絵本作家インタビュー

vol.100 絵本作家 かこさとしさん(後編)

2008年3月よりスタートした「ミーテカフェインタビュー」、記念すべき100回目にご登場いただくのは、『だるまちゃんとてんぐちゃん』『からすのパンやさん』などのロングセラーでおなじみの絵本作家・かこさとしさんです。楽しいおはなし絵本から、子どもの好奇心をくすぐる知識絵本・科学絵本まで、550点を超える作品を生み出してこられたかこさんが、絵本に込めた思いとは? 新シリーズ「かこさとし こどもの行事 しぜんと生活」についてもお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・かこさとしさん

かこ さとし(加古 里子)

1926年、福井県生まれ。東京大学工学部応用化学科卒業。工学博士。技術士。民間企業の研究所に勤務しながら、セツルメント活動に従事。子ども会で紙芝居、幻灯などの作品をつくる。1959年、『だむのおじさんたち』(福音館書店)で絵本作家デビュー。1973年に勤務先を退社、作家活動のほか、横浜国立大学などの大学で講師をつとめる。「だるまちゃん」シリーズ、『かわ』『海』『はははのはなし』(福音館書店)、『からすのパンやさん』(偕成社)など、おはなし絵本から知識絵本・科学絵本まで、作品数は550点を超える。

子どもたちが喜ぶものを詰め込んだ『からすのパンやさん』

※かこさとしさんは2018年5月2日にご逝去されました。故人のご功績を偲び、心からご冥福をお祈りいたします。

『からすのパンやさん』は、中学の先輩の結婚祝いに描いた『かあきちとかあこ』という手づくり絵本がもとになっているんです。『かあきちとかあこ』は、からすの“かあきち”と“かあこ”が大きな声でわーわー鳴いてるのを聞いて、ほかのからすたちたちが何か事件が起こったのかと大騒ぎして駆けつけたら、やまびこごっこをしていただけだった、というたわいもない話でした。

でもこの話のままでは、子どもにはウケないんですね。なんとかしなきゃってことで、子どもが喜ぶ消防自動車や救急車を出して騒ぎをさらに大きくして、駆けつけてみたらパン屋さんだったという話に変えました。要するに、大騒ぎとか食欲とか、子どもが好きな要素を全部入れたわけです。

僕らの年代にとって、パンというのは最高のおやつでした。学校に通っていた頃、ときどきお袋が今日はパンを買っていいよとお金をくれることがあったんです。そんなときは、午前中の授業が終わるなり校門の前の文房具屋に駆けつけてね。文房具屋のおばさんが食パンを切って、缶に入ったジャムを塗って、新聞紙で包んでくれるんですよ。それを教室で食べるわけですが、これがもう最高のパン食でね。『からすのパンやさん』には、そんなパンに対する憧れや思いもつまっています。

からすのパンやさん どろぼうがっこう
わっしょいわっしょいぶんぶんぶん あおいめくろいめちゃいろのめ

▲子ども会での活動の中から生まれた絵本『からすのパンやさん』『どろぼうがっこう』『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』『あおいめくろいめちゃいろのめ』(いずれも偕成社)

偕成社の編集の方が「何か絵本になるような、おもしろいものはありませんか」と訪ねて来られたとき、『からすのパンやさん』をはじめ、それまでにつくった紙芝居やら何やらをずらりと並べてお見せしたんですね。それを機に、『からすのパンやさん』や『どろぼうがっこう』『わっしょいわっしょいぶんぶんぶん』『あおいめくろいめちゃいろのめ』などの10作が絵本として出版されることになりました。これらの絵本を今も子どもたちが読んでくれているのは、とてもうれしいことですね。

渾身の新シリーズ!「かこさとし こどもの行事 しぜんと生活」

新シリーズ「かこさとし こどもの行事 しぜんと生活」は、『1月のまき』から始まって、今年の11月に出る『12月のまき』まで、月に1巻ずつ刊行している全12巻の行事絵本です。

行事の絵本はこれまでにもさまざまな出版社から出ていますが、僕が行事絵本をつくるなら、先祖の人たちが大事にしてきたことがきちんと伝わるものにしたい、という思いがありました。

