絵本作家インタビュー

vol.93 絵本作家 大森裕子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、思わず真似したくなってしまう楽しい絵本『へんなかお』でおなじみの絵本作家・大森裕子さんです。人気作『ぼく、あめふりお』や新作『へんなところ』の制作エピソードのほか、7歳と3歳の男の子のママでもある大森さんに、お子さんとの絵本の時間や子育てを楽しむコツについても伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・大森裕子さん

大森 裕子(おおもり ひろこ)

1974年、神奈川県生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科絵画専攻修了。絵本作家、イラストレーター。主な作品に「よこしまくん」シリーズ(偕成社)、「ちょろちょろかぞく」シリーズ(文・木坂涼、理論社)、『ぼく、あめふりお』『あたし、ピーカンちゃん』(教育画劇)、『へんなかお』『へんなところ』(白泉社)、子育てエッセイ『だっこっていわないよ。』(学研)などがある。
公式サイト:いりたまごセバスチャン http://www.iri-seba.com/

新作『へんなところ』ができるまで

へんなところ

▲『へんなかお』の続編は、間違いさがしの絵本!『へんなところ』(白泉社)。今回もミラーのしかけつきです

新作『へんなところ』は、動物たちが9匹並んでいる中から、“へんなところ”を探す絵本です。

よく熟れたバナナって、キリンの首みたいに見えたりしませんか? ほかにも、キュウリの表面がワニの赤ちゃんの背中みたいに見えたり、三日月が親指の爪を切った欠片みたいに見えたり…… 以前からそんな発見をしては、おもしろいなって思ってたんですよ。それが絵本のアイデアにつながって、『へんなところ』が生まれました。

『へんなかお』の続編ということで、表紙は同じマレーグマにしようとか、「へんな○○」というタイトルでいこうとか、巻末にはまたミラーシートのしかけをつけようとか、いろいろと制約はあったんですけど、その中でどんなことができるかを考えるのは結構おもしろかったですね。

「へんなところどーこだ?」でページをめくると答えが出てくるんですけど、答えのところの文章は「みつけた! みみが みかんだよ」という感じで、言葉の頭の文字をそろえてるんです。そんな言葉遊び的な要素も、楽しんでもらえたらうれしいですね。

最後のミラーシートは、『へんなかお』よりグレードアップしたというか、ちょっと変わったミラーシートになっているので、子どもたちは釘付けになるんじゃないかなと思います。ぜひ手にとって見てみてくださいね。

「へんなえほん」シリーズは、来年も続編が出版される予定です。第3弾も楽しい絵本になるよう、がんばります!

命が宿っているかのような、生き生きとした絵を描きたい

手帳に描かれた猫の絵

▲ときには愛猫たちもモデルに! 手帳に描かれた猫の絵

絵本の絵を描く上で意識してるのは、リアリティです。かわいらしくキャラクター化するにしても、そこにリアリティがないと、絵が生きてこないと思うんです。

だから動物を描くときは、まず本物を観察することから始めるようにしています。もちろん、図鑑や写真といった資料もいろいろと参考にするんですけど、できるだけ動物園などに足を運んで、本物を見てデッサンするようにしてるんです。

本物を見ると、姿かたちだけでなく、動き方とか表情とか、すごくよくわかるんですよね。そういったことを理解した上で、リアリティを持たせつつ、絵本の絵としてどこまで描き込むか、どこまでデフォルメするか…… そんなことを考えながら描いていきます。

たとえば『へんなかお』『へんなところ』の表紙のマレーグマなんかは、本物を見ると、毛が短いせいか結構つやがあって、ぬめぬめとした感じなんです。でもそれをそのまま描くと生々しくなってしまうので、多少加減して描きました。『へんなかお』では舌を長く伸ばしてるんですけど、マレーグマって本当にすごく舌が長いんですよ。だから「べー!」の顔のところで描くことにしたんです。

最終的にどんな風に描くか決まるまでは、何度もデッサンを続けます。今日はゾウを描こうって決めたら、何度も何度もいろんな角度でゾウを描いていくんです。描いていくうちに、「あぁ、ゾウはこうか。つかめた!」と感じる瞬間がやってくるんですよね。

目指しているのは、そこに命があるかのような、生き生きとした絵。これからも観察やデッサンを続けながら、生き生きとした絵を探っていきたいと思っています。

一人の時間があるから、子どもを楽しく観察できる

だっこっていわないよ。絵本作家の子育てばなし

▲笑いあり、感動ありの子育ての日常を8コママンガでつづった、子育てママの共感度大!のエッセイ『だっこっていわないよ。絵本作家の子育てばなし』(学研)

絵本の読み聞かせを始めたのは、長男がおなかの中にいたとき。自分が子どもの頃に好きだった「うさこちゃん」シリーズ(福音館書店)の絵本を買ってきて読んだんです。自分自身、子どもの頃のことを思い出して、とっても懐かしくなりました。

今は、息子が2人いて、仕事も家事も子育ても……という毎日なので、寝る前に絵本を「読んで!」と持ってこられても、正直めんどくさいなぁと思うこともあります。寝る前なんて一番疲れてるんだから、もう寝ようよ!って説得したくなっちゃう(笑) でも、説得するより読んであげた方が早いので、読んでますけどね。長男が持ってくる本は文章が長いので、へとへとになりながら読んでいたりします(苦笑)

子どもはかわいいけれど、24時間ずっと一緒だと大変ですよね。だから、一人でいる時間を持つことって、すごく大事だと思います。

私は、初めて長男を保育園に預けた日のことを、今でも覚えてるんですよ。慣らし保育で1時間半だけだったので、仕事はせずに、喫茶店に行ったんです。一人で喫茶店に入るっていうこと自体、すごく久しぶりで…… お手洗いで鏡を見ながら髪を整えた瞬間、以前の私がわーっとよみがえってきたんです。子どもが生まれてから、髪を整える余裕なんてなくなってたんですよね。そうだ、私はこうだったんだって気づいて、なんだか手が震えました。

一人でいる時間が少しでもあると、余裕が生まれるんですよね。私は学研の月刊保育絵本『ポッケ』で子育てエッセイを5年近く連載しているんですけど、子どもたちのことをおもしろがって観察できるのは、一人の時間があるからだと思っています。一人になって心の余裕を蓄えてから子育てに臨むから、楽しく観察できるんです。みなさんも、子育てをもっと楽しむためにも、ぜひ一人の時間を持つようにしてみてくださいね。


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