絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、第2回リブロ絵本大賞を受賞した話題作『ほげちゃん』でおなじみの絵本作家・やぎたみこさんです。ちょっぴり不思議で、ユーモアあふれる絵本の数々は、どのようにして生まれたのでしょうか? 立体制作から始まるやぎさんならではの絵本づくりや、亀にまつわるエピソード、子育てについてなど、たっぷりと伺いました。
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→)
兵庫県生まれ。武蔵野美術短期大学卒業。イラストレーターのかたわら絵本を学び、2005年、第27回講談社絵本新人賞佳作を受賞。『くうたん』(講談社)で絵本作家としてデビューし、「大人もいっしょに楽しめる、子どものための絵本」の制作をつづけている。主な作品に『もぐてんさん』『おにころちゃんとりゅうのはな』(岩崎書店)、『かめだらけおうこく』(イースト・プレス)、『おはぎちゃん』(偕成社)、『くらげのりょかん』(教育画劇)などがある。2011年、『ほげちゃん』(偕成社)で、第2回リブロ絵本大賞を受賞。
▲やぎたみこさんのデビュー作『くうたん』(講談社)。不思議な生きもの「くうたん」と家族の出会いを描く
私は絵本の絵を描くとき、まずお話の中に出てくるものを実際に立体でつくってみるんですね。『くうたん』のときは、くうたんのぬいぐるみをつくりましたし、『かめだらけおうこく』のときは、段ボールや画用紙、粘土を使って亀や家の模型をつくり、それらの立体をそのままスケッチしたり、写真に撮ってトレースしたりして絵にしていきました。
なぜわざわざそんなことをするかというと、何も見ずに絵を描くのが苦手だから。同じものをいろんな角度から描く場合、想像で描こうとすると、ああでもないこうでもないと悩んでしまって、すごく時間がかかってしまうんです。でも、目の前にリアルなものがあれば、どんな角度からでも描きやすいんですよね。だから私にとっては、立体をつくってから絵を描く方が効率的なんです。
立体制作は、文章を考えながらつくることが多いですね。あらすじはできていても、それを絵本の文章にしていくとなると、子どもにもわかるようにとか、説明っぽくならないようにとか、きれいに流れるようにとか、いろいろと悩むことが多くて、すんなりとはいかなくて。そんなとき、立体を作ることが気分転換になってちょうどいいんです。
全然違う気分転換をしてたら、絵本づくりは進まないし、何やってるんだ私……って自分が嫌になっちゃうじゃないですか。なので、これは絵本のためにやってるんだぞ!みたいな気持ちで、手を使って気を紛らわせながらやっています。
ただ最近は、立体をつくること自体が楽しくなってきちゃって……できれば他の作家さんの分もつくらせてもらいたいと思っているくらいです(笑)
▲亀を助けたお礼にきいちゃん一家が招待されたのは、亀だらけの国だった!『かめだらけおうこく』(イースト・プレス)
『かめだらけおうこく』のときは、絵本づくりのために亀を飼い始めました。
最初は亀の絵本をつくる予定ではなかったんです。話の流れを考えているうちに、亀のお話になったのですが、実は私にとって、亀ってちょっと怖い存在だったんですね。それならまず亀に愛情を持つところから始めようと思って、ペットショップに亀を買いに行きました。
でも、いざ飼おうと思って亀を見てみると、やっぱり怖いなって腰が引けちゃったんですよ。でも勇気を出して、まずは持つところから始めてみようと思って一番おとなしそうな亀を持ち上げてみたら、その亀がなんと死んでたんです……驚いて大声を出してしまいました。だからそのときは、飼うなんてとても無理だなと思ったんです。
その後、亀のぬいぐるみをつくってみたりもしたんですけど、やっぱり本物じゃないとだめだなぁと思っていたら、娘が「私は平気だから飼えば? 世話は私がするから」って言ってくれて。その言葉に励まされて、ペットショップに通って3回目、やっと買って帰ることができました。
はじめは体長4cmくらいだったんですけど、あっという間に大きくなって、今はもう20cmくらい。結局娘じゃなくて、私が世話してるんですけどね(笑) 名前もつけて、餌も毎日ちゃんとあげてます。おかげで絵本の制作と同時進行で、亀が好きになりました。
最終的に『かめだらけおうこく』は、普通に甲羅のある亀は一匹しか出てこなかったので、わざわざ飼う必要あったのかな?と思いましたが(笑)、絵本が出たあと、亀を飼っている人から「飼っている人にしかわからない表情がよく描けている」と言われ、飼ってよかったなあと思いました。その亀は、今ではすっかりなくてはならない家族の一員になっています。
▲第2回リブロ絵本大賞を受賞した話題作『ほげちゃん』(偕成社)
以前、誕生日にパペットタイプのぬいぐるみをもらったことがあるんですね。子どもにじゃなくて、私に。しかもそのぬいぐるみが、こういってはなんですが、とってもブサイクなぬいぐるみだったんです。でも見ていると、なかなか愛嬌があって。私はそのぬいぐるみを“ほげちゃん”と名付けました。そのぬいぐるみが、絵本『ほげちゃん』のモデルです。本物のほげちゃんは、絵本のほげちゃんよりももっとブサイクなんですけどね(笑)
わが家のほげちゃんは、どこにもしまわれず、いつも居間にいます。家族みんなでほげちゃんを使って、「どうしたの?」「ひどいめにあったの」なんて言いながら遊んでいますが、気がつくとときどき、何かの下敷きになっていたり、挟まれていたりと、かわいそうな状態になっていて……絵本の前半は、ほぼ実話なんですよ(笑) もちろん後半は創作ですけどね。
実は、絵本をつくっている間は、これを読んで子どもたちは喜んでくれるかな?って不安だったんです。でも本が出てからの評判を聞くと、ちゃんと楽しんでもらえているみたいで安心しました。しかも年齢や性別によって楽しみ方が違うらしいんですよ。
▲絵本『ほげちゃん』は型紙つき。自作のほげちゃんをつくる人が急増中だそうです!
小さい子はゆうちゃんの真似をして、ぬいぐるみと手をつないだり、ぬいぐるみの味見をしたり。それが小学校低学年ぐらいの子だと、急に自分のぬいぐるみを大切にし始めるとか。高学年になると、男の子は「いけいけ! ほげちゃん!!」みたいな感じで、ほげちゃんに共感して応援するそうですが、女の子は母性に目覚めるのか、ほげちゃんにやさしくしてあげたい、みたいな反応をするらしいんです。
それから中高年の男性やOLのお姉さんからは、普段いろいろと我慢が多くてしてストレスがたまっているからでしょうか、「癒される」という意外な反応をいただき、嬉しかったですね。
……やぎたみこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→)