絵本作家インタビュー

vol.82 絵本作家 藤本ともