絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、思わず真似したくなってしまう楽しい絵本『へんなかお』でおなじみの絵本作家・大森裕子さんです。人気作『ぼく、あめふりお』や新作『へんなところ』の制作エピソードのほか、7歳と3歳の男の子のママでもある大森さんに、お子さんとの絵本の時間や子育てを楽しむコツについても伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
1974年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。絵本作家、イラストレーター。主な作品に「よこしまくん」シリーズ(偕成社)、「ちょろちょろかぞく」シリーズ(文・木坂涼、理論社)、『ぼく、あめふりお』『あたし、ピーカンちゃん』(教育画劇)、『へんなかお』『へんなところ』(白泉社)、子育てエッセイ『だっこっていわないよ。』(学研)などがある。
公式サイト:いりたまごセバスチャン http://www.iri-seba.com/
▲大森裕子さんが2歳のときに描いた絵
私の手元には、2歳から20歳になるまでの自分の絵をまとめたファイルがあるんです。父の字で「2歳のとき、ひろこが描きました」って書かれた絵を見ると、結構ちゃんと顔のパーツとか手足とか、描けてるんですよね。色も塗ってあって。大人になってその絵を見たときは、我ながら感動しちゃいました。2歳でこんなに描けるだなんて、昔は私、天才だったんだ!!って(笑)
4歳の頃には、絵本をつくってたんですよ。ペンギンの家族が富士山に登るんですけど、途中で雨が降ってきて、さらに雨が雪になって……でもなんとか頂上までたどりついて、最後は晴れて終わり。動物が好きで、絵本も好きだったので、こういうのをよくつくってたんです。全部ではないけれど、傑作と思えたものだけ、母が捨てずにとっておいてくれていました。
▲大森裕子さんが4歳のときにつくった絵本。ペンギン家族の富士登山のお話
大学時代、自分の進むべき方向がわからなくなって迷ってしまったとき、このファイルをつくって、子ども時代の絵を振り返ってみたんですね。そして改めて、原点に立ち返ることができたんです。好きなものを愛でるように描く―― 私が好きだったのは、そういう描き方だったんですよ。何にもとらわれることなく、純粋に絵と向き合っていた頃は、ずっとそんな風に描いてたんだって思い出しました。
イラストの仕事を始めたのは、大学院生の頃のことです。知り合いから縁あって挿絵の仕事をいただいて。少しずつ仕事が増えていったので、大学院修了後もイラストレーターとして仕事を続けていくことにしました。
▲よこしまシャツのフェレットが主役のくすっと笑える絵本『よこしまくん』(偕成社)
よこしまのシャツを着たフェレット“よこしまくん”は、もともとホームページのキャラクターとして描いたものでした。モデルは夫です。雑誌でたまたま見つけたフェレットの目つきの悪さとグータラぶりが、夫にそっくりだったんですよ(笑) それで、よこしまのパジャマを着てゴロゴロしてる夫の姿と、フェレットの特徴と、よこしまな性格っていうのをかけあわせて、“よこしまくん”というキャラクターが生まれました。
それをホームページに一コマ完結で何枚も載せていたら、偕成社の編集者さんから「絵本にしませんか」と言っていただいて。それで、『よこしまくん』が私の絵本作家としての初めての作品となりました。大人が楽しめる絵本というコンセプトでつくったんですが、なぜか最近、うちの3歳の次男がすごく気に入ってくれてて、「これ読んで!」とよく持ってくるんですよ。私が描いた絵本だというのはわかってないみたいなんですけど、うれしいですね。
▲雨男のてるてる坊主が旅に出るお話『ぼく、あめふりお』(教育画劇)
『ぼく、あめふりお』は、子どもが生まれてから初めてつくった絵本です。てるてる坊主って、昔から好きだったんですよね。ティッシュがあればつくれちゃうっていうチープな感じが気に入ってて、ぼろぼろになるまで大事に持っていた記憶もあります。
主人公“あめふりお”のまじめで慎重派なところなんかは、長男の性格がちょっと出ていますね。あと、夫が雨男で…… なんか身内ばっかりですけど(笑) 家族のいろんな要素がまざりあって、てるてる坊主なのに雨男っていうお話ができました。
▲親子で顔真似して遊んじゃおう!『へんなかお』(白泉社)。楽しいミラーシートつきしかけ絵本です
子どもが生まれてからは、絵本についての考え方がかなり変わりましたね。子どもがいない頃は「なんでこの絵本が売れてるんだろう?」と思っていた絵本も、読み聞かせをしながら子どもの反応を見ていると、どこがどうおもしろいかがわかるんです。
それに、子どもたちを観察していると、絵本のアイデアにつながることが結構あるんですよね。『へんなかお』はまさに、子どもを見ていてアイデアが浮かんだ絵本です。次男が1歳の頃から、顔芸がすごくて(笑) 3歳になった今も、“へんなかお”をしょっちゅうやってるんです。
ごはんを食べて「おいしい」と言う代わりに「べーーっ!」とか、保育園の先生に朝「おはよう」と挨拶するときに「びょ~~ん!」とか。なぜそのタイミングで!?という感じなんですけど、保育園の先生も“へんなかお”を返してくれたりして、ちゃんとコミュニケーションが生まれてるんですよ。それを見ていて、これが絵本になったらおもしろいな、と。
でも、人間の“へんなかお”を絵にするとなんだかえぐくなってしまうので、得意な動物の絵で表現することにしました。ライオンならたてがみがあるので、それをうまく利用してできたらおもしろいなとか、カエルなら口がふくらむから……みたいな感じで、それぞれの動物の特徴を生かして“へんなかお”にしていったんです。
『へんなかお』はもともと月刊MOEの綴じ込みの絵本だったんですけど、単行本化するにあたって、最後のページにミラーシートをつけることにしました。ミラーシートがあることで、参加型の絵本としての特徴がより際立ったと感じています。ぜひミラーを見ながら、動物たちに負けないくらいの“へんなかお”をしてみてほしいですね。
……大森裕子さんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)