絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回は、第17回日本絵本賞で大賞を受賞した話題作『もりのおくのおちゃかいへ』でおなじみの絵本作家・みやこしあきこさんにご登場いただきます。木炭と鉛筆を使ったぬくもりのあるタッチで、さまざまな世界を臨場感たっぷりに描くみやこしさん。絵本づくりで大切にしていることや、新作『ピアノはっぴょうかい』などについて伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1982年、埼玉県生まれ。武蔵野美術大学視覚伝達デザイン学科卒業。大学在学中から絵本を描き始め、2009年「ニッサン童話と絵本のグランプリ」で大賞を受賞、『たいふうがくる』(BL出版)で絵本作家デビュー。『もりのおくのおちゃかいへ』(偕成社)で第17回日本絵本賞大賞を受賞。そのほかの作品に『のはらのおへや』(ポプラ社)、『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)がある。
MIYAKOSHI AKIKO WEB http://miyakoshiakiko.com/
前に1年ほどドイツに住んでいたことがあるんですが、そのときに行ったオペラ座がとても素敵で、写真をいっぱい撮ってきたんですね。それで、いつか自分の絵本でも、こんな劇場を描きたいなと思っていたんです。ピアノの発表会を題材に選んだのは、そんな理由からです。
それから私自身、子どもの頃にピアノを習っていたので、発表会に出た経験があって。ピアノそのものはそれほど熱心ではなかったというか、どちらかといえば苦手なくらいだったんですけど、発表会のときは舞台袖とか幕の裏側とか、舞台裏がおもしろくて、こんな風になってるんだ!なんて、興味深く見ていました。昔から発表会そのものよりも、劇場の雰囲気や舞台裏が好きだったんです。
▲みやこしあきこさんの新作『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)。舞台袖で出番を待つ出演者側のドキドキと、ねずみの発表会を楽しむ観客側のワクワクが同時に味わえます
『ピアノはっぴょうかい』で最初に思い浮かんだのは、舞台袖で出番を待つ女の子の足元にねずみがやってくるというシーンでした。そこから物語は、ねずみたちの発表会というファンタジーの世界に入っていきます。
実はこの絵本のために、家でねずみを飼い始めたんです。資料を見て描こうと思ったら、なかなか思うような資料が見つからなくて、上野動物園に写真を撮りに行ったりもしたんですけど、暗くしてある上に動きが早いので全然撮れなくて……(苦笑) それなら思い切って家で飼おう!と。おかげでいろんな角度からねずみを描くことができました。
発表会って、緊張しますよね。私も人前に出るのが苦手なので、出番を待つ間の緊張はよくわかります。でも、音楽って何より楽しむのが一番。楽しんでいれば、発表会だってあっという間に終わると思うんです。なので、ねずみたちの発表会のシーンでも、楽しんでいる雰囲気を大事に描きました。歌も踊りもそろっていないけど、みんなが楽しい発表会。そわそわしている子もいれば、うっとりしている子もいます。ねずみたちの表情もひとつひとつ丁寧に描いたので、じっくり見ていただけたらうれしいです。
▲『もりのおくのおちゃかいへ』(偕成社)の見返しに描かれた、さまざまなアイテム。丁寧に描かれた手袋やフォークは、どれひとつとっても魅力的です
デビュー作の『たいふうがくる』は、「ニッサン童話と絵本のグランプリ」で大賞をいただいた作品ですが、絵本にするにあたって全面的に描き直しました。そのとき編集者さんに指摘されたのが、ベッドのマットレスの厚さ。最初はかなり分厚く描いてたんですけど、厚すぎると言われて、実際のマットレスを調べた上でちょうどいい厚さに描き直したんです。
私の絵はわりとリアルなので、少しでもおかしなところがあると気になってしまうんですよね。なのでその後は、なるべく実物や資料をじっくり見たり、写真を撮ったりして、リアリティを意識して描いています。
インテリアや雑貨など、ディテールも丁寧に描き込むようにしています。もともとインテリア雑誌を見たり、蚤の市などで雑貨を見たりするのが好きなんです。『もりのおくのおちゃかいへ』ではいろんなケーキを描きましたが、ケーキを描くのも好きで、普段からいいなと思うケーキがあったら写真を撮るようにしています。
『ピアノはっぴょうかい』では、光の加減もかなり意識しましたね。舞台袖の暗さと舞台上の明るさの対比とか、スポットライトの当たり具合とか、微妙な光の加減も大事にしたかったんです。なので印刷の際も、「ここはもうちょっと弱い光で」とお願いしたりして、思った通りの光になるよう色を調整してもらいました。
▲『ピアノはっぴょうかい』(ブロンズ新社)の制作時につくった観客席の席次表。特徴や性格もメモされています
絵本の魅力は、絵だけ見ても楽しめること。私自身、昔からわりと文を飛ばして絵だけ見てたりしていたので、私の絵本を見てくださる方たちにも、まずは単純に絵だけ見て楽しんでほしいなと思うんです。なのでいつも、絵だけでその世界の空気感が伝わるような、絵が語るような絵本を目標につくっています。
そのために心がけているのは、絵の中にいろんな情報を描き込むことです。主人公の子はどういう性格で、どういう服を着ているか、主人公の子の住む家を描く場合は、どんな間取りで、部屋のどこに何があるか……そういったことを、なるべく最初にきっちり決めてから描くようにしています。
『ピアノはっぴょうかい』のねずみたちの劇場を描く際は、事前に観客席の席次表をつくったりもしました。観客席のねずみたちも一匹一匹、見た目や性格に違いがあるはずなので、それを最初にしっかり決めて、どのページもその席次表に基づいて描いていったんです。このねずみがこっちのページではこんなことしてるね、なんて楽しんでいただくのもおもしろいかと思います。
絵本を読み聞かせするとき、読み手となるお母さんやお父さんは、どうしても文字ばかり追ってしまうと思うんですが、ときには文字を追うのをやめて、親子一緒に絵をじっくり見て味わってほしいですね。モノクロの絵は、小さな子にはちょっと怖く見えるかもしれませんが、お母さんやお父さんと一緒だという安心感があれば、きっと大丈夫。案外子どもの方が、すっとその世界に入り込んでしまうかもしれません。
何十年も前の絵本が今も普通に読まれていたりしますが、私もそんな風に長く愛される絵本をつくっていきたいなと思っています。