絵本作家インタビュー

vol.82 絵本作家 藤本ともひこさん(後編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『いただきバス』などでおなじみの絵本作家・藤本ともひこさんです。作詞家や保育遊び作家としても活躍する藤本さん。子どもたちをあっという間に笑顔にさせてしまう絵本は、どのようにして生まれたのでしょうか? 保育園の子どもたちとの触れ合いを大切にしている藤本さんならではの絵本づくりに迫ります!
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら

絵本作家・藤本ともひこさん

藤本 ともひこ(ふじもと ともひこ)

1961年、東京都生まれ。1991年、『こうへいみませんでしたか』で第13回講談社絵本新人賞を受賞、同作の単行本化で絵本作家としてデビュー。作詞家、保育遊びの作者としても書籍や保育系雑誌への執筆も多数。全国各地での講演・研修活動も行い、幅広く活躍している。主な絵本に『いただきバス』『いもほりバス』(鈴木出版)、『しーらんぺったん』『すっぽんぽん』(文・中川ひろたか、世界文化社)などがある。

絵本も歌も遊びも、子どもの論理でつくりたい

しーらんぺったん すっぽんぽん

中川ひろたかさん とのコンビでつくった歌が絵本に! 『しーらんぺったん』『すっぽんぽん』(世界文化社)

絵本や保育遊びの仕事をしつつ、1993年からは、子どものための歌もつくり始めました。中川ひろたかさん から、「絵本を描けるんだから、詞も書けるよな?」って言われて(笑) 目指しているのは、子どもが自然に口ずさめる歌。変な歌や歌謡曲みたいのも含めて、もう250曲ぐらいつくったんじゃないかな。今も続々とつくっているので、まだまだ出ます。

そうやってつくった歌を、絵本にするっていう試みもやっています。『しーらんぺったん』や『すっぽんぽん』がそれです。もとの歌は、作詞がぼく、作曲が中川さん。絵本は文が中川さん、絵がぼく。歌詞をもとに中川さんが絵本の文をアレンジして書いて、それにぼくが絵をつけたんです。ぼくが詞を渡して歌になって、今度は中川さんの文が戻ってきて、ぼくが絵を描いて、絵本になる。なんだか不思議ですよね。

絵本でも歌でも遊びでも、子どもの論理でつくりたいとぼくは思っているんです。つくり手としては大人なんだけれど、気持ちの上では子どもでいたい。だから保育園で子どもたちと絵本を読むときは、みんなの代表みたいな気持ちで一緒に楽しみます。ぼくが一番字が読めるから読むんだけど。外で遊ぶときだって、子どもたちと同レベルで思いっきり楽しむ。ぼくはみんなより足が速いし、知恵も回るから、こんな遊びしてみる?なんて提案することもあるんだけど。子どもの論理で向き合っていれば、みんなもノッてくるんです。

ただ絵本の場合、買うのは子どもじゃなくて大人だから、大人にもわかるようにしておかないといけないなってことは、ちょっと意識しています。でも本当は、子どもも大人も、みんながおもしろい方がいいですね。しかも、「これはいいものだから読みなさい」というより「これ、おもしろいから読んでみれば?」の方がいい。この2つは似ているようでいて、違うじゃないですか。ぼくとしては、「これおもしろいよ」って一緒に楽しめるようなものを、これからもつくっていきたいですね。

現実から離れて違う世界に行ける それが絵本の魅力

絵本作家・藤本ともひこさん

絵本の魅力は、現実から離れて違う世界に行けるところ。文章だけだと入り込みにくいかもしれないけれど、絵本なら絵が大きな手がかりになるから、小さな子でもすっと入っていけるじゃないですか。部屋の中にいながらにして、いろんなところに行って、いろんなことが起きて、知らなかったさまざまなことが見えてくる。ほかの誰かの人生を体験することができる。これってすばらしいことです。子どもが成長していく上で、欠かせない体験だと思います。

絵本をつくるときに心がけているのは、その世界に行きっぱなしにしないこと。幼児向けの絵本の場合、行ったら帰ってくるという安心感はほしい。『かいじゅうたちのいるところ』(冨山房)だって、マックスはちゃんと帰ってくるでしょ? 家に帰るってことだけじゃなくて、何かしらちゃんと着地点があって、そうだよなって納得できるところで終わる ―― 子どもの絵本は、そうあるべきなんじゃないかなと思うんです。

ナンセンス絵本の場合、ちゃんとした着地点があるっていうのは、ある意味だめなのかもしれません。でも、あの『ゴムあたまポンたろう』(童心社)だって、ゴムの木に帰ってきてすやすや眠ることで、子ども的にはものすごくほっとできるんだから、ナンセンスなりに戻ってくるところはあるべきなんじゃないかなと思うんです。

どういう着地点にするかは、絵本作家としての工夫のしどころ。ぶっ飛んでるのにちゃんと帰ってくるナンセンス絵本 ―― そんなのができたらいいなと思っています。

読み聞かせのコツは、ただ素直に楽しむこと

どろんこたんけんたい

▲読んでもらってうれしい、やってみて楽しい! 遊びの楽しさを発見できる絵本『どろんこたんけんたい』(あかね書房)

絵本って、一冊一冊違うじゃないですか。同じ絵本はありません。その中で、自分が好きな絵本を子どもと一緒に素直に楽しめば、それが一番だと思うんです。

『いただきバス』や『いもほりバス』を読むと、子どもたちは自然と遊びたくなっちゃうと思うんです。そういう絵本ですからね。だから、読んであげるお母さんもお母さんなりに、こちょこちょくすぐったり、ぴょんぴょん跳ねたりすればいいんです。お父さんだって、たとえお母さんから「悪ふざけのしすぎ!」「それじゃ子どもが寝ないじゃない!」って怒られようと、遊んじゃった方が楽しいと思うなら、そうするべきだと。

でも世の中には、そういう風にして読んでは困る絵本もあります。たとえば、赤羽末吉さんの描いた『スーホの白い馬』(福音館書店)。これは決して、わいわいがちゃがちゃと読む絵本ではありません。むしろ淡々と静かに、物語をきちんと伝えるつもりで読んであげたい。なぜなら、そういう絵本だからです。

だから読み手は、絵本に忠実に、その絵本のいわんとしているところをそのまま受けとって、それを子どもと一緒に素直に楽しめばいいんです。答えは絵本の中にある。絵本そのものをきちんと読めば、わかるはずです。

最後に、子育て中のみなさんにはぜひ、家族の蜜月を存分に楽しんでほしいですね。家族の蜜月って結構短いんですよ。子どもの成長とともに年々手からこぼれいって、あっという間に終わっちゃう。せいぜい5年、10年ぐらいのものなので、味わわないともったいないと思うんです。子どもがあんなかわいい時代、あのときしかないんです。

たとえ自分の時間を削ったとしても、できる限り子どもにつきあって、向き合うべき。子どもとのひとときは、それだけの価値があります。そんなときに絵本は最適な存在です。絵本をうまく活用して、親子の幸せな時間を満喫してほしいですね。


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