絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、関西弁の絵本『おとん』『おかん』などでおなじみのご夫婦作家・平田昌広さんと景さんです。昌広さんの文と景さんの絵で生まれる絵本は、いつでも元気いっぱい! 楽しさにあふれています。お二人が続けている“夫婦読み(めおとよみ)”や絵本への思いなどについて、たっぷりとお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1969年、神奈川県生まれの平田昌広と、1970年、北海道生まれの平田景の二人で、2002年、楽しい本をつくる“オフィスまけ”を設立。夫婦共作絵本に『ひものでございっ!』(文化出版局)、『のりおのふしぎなぼうえんきょう』(講談社)、『ねえ、ほんとにたすけてくれる?』(アリス館)、『おとん』『おかん』(大日本図書)、『ぽんこつドライブ』(小学館)、『それいけ! ぼくのなまえ』(ポプラ社)などがある。
平田昌広と平田景のホームページ。 http://www.office-make.com/
▲関西弁の親子の会話で進む絵本『おとん』と『おかん』(いずれも大日本図書)
平田昌広さん(以下、M) 『おとん』『おかん』は、方言の絵本をつくれたらおもしろいねってことで生まれた絵本です。
平田景さん(以下、K) 以前、『ひものでございっ!』の原画展で広島に行ったことがあったんですけど、そのとき、広島弁ってすごくおもしろいなって思って。それで、最初は広島弁の絵本をつくりたいと言ってたんです。
M でも、ただ単にお話を広島弁にするのでは全然意味がないし、それなら広島の人が書いた方がいいじゃないですか。僕が書くなら、絵本ならではのアイデアを盛り込みつつ、それを方言でやる意味のあるお話にしないとなって思ったんです。
いろいろ考えていたとき、ふと浮かんだのが「おとん」「おかん」という、西日本ならではの呼び方。「おとん」って、その言葉だけで何かあるぞと思ったんです。そこから、「パパ」とか「おとうさま」とか、いろんな呼び名で呼んでみるというアイデアにつながりました。最終的には、広島弁だと広島限定になっちゃうからということで、関西弁でいくことになったんですけどね。
K 関西弁は、この絵本のデザインも担当してくれたたかいよしかずさんに監修してもらったんですよ。
M その後、出版社の方から、ぜひ『おかん』もつくってほしいと言われたんですね。同じように呼び名を変えるだけの絵本にはしたくなかったので、最初は無理!って思ったんですけど、考え始めたら意外とすんなりアイデアが出てきて。
関西の人って、日常的にボケとツッコミをしあってるイメージがあるでしょう。それだ!って思ったんですよ。ボケとツッコミは関西ならではの特有の文化だから、関西弁でやる意味があるなってことで。そんな風にして、子どもとお母さんがボケとツッコミを繰り広げる『おかん』ができあがりました。
▲不思議なな望遠鏡で見える、奇想天外な世界を描く『のりおの ふしぎな ぼうえんきょう』(講談社)
M 絵本を読むときは、一字一句変えずにきちんと読んでほしいっていう作家さんもいると思うし、それはそれで間違いではないと思うんです。だけど僕は、適当に変えちゃってもいいから、とにかく楽しんで読んでほしいという思いが強くあるんですね。
K ただ、「好きなように読んでください」って言われても、戸惑ってしまう方もいるんですよね。そういう人でも楽しめるような絵本をつくりたいって思っていたんです。
M 会話だけで進むお話とか、方言の出てくるお話を書くようになったのは、そのためです。普段自分がしゃべっている言葉になら、すっと変えられるんじゃないかって思ったんですよ。楽しむためのヒントとして、絵本には「いつもしゃべっているお国言葉で読んでください」って、一言いれるようにしています。
絵本の楽しみ方は人によっていろいろあるから、当然これが正解ってわけではないんですが、僕らの楽しみ方に共感した人は、いろいろ自由に変えて読んでくれるんですよね。
K 私たちのホームページには「○○弁でよむ」っていうコーナーがあって、広島弁の『おとん』や秋田弁の『おかん』など、方言に変えた文章を載せてるんですけど、すっごくおもしろいんですよ。
M 方言じゃなくて、「それ、いんじゃねー?」みたいなイマドキの言葉に変えて読んでもいいと思うんですよ。極端に言えば、起承転結だって変えちゃってもいい。とにかく楽しんでもらえれば、それでいいんです。
読み聞かせって、読み手が楽しんでなければ伝わらないと僕は思ってるんですね。でも逆に読み手が楽しんでいれば、どんなに下手だとしても絶対に伝わるんです。どんな読み方でも、楽しんでもらえればそれが一番ですよね。
M “絵本の力”って言葉をときどき耳にしますよね。確かに絵本を読むことは、子どもの情緒や言語能力を育てたり、親子の絆を深めたりといった効果があるんだと思います。でもそれは、絵本の力じゃなくて、読み手と聞き手の力によるところが大きいと僕は思うんですよ。絵本はそのための架け橋に過ぎないんです。
もちろん、絵本自体にものすごい力があるものもあるんでしょうけど、僕らはそんな崇高な絵本はつくれません。だったら、読み手と聞き手の力を引き出すことのできる絵本をつくりたいなと思って。
読み手と聞き手の力を引き出すためには、僕らが小学校などでの読み聞かせのときにやっている、“夫婦読み(めおとよみ)”がおすすめです。二人の会話で成り立っているお話なら、二人でかけあいで読んだ方が楽しいよねっていう単純な理由で始めたんですけど、読み聞かせがよりいっそう楽しくなるんですよ。
K お父さんと息子とか、お母さんと娘とか、兄弟姉妹で読むのもいいですよね。図書ボランティアのお母さんたちも、二人で練習して読んでますって言ってくれてます。
M 僕らの絵本が、そうやっていろんな形で楽しんでもらえるのは、すごくうれしいです。これからも、読み手と聞き手の架け橋になるような絵本を、がんばってつくりますね!
子育てについては、いいお母さんにならなくてもいいんだよってことを伝えたいですね。うちの娘は今、小学2年生なんですけど、赤ちゃんの頃から今までずっと、家事と育児をセットにして、二人で毎日交代でやってるんですよ。今日は僕、明日は景、といった感じで。
でも、育児と家事に専念しているお母さんは、それが毎日なわけでしょう。一日おきでもものすごく大変だったのに、これが毎日なんて絶対大変!
K しかもうちは子ども一人だけですからね。二人、三人といたら、勘弁して!ってなりそう(笑)
M そんな状況の中、常にいいお母さんでいるなんて難しいと思うんです。もちろん、悪いお母さんになれってことではないですけど、完璧を目指しすぎず、いいお母さんじゃないときがあってもいいんだっていう気持ちでいた方がいいんじゃないかな。