たとえば、先祖の人たちは病気が流行るとお祈りをしたんですよね。医学が発達した今の時代では、お祈りなんてしたって無駄だと言われるかもしれないけれど、家族を病気から守ろうという志や精神というのは、今も大事にしなければいけないことだと思うんです。そういった先祖の人たちのすばらしいところを生かしながら、今の時代の最先端の医療と組み合わせていけばいいと、僕は思っています。

かこさとし こどもの行事 しぜんと生活 5月のまき

▲2011年12月より毎月刊行中の「かこさとし こどもの行事 しぜんと生活」シリーズ。『5がつのまき』(小峰書店)では、端午の節句、葵祭、母の日などの行事の由来のほか、立夏、小満などの二十四節気、田植え、愛鳥週間、季節の魚や花も紹介されています。

古くから伝わる行事の起源を知ることは、先祖の人たちが行事に込めた願いや心を知るということです。季節ごとの楽しい遊びも交えながら、やさしく描きました。また、日本だけでなくもっと広く世界に目を向けてほしいという思いから、バレンタインデーやイースターなど海外の行事も盛り込みました。行事の由来も知らずにただチョコレートを買ってプレゼントするだなんて、チョコレート会社の思う壺ですからね。なぜそういう行事ができたのか、その理由をきちんと知ってほしいなと思います。

この12巻分の原稿は、2年前にはすでに全部描きあげて、出版社に渡してあるんですよ。僕ももういい年齢でいつどうなるかわかりませんから、引き受ける際は時間の余裕をたっぷりいただいて、早めに仕上げてお渡しするんです。ただ、出版の前に追加で新たな情報を描き加えたりすることもあります。『3月のまき』では、東日本大震災のことを急遽加えました。日本のような火山国で地震が起こるのは当たり前のこと。それはちゃんと教訓として残しておかないといけませんからね。

今の子どもたちが大人になったときに役立つような内容にしたい―― そんな思いでつくった行事絵本です。見返し(※)などすみずみまで盛りだくさんの内容になっているので、じっくり読んでいただけたらうれしいですね。

※見返し……表紙を開いてすぐと、裏表紙を開いてすぐのところにある、本の中身と表紙をつなぎ合わせている見開き部分のこと。

子どもたちの力を信じて見守ろう

絵本作家・かこさとしさん

子どもは3歳を過ぎると、自我が芽生えてくるでしょう。自我が出てくるというのは、自立への第一歩なんですよ。その段階になったら親は、子どもを自分の管理下に置くのではなく、子ども自身の伸びようとする力を信じて見守ってあげるべきだと思います。

親御さんの期待や願いというのももちろんあるでしょうが、自分の遺伝子をしっかり授けてあるんだから、それでもう十分。親の思い通りにさせようとしたって、かえって嫌がられるだけです。その子の持っているすばらしい個性が伸びていくように、引き出してあげたり、励ましてあげたりするのが親御さんの役目なんです。

5歳になったのにまだこんなことができない、なんて焦る必要はありません。遅くても大成する子もいるし、早くても途中で頓挫する子もいます。それも含めて、その子の個性ですからね。大事なのは自発性です。自ら積極的に何かをする、そしてそれによって喜びや達成感を味わう……そういう経験こそが、その子を伸ばしていくんです。そんな喜びを味わえる何かを見つけられるように励ましてやるのが、本当の教育だと思います。

僕の絵本は、親子二代、さらには三代にわたって読んでいただいているようで、その中には科学者になられた方もいれば、医者になられた方、弁護士になられた方もいます。そういった方々から、勉強するようになったのは僕の絵本がきっかけだったという話を聞くこともあり、大変うれしく感じています。

これからの未来を担う子どもたちに、賢く健やかな人になってほしい―― そんな思いで絵本をつくり続けてきました。赤ちゃんのうちは親子のやりとりを楽しむために、3歳を過ぎたら子どもの好奇心や探究心を伸ばすために、絵本を活用していただけたらと思います。


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