絵本作家インタビュー

vol.110 絵本作家 きむらよしおさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ねこガム』や『ぎょうざつくったの』などの作品でおなじみの絵本作家・きむらよしおさんです。奇想天外なユーモア絵本で人気のきむらさんが、絵本づくりで大事にしているのは、”新しさ” ”驚き” ”不思議さ”という3つのキーワードとのこと。人気作の制作エピソードもたっぷり伺ってきました! 今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・きむらよしおさん

きむら よしお(木村 良雄)

1947年、滋賀県生まれ。イラストレーター、絵本作家。主な作品に『じいちゃんのよる』『ぎょうざつくったの』『ワンワンぶらぶら』『ねこガム』(いずれも福音館書店)、『ゴリララくんのコックさん』をはじめとする「ゴリララくん」シリーズ、『はしれはしれ』『ふとんちゃん』(いずれも絵本館)、『三まいのおふだ』(文・長谷川摂子、岩崎書店)などがある。その独自のユーモラスな作風で人気を博している。

絵本づくりは、考えているときが一番楽しい

絵本作家・きむらよしおさん

僕はもともと、デザイン事務所でグラフィックデザイナーとして働いていたんですね。パンフレットやチラシなど、広告制作が主な仕事だったんですが、いつも仕事が山積みで、時間に追われる毎日でした。求められるのは、とにかく早く仕上げること。でも、ほとんど完成していたものが、クライアントの一声でころっとひっくり返る、なんてこともよくありました。

それで、何かほかに、もっと自分らしい表現のできるものはないかと考えて、30代の頃から絵本をつくり始めたんです。何から始めたらいいのかわからなかったので、とりあえず出版社がやっていた新人賞に応募してみたら、最初に応募した作品が佳作になって。これで佳作がとれるんやったらいけそうかなって思ってね(笑) もちろん最初の頃は、仕事も続けながらですけど。休みの日とか、家に帰ってからの時間で描いていました。

何もないところからアイデアは生まれないので、絵本をつくるためには、いろんなものを見聞きすることが大事ですね。たとえば本を読んでいる中で、おもしろいな、気になるなと思える言葉と出会ったら、それをひとまずメモしておく。そしてその言葉からどういう風に新しい世界を広げるかを考えていくんです。

絵のタッチにしろ画材にしろ、内容にしろ、常に新しいもの、それまでとは違うものをつくっていきたいと思っているから、毎回が挑戦ですね。でも、生みの苦しみみたいなものは、それほどありません。考えるのは楽しいですから。絵を描く作業もそれはそれで楽しいんですけど、やっぱり考えているときが一番楽しい。こんなにおもしろいこと思いついた!って瞬間が、絵本作家として一番幸せなときですね。

餃子好きが描いた餃子の絵本『ぎょうざつくったの』

ぎょうざつくったの

▲お母さんの留守中、友だちと一緒にぎょうざづくりに大奮闘!『ぎょうざつくったの』(福音館書店)

子どもも大人も、食べ物の話には誰でも食いつきますよね。それで、何か食べ物の絵本をつくろうと思ったとき、真っ先に浮かんだのが餃子の話でした。なんでって、単に僕自身が餃子が好きやから(笑) そうして生まれたのが、お母さんの留守中に子どもたちが餃子づくりに挑戦する、てんやわんやのストーリー『ぎょうざつくったの』です。

昔から料理はしていたんですけど、一時期、餃子に凝ったときがありまして。餃子のレシピばかり載っている本を買ってきて、いろいろつくってみたんです。具もひき肉だけじゃなくて、いろんなものを試しました。『ぎょうざつくったの』では、ひき肉がなくて代わりにツナ缶を使うんですけど、それもだいぶ前に試したことがあるんです。ただ、あんまりおいしくない(苦笑) 臭みを消すために大葉とか入れたりしたんですけど、だめですね。やっぱりひき肉が一番です。

『ぎょうざつくったの』では、子どもたちが皮から手づくりするんですけど、自分でつくった皮は結構おいしいんですよ。市販の皮ほど薄くはできなくて、たいてい分厚くなるんですけど、それがまたもちもちしていいんです。形もいびつだし、でこぼこだったりして、包みにくかったりするけど、皮からつくるってこと自体、楽しいですから。絵本を読んだあと、親子で挑戦してみるのもいいかもしれませんね。

あっという間にできあがった『ねこガム』

『ねこガム』は、どうやってできたんやったか、自分でもよく覚えてないんですけど、とにかくあっという間にできた絵本です。出版社からもすぐにOKが出て、むちゃくちゃ楽にできました。これは結構めずらしいことなんですけどね。

たぶん、ガムを何とかしようという思いがあったんでしょうね。途中で男の子とネコが逆転するってとこだけがミソの単純な話なので、自分では、単純すぎてそれほどおもしろくないかと思ってたんですけど、読者の方たちからの反響の多い絵本になりました。

はしれはしれ ふとんちゃん
ねこガム 三まいのおふだ

▲作品によって絵のタッチもがらっと変わる、きむらよしおさんの絵本。左から『はしれはしれ』(絵本館)、『三まいのおふだ』(文・長谷川摂子、岩波書店)、『ねこガム』(福音館書店)、『ふとんちゃん』(絵本館)

すぐにできあがった絵本といえば、『はしれはしれ』もそうです。高橋源一郎さんの小説『優雅で感傷的な日本野球』の中に、ニワトリとオオカミの追いかけあいのシーンがあるんですけど、それがおもしろかったので、そこをぐっと拡大して、ラクダとライオンの追いかけあいの話にしました。自分でつくってておもしろいと感じるものは、一気にできあがりますね。時間をかけてぐちゃぐちゃ考えてるとあかんな、と思います。

新作の『ふとんちゃん』は、ふとんがいろんなものに変身していく話です。前に『三まいのおふだ』で、おばあさんの着物をむちゃくちゃ派手に描いたことがあったんですけど、それが自分で気に入ってたんですね。それで、柄は違うんですけど、派手なふとんを題材にナンセンスなものをつくろうと思ったんです。

途中で赤ずきんちゃんに変身したりもしますけど、そこら辺はもう相当、無理矢理ですよね。「なんでふとんちゃんなの?」と聞かれても、「ふとんやからふとんちゃん」としか答えようがない(笑) 自分でもどうしてそうなったのか、よくわからないんですけど、その不思議さを楽しんでもらえたらと思います。


……きむらよしおさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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