絵本作家インタビュー

vol.83 絵本作家 深見春夫さん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『そらとぶパン』や『たのしいパンのくに』など、愉快なナンセンス絵本でおなじみの絵本作家・深見春夫さんです。おじさんの足がにょきにょきと伸びたり、子どもたちを乗せたパンが空を飛んだり…… 奇想天外なストーリーはどのようにして生まれたのでしょうか? ナンセンス絵本の魅力についてもお話しいただきました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・深見春夫さん

深見 春夫(ふかみ はるお)

1937年、東京都生まれ、福島県育ち。東北大学経済学部卒業後、10年間のサラリーマン生活を経て、イラストレーター、絵本作家に。主な作品に『あしにょきにょき』『せかいいちのぼうし』(岩崎書店)、『そらとぶパン』『たのしいパンのくに』『あるくおだんごくん』『ジグソーパズルのくに』(PHP研究所)、『へんてこマンション』『チョコレートのまち』(佼成出版社)、『のびるのびーる』(教育画劇)などがある。
深見春夫の部屋 http://fukamii.exblog.jp/

アイデアを積み上げて絵本をつくる

のびるのびーる

▲木の実が大きくなって、ゴンドラに! 不思議で愉快な旅のお話『のびるのびーる』(教育画劇)

絵本のストーリー全体がパッとひらめくってことは、若い頃はまれにありました。でも最近は年のせいか、そういうことはぱったりとなくなってしまってね(笑)

だから最近はいつも、積み上げ方式で絵本をつくっています。何か題材をひとつ選んだら、その上に何を乗っけようと考える。いろんなアイデアを積み上げていくことで、ひとつの絵本をつくりあげていくんです。

『のびるのびーる』は、最初に編集者から「木を題材に描いてほしい」というリクエストがあったんですね。木といえば枝だな、ということで、枝がどんどん伸びていくというアイデアを思いつきました。次に、そこに何をくっつけたらおもしろいだろうと考えて、木なら実がなるだろう、ということで、実をつけることにしたんです。

あとはもう、関連して思い浮かんでくるものをどんどんつなげて、ふくらませていくだけです。実をでっかくして、ゴンドラみたいに乗り込めるようにしたらどうだろう? 枝がどんどん伸びて、とんでもないところまで行ってしまったら?……という感じでね。ひらめきというよりは、わりと論理的に考えてつくっているんですよ。

ナンセンス絵本は、常識の枠を外してくれる

せかいいちのぼうし

▲今日は世界一の帽子を決める日。優勝はどの帽子でしょう?『せかいいちのぼうし』(岩崎書店)

以前、幼稚園の先生から「3歳児は天才だ」と聞いたことがあるんです。3歳児は常識に縛られていないから、発想がとても豊かなんですね。でも、4歳になると天才じゃなくなってくる。それは、ちょっとずつ常識が身についてくるからです。

人は大人になるにつれ、常識をしっかりと教育されて、頭がかたくなってしまいがちです。もちろん、常識を身につけるのも大切なことです。でも、それだけで頭がかたまってしまうと、その枠を越える豊かな発想というのは生まれませんよね。

そんな人におすすめなのが、ナンセンス絵本です。ナンセンス絵本をつくっている僕が言うとなんだか手前味噌かもしれませんが、ナンセンス絵本は、常識の枠を外して、思考の世界を広げる役割を持っていると思うんですよ。

ナンセンス絵本は文字通り、何の意味もないし、教育的な要素も、込められたメッセージもありません。突拍子もないバカ話ですから、常識なんて通用しない、非常に根源的な発想で描かれているんです。絵本を読み聞かせするお母さんやお父さん方にも、できるだけ頭をやわらかくして、子どもと一緒にナンセンス絵本を楽しんでほしいですね。

つくり手としては、できることなら3歳児のような発想で絵本をつくりたいと思っています。どうしたって、知らず知らずのうちに大人の意識が入ってしまうので、ピカソみたいな天才じゃない限り不可能なことなんですけどね。それでも、できるだけ常識の枠を取っ払って、子どもみたいな自由な発想でおもしろい絵本をつくっていきたいと思っています。

生きている限りは、絵本を描き続けていきたい

絵本作家・深見春夫さん

親が子どもに読んであげたい絵本と、子どもが読みたい絵本というのは、一致しないことがよくありますよね。

僕も息子が小さかった頃は、よく絵本の読み聞かせをしていたんですが、世間的に評価の高い絵本を見せても、それには全然興味を示さない。なのに、この絵本のどこがいいの?って思うような絵本を、何度も何度も「読んで」とせがむ、というようなことがありました。きっと彼は彼なりに、非常に深い受けとめ方をしていたんだろうと思います。

絵本の受けとめ方は人それぞれで、大人と子どもというだけでなく、一人ひとり違うと思うんですよ。だから、万人に愛される絵本をつくるというのはすごく難しい。僕としては、ごく少数でも深く受けとめてくれる読者がいれば、作家冥利につきるなと思っています。

子育てについては、大変なこともいろいろあるとは思いますが、何よりひたすら子どもを愛すること、これが一番ですね。そうすればきっと、どんな子でも真っ直ぐ育つだろうし、たとえ曲がってしまっても、愛されたという記憶がベースにあれば、立ち直ることができるんじゃないかと思います。

1980年に絵本作家としてデビューして、もう30年以上になりました。30年も絵本作家を続けていると、僕の絵本を子どもの頃に読んだという人がお母さんになって、今度は子どもと一緒に読んでくれたりするんです。これはすごくうれしいことですね。これからも生きている限りは、絵本を描き続けていきたいと思っています。


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