絵本作家インタビュー

vol.86 絵本作家 和歌山静子さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、寺村輝夫さんの「王さま」シリーズの絵のほか、『てんてんてん』『ひまわり』など、赤ちゃんから楽しめる絵本の数々を生み出してこられた絵本作家・和歌山静子さんです。絵本の仕事を手がけて今年で45年となる和歌山さんの絵本にかける思いとは? 人気作の制作エピソードや、アジア絵本ライブラリーについても伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・和歌山静子さん

和歌山 静子(わかやま しずこ)

1940年、京都市生まれ。武蔵野美術大学デザイン科卒業。日本児童出版美術家連盟会員。1980年『あいうえおうさま』(文・寺村輝夫、理論社)で絵本にっぽん賞、1982年『おおきなちいさいぞう』(文研出版)で講談社出版文化賞絵本賞受賞。主な作品に「王さま」シリーズ(文・寺村輝夫、理論社)、『おかあさんどーこ?』『ぼくのはなし』(童心社)、『てんてんてん』『ひまわり』(福音館書店)、『おーいはーい』(ポプラ社)などがある。神奈川県逗子市の自宅で「アジア絵本ライブラリー」を運営している。

息子のためにつくった絵本『ぼくのはなし』

ぼくのはなし わたしのはなし

▲子どものための性教育の絵本『ぼくのはなし』『わたしのはなし』(いずれも監修・山本直英、童心社)

息子を出産したのは42歳のとき。高齢初産のシングルマザーでした。 息子が生まれてから、私は初めて声を出して絵本を読むようになったんです。ずっと絵本の仕事はしてきたんですけど、それまでは声に出して読んではいなかったんですね。毎日毎日、ときには声色を変えたりしながら読み聞かせを続けるうちに、絵本の言葉の大切さに気づいて、自分もいつか自分の言葉で絵本をつくりたい、と思うようになりました。

そして、初めて自ら作・絵を手がけたのが『ぼくのはなし』。私が息子のためにつくった、最初で最後の絵本です。

息子が小学4年生のとき、翌年から学校で性教育の授業を始めると聞いたんですね。それで、小学生でもわかる性教育の絵本はないかなと思って、図書館に探しに行ったんですけど、当時は全然なくて。それなら私がつくろう!と思ったんです。私の描く線なら、精子が卵子のところまでどうやって辿りつくのかを、きちんと描けるんじゃないかなと。監修は、子どもの頃からの性教育を推進されていた、高校時代の恩師・山本直英先生にお願いしました。

最後のページの「ぼくが ぼくとして うまれたことが いちばんうれしい」という言葉は、息子が5歳のときに言った一言がもとになっています。

息子は生まれつき、漏斗胸という障害のために、胸の中央がへこんだ体をしていたんですね。3歳のとき、「どうしてこうなってるの?」「大人になったらみんなと同じように平らになるの?」と聞かれたこともありました。まわりのみんなと違うということを、本人も気にしていたんですね。

でも5歳の頃、私が息子に「生まれてきてよかった?」って聞いたら、息子は「よかったよ」と言ったんです。「どんなところが?」と聞いたら、「僕でよかったよ!」って。この言葉を聞いて、私はすごくうれしかったんですね。それで、『ぼくのはなし』の最後に使わせてもらいました。

絵本は大人になっても、心の中にとどまっているもの

29歳になる息子がこの前、話してくれたんですけど、彼はしんどいことがあったときや落ち込んでいるときなど、大型書店の絵本コーナーに行くそうです。そこで子どもの頃に読んで好きだった絵本を見ると、なんかホッとするんだよねって。それを聞いたとき私は、絵本の力って大人になっても持続していくものなんだなぁと、つくづく思いました。

あとこれは堀内誠一さんが言っていたことなんですけど、ヨーロッパなんかだと、屋根裏部屋のトランクの中とかに、薄汚れて埃まみれになった絵本が置き忘れられたような感じで置いてあったりするんですね。でもそれは、決して忘れ去られてしまったというわけではなくて、すでに子どもたちの心の中に入り込んでいるから、本を目の前に置いておかなくてもいいんだって、そんな風におっしゃっていたんです。

あいうえおうさま

▲「王さま」シリーズの言葉遊び絵本『あいうえおうさま』(理論社)。寺村輝夫さんとは、40年間にわたって一緒にお仕事をされたそうです

つまり絵本というのは、大人が思う以上に、子どもの心の中にきちんと残っているんです。そしてその子が成長してからも、ずっと心の中にとどまっているものだと思うんです。大人になって、ふとした機会に読み返してみると、懐かしさがぶわっと込み上げてくる。涙が出てくる人もいるかもしれません。でもその涙は、心を癒やしてくれる涙です。懐かしい絵本を読むことは、悲しかったりつらかったりしたときの、心の安らぎになるんだと思います。

毎日毎日同じ本を何度も読み聞かせするのは、大変なことです。でもその絵本が、その子の心の中に大切にしまわれて、大人になってもずっと心の支えになってくれるかもしれないって思えば、多少大変でも読み続けようって思えますよね。

お気に入りの絵本が見つからないときは、子どもと一緒に本屋さんに行くのもいいですよ。親がいいと思ったものでも、子どもも好きになるとは限らないから、本屋さんでいろんな絵本を実際に手にとらせてみて、興味を持ったものを選ぶようにすればいいと思います。

老若男女が集うアジア絵本ライブラリー

和歌山静子さんが運営するアジア絵本ライブラリー

▲おなじみの絵本の日本語版、中国語版、韓国語版のほか、和歌山さんが集めたアジア各国の絵本が並ぶ、アジア絵本ライブラリー

去年の10月、神奈川県逗子市の自宅で、「アジア絵本ライブラリー」を仮オープンさせました。日本、中国、韓国、台湾など、アジアのさまざまな国で出版されている絵本を集めた、小さなライブラリーです。

日本に住む中国人や韓国人の方は、子どもに母国語で絵本を読んであげることができますし、絵本を通じてアジアのほかの国の生活や文化を知ることもできます。今は、蔵書のリストづくりを進めているところ。1500冊近くあるので大変なんですけど、来年の3月ぐらいから貸し出しできるようにしたいなと思っています。

絵本を見てもらうだけではなく、月1、2回のペースで、いろいろなイベントも開催しているんですよ。王さまの王冠をつくるワークショップや、おはなし会、紙芝居、野鳥の会の方と一緒に野鳥を観察する企画、お年寄りの方たちを集めての健康講座など、さまざまなイベントをやっているので、子どもからお年寄りまで、いろんな方が来てくださるんです。

特に、子どもたちのエネルギーは本当にすごい。まるで花火が上がるかのような勢いで、わーっと来るんです。事前準備もいろいろあって大変なので、終わるとどっと疲れるんですけど、すごく“生きてる”って感じがするんですよね。だから少なくとも90歳まではがんばって生きて、私らしい絵本を描き続けながら、アジア絵本ライブラリーも続けていけたらいいなと思っています。


ページトップへ