走り抜けたり、屋根の上に登ったり、もうやりたい放題。怒られることもしょっちゅうでした。そんな中で、いろんなことを経験したんです。

今の子どもたちはそういう体験はなかなかできないでしょうけど、絵本の中でなら、いつでも気軽に驚きや不思議さを味わえるんじゃないかなと思います。

絵本に理屈は不要! 親子でただただ楽しもう

絵本作家・きむらよしおさん

僕にはもう孫がいるんですけど、子どもが小さい頃には、絵本の読み聞かせもしてましたね。あとは、でたらめな話をつくって聞かせるっていうのも、よくやってました。寝る前にふとんに入って、とにかくびっくりするような話とか、笑っちゃう話とかを、その場その場で適当に話して聞かせるんです。おもしろがって、逆に寝てくれなかったりもしましたけどね(笑)

絵本を積極的に読み聞かせしている人の中には、子どもの教育に役立つからと考えている人もいるかもしれないけど、そういうことはあまり考えず、ただただ楽しく読めば、それでいいんじゃないかなと思います。だって、教育って正解がないでしょう。こうすればこういう結果が出るっていうのは、誰にもわかりませんからね。

それよりも、親子一緒に楽しく絵本を読んで、笑ったり驚いたりするのが一番。この作者は何を考えてこの絵本をつくったのか、なんてことも、別に考える必要ないと思いますよ。もちろん考えてもいいんですけど、絵を見るだけでも楽しいですから。理屈なんかはどうでもいいんです。ただただ楽しむ、その時間を大切にしてほしいですね。

僕は今後も、驚きや不思議さのある、新しい絵本を生み出していければと思っています。いくら斬新なものをつくったつもりでも、「きむらさんらしい」と人から言われたりもするから、どこか似たようなものになるかもしれないですけどね。それでも、毎回“きむらよしお”の枠を越えられるように、挑戦を続けていくつもりです。


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