絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『夏平くん』や『パパとぼく』などでおなじみの絵本作家・あおきひろえさんです。絵本作家・長谷川義史さんの奥様で、3人兄弟のお母さんでもあるあおきさん。絵本作家になられたきっかけや絵本の制作エピソード、子育てをしながら毎日を楽しむコツなど、いろいろとお話を伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1963年、愛知県生まれ。京都精華大学美術学部デザイン科卒業後、大阪のイラストレーター集団・株式会社スプーンを経てフリーランスに。主な作品に『パパとぼく』『きょうはパン焼き』『夏平くん』(絵本館)、『じゃんけんほかほかほっかいどう』(文・長野ヒデ子、佼成出版社)、『ハルコネコ』(教育画劇)、『ぼんちゃんのぼんやすみ』(講談社)、『おめでとう おめでとう』(文・中川ひろたか、自由国民社)などがある。
あおきひろえホームページ
http://www.eonet.ne.jp/~mousebbb/mouse_top.html
▲いつもお母さんにしかられてばかりのハルコは、気ままなネコがうらやましくなって、ひみつのネコドーナツをパクン! すると……。『ハルコネコ』(教育画劇)
私は子どもの頃から母と仲が良くなくて、自分は母から拒否されているんじゃないかと悩んでいたんですね。小学生の頃には、リュックに荷物を詰めて家出しようとしたこともあったし、大人になってからもその悩みは消えませんでした。
でも、「こんな家、早く出て行きたい!」「お母さんなんてもう知らない!」という気持ちの裏側には、「お母さんにもっと認められたい、愛されたい」という気持ちもあって…… 『ハルコネコ』は、そんな母親への悶々とした気持ちをぶちまけるようにしてつくった絵本です。
私がいくつになっても母を求めるように、息子たちも私を思ってるんだろうなと考えると、私はその思いにきちんと応えられているのかなとか、産んだというだけでどうしてそこまで愛してくれるんだろうとか、いろんな気持ちがわいてきました。そして、親子の関係って、親が子どもに無償の愛を与えるものだと思い込んでいたけれど、自分が親になってからは、むしろ子どもが親に愛を与えてくれているんだなと思うようになったんです。
でも世のお母さんたちは、そんな子どもの気持ちをわかってるのかなって思って…… だから『ハルコネコ』は、お母さんたちに「あなたたちはこんなにも子どもに愛されているんですよ」と伝えるための絵本でもあるんです。
最後はお母さんが迎えに来てくれるという、幸せなラストで締めくくりました。これは私の理想であって、現実ではないんですけど、子どもはこんな風に母親を求めているんだということを絵本を通じてぶつけたことで、私自身の母に対する悶々とした気持ちも吹っ切れて、もういいやって思えるようになったんですね。絵本に描くことで私自身、癒やされたというか…… 表現することってすごく大切なんだなと改めて思いました。
▲あおきひろえさんならではのポップな色合いが魅力の『じゃんけんほかほかほっかいどう』(佼成出版社)。文は長野ヒデ子さん
広告の仕事をしていた頃は、クライアントあっての仕事なので、自分の納得のいかない絵を描かなければいけないこともあって、なかなか気持ちが乗らないことも多かったんですね。
でも今は絵本作家として、自分の思うように絵を描けているので、絵描きとしてとても幸せです。だからいつも、一枚一枚思いを込めて、自分がよしと思える絵を描くようにしています。ただ、100%よしと思える絵というのはないですね。そういうのはたぶん一生描けないと思います。でも、まだだめだ、もっともっとと思いながらも、今できる精一杯の力で描いています。
長谷川さん(あおきひろえさんのご主人で、絵本作家の長谷川義史さん)とは、制作中の絵本について意見交換することはほとんどありません。絵本作家としてはライバルですからね。といっても、ライバル意識を強く燃やしているの私だけで、向こうは全然そんな気なさそうなんですけど(苦笑) イラストレーター歴は私の方が長いのに、絵本は長谷川さんの方が先に出したので、そのときはもう悔しくて悔しくて、一晩中歯ぎしりしてました。
できあがった絵本への感想も、聞かれない限りはあまり言わないんですけど、長谷川さんはやっぱり絵がうまいので、基本的にはいつも褒めてますね。ある意味、私が褒めて褒めて伸ばしてあげた、みたいな(笑) なのに向こうは、私のこと全然褒めてくれないんですよ。前に褒められたとき、私がひねくれて「そんなこと思ってもないくせに」なんて言っちゃったものだから、それ以来褒めてくれなくなっちゃって。ほんとはもっと褒められたいな、なんて思ってます(笑)
▲趣味で始めた落語。「大川亭ひろ絵」という高座名は桂三枝師匠(現・桂文枝師匠)からもらったそうです
子どもが3人いたので、子育て中は本当に忙しい日々を過ごしてましたね。家事もあるし、子どものこともできる限り見てあげたいと思うと、仕事の時間を確保するのも大変で、いつもちょっとの合間で集中して描いてました。子どもたちが「腹減った~!」って帰ってきたら、すぐ営業終了、みたいな感じで。今はもう一番下の息子も中学生になったので、親の出番もかなり少なくなってきましたけどね。
ただ私の場合、どんなに子育てで忙しい時期でも、好奇心のアンテナだけは常に張り巡らせていました。そうしていないと、いい絵が描けなくなっちゃう気がするんですよね。子育てに一生懸命になるのはいいけれど、それだけだとつまらない人になってしまうと思うんです。
子どもはいつかみんな独り立ちしていくんだから、親は親で、できるだけ早く自分がおもしろがれることを見つけておかないと、いつまでも子離れできずに必死で子どもに干渉する、やばいお母さんになっちゃうかもしれませんよね。だから、おもしろいことを見つけたら、すぐに飛びつくように心がけています。
子どもが小さかった頃は、ほかのお母さんたちと月に1回、演劇や映画を観に行く日をつくっていました。これはクラブ活動だから必ず行かないといけないんだと言って、子どもを夫に任せて出かけてたんです。そういう時間って、無理矢理にでもつくらないと、なかなかとれませんからね。
お父さんは、一緒に子育てしようねなんて言ったって、仕事も遊びも何ひとつあきらめないじゃないですか。だから、月に1回くらい何が悪いんだ!って、強い態度で(笑) みなさんも、子育てで忙しい毎日かもしれませんけど、自分のための時間をちゃんと確保して、楽しい日々を過ごしてくださいね。