絵本作家インタビュー

vol.104 絵本作家 おくはらゆめさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『ワニばあちゃん』や『くさをはむ』などの作品で注目を集める絵本作家・おくはらゆめさんです。読む人をほわーんと幸せな気分にさせてくれる絵本の数々は、何気ない日常の中から自然と生まれてくるそうです。おくはらさんならではの絵本づくりや新作絵本の制作エピソードなど、たっぷりと伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・おくはらゆめさん

おくはら ゆめ(奥原 夢)

1977年、兵庫県生まれ。辻学園日本調理師専門学校卒業。デビュー作『ワニばあちゃん』(理論社)で第1回MOE絵本屋さん大賞新人賞、『くさをはむ』(講談社)で第41回講談社出版文化賞絵本賞を受賞。そのほかの作品に『チュンタのあしあと』(あかね書房)、『まんまるがかり』(理論社)、『ネコナ・デール船長』(イースト・プレス)、『やきいもするぞ』(ゴブリン書房)などがある。

何気ない日常が絵本につながっていく

チュンタのあしあと

▲すずめのチュンタとウメコおばあさんの楽しい交流を描く 『チュンタのあしあと』(あかね書房)

今、絵本作家としての仕事の合間に、近所の学童保育でアルバイトをしてるんです。それが本当に楽しくて。子どもたちを観察して絵本に生かそうとか、そういうつもりはまったくないんですけど、子どもたちの笑顔や泣き顔を見たり、憎まれ口を聞いたりするのは、私の絵本づくりに何かしらつながっているんだろうなと思います。

学童での時間だけでなく、散歩中に見た風景とか、電車に乗っているときに耳にした会話とか、日常のなんでもないことが絵本につながってる気がするんです。だから、出かけるときはいつもスケッチブックを持っていって、気になるものがあればスケッチしたり、いい言葉を思いついたらメモしたりしています。あとで見て「なんじゃこりゃ?」と思うものも多いんですけどね(笑)

そのときは大して気にならなかったことが、5年後ぐらいにすごく気になってくる、なんてこともあります。思い出し笑いをしているうちに、絵本の一場面が浮かんでくるんです。だから私、今や未来よりも、自分の過去に興味があるんですよね。部屋で一人でふふふ…って思い出し笑いするのが好きで、そうやって掘り起こしたものをふくらまして、絵本をつくっています。

石井くん(絵本作家・石井聖岳さん。おくはらゆめさんのご主人)とは、同じ環境で暮らしていて、散歩にもときどき一緒に行ったりするので、描く対象を取り合いになっちゃうこともあるんです。基本的には早い者勝ちなんですけどね。畑の中に鉄塔が並んでるのを見て、鉄塔描きたいなって思っても、石井くんが先に描くと宣言したら、あぁ鉄塔とられた……って(笑)

今住んでいる家には庭があって、庭っていいなぁってお互い思ってたんですけど、そのときは私が先に「庭の絵本、私が描く!」って言ったんですね。でも結局その絵本の企画は通らなかったので、「石井くん、庭描いてもいいよ」って言ったら、「もう今さら描かないよ」って。またそのうち、その気になったらどちらかが描くかもしれません(笑)

新作2作は、どちらも夜の絵本!

シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる みんなのはなび

▲空飛ぶシルクハットぞくは、一体何をしに来るの!?『シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる』(童心社)。ほのぼの楽しい夏の夜のお話『みんなのはなび』(岩崎書店)

新作の『シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる』と『みんなのはなび』は、偶然なんですが、どちらも夜のお話です。

以前、「シルクハットぞくはよなかのいちじにやってくる」というフレーズと、シルクハットぞくが集まってるシーンがふと頭に浮かんで、それを絵に描いたことがあるんですね。もう7、8年くらい前のことです。

でも、シルクハットぞくは一体何をしに集まるんだろうっていうのは、ずっと謎のままで…… シルクハットの中が変な髪型で、それを見せ合いっこするという説や、シルクハットぞくたちが集まってきて、一個の大きなシルクハットになって地球にかぶさるという説とか、いろいろあったんですけど、おととしのある日、あ、そうか! そうだったんだ!!って、謎が解けたんです。そうしたらすんなりと絵本のお話ができあがりました。実際に何をしているのかは、絵本を見て確かめてもらえたらうれしいです。

暗いシーンが多いので、怖がる子もいるかもしれませんが、そんな子には「早く寝ないとシルクハットぞく来るよ!」なんて感じで使ってもらうのもいいかもしれませんね(笑) でもシルクハットぞくは決して悪い人たちではないので、安心して読んでください。

『みんなのはなび』は、花火がパンパンパーン!とたくさん打ちあがる、夏の夜のお話です。初めて花火を見たタヌキのボーちゃんが、「おったまげた~」と言っておしっこをもらしてしまうんですけど、それがすごくかわいいんです。そのシーンが思い浮かんだとき私は、ボーちゃんのあまりのかわいさに、恋をしてしまって。ほっとけないタイプの、本当にかわいい子なんですよ。

母から聞いた話なんですけど、花火を見ておしっこをもらしてしまうっていうのは、私も1歳ぐらいのときにやったみたいです。花火が打ちあがるたびに、ジャージャーっておもらししちゃったとか。でもその後も花火は大好きだったので、きっとそのときも「うれしょん」だったのかなって気がしてるんですけどね(笑)

絵本づくりはとっても楽しい“遊び”

やきいもするぞ

▲焼き芋を食べたあとは、おなら大会のはじまり!『やきいもするぞ』(ゴブリン書房)

絵本の文章は、何度も声に出して読みながら考えます。「~だよ」と「~だね」、どっちの語尾にした方がいいかなとか、「ちょっとだけ」のところは2回繰り返した方がいいかなとか…… 買い物に行く途中、自転車に乗りながら「ちょっとだけ、ちょっとだけ」なんてつぶやいてるので、変な人と思われてるかもしれませんね(笑)

でも、そうやって声に出して繰り返すうちに、これが一番読んでて気持ちいいなっていうのがわかってくるんですよね。子どもに読み聞かせするお母さん、お父さんたちにも、気持ちよく読んでもらえてるとうれしいなと思います。

絵本をつくるときに心がけているのは、あっけらかんとしていること。意識して“あっけらかん”とするのは難しいので、うまくいかないときもあるんですけどね。『やきいもするぞ』なんかはまさに、あっけらかんとつくることができた絵本です。そういうときは、動物たちが勝手に動いてくれるので、私は成り行きに任せて描くだけ。うまくいくときは、本当にぱぱぱーっと仕上がっちゃうんです。

私は最初、「これはおもしろい遊びを見つけたぞ」と思って絵本を描き始めたんですね。最近は忙しくなってきて、“遊び”じゃなくて“仕事”に思えて、ちょっとつらくなってしまうこともあるんですけど、初心を忘れずに、“遊び”の感覚で絵本を描いていたいなと思っています。これからも絵本はこうあるべきとか、私はこういう作風だとか、あまり決めつけたりせずに、自由に楽しく絵本をつくっていきたいです。


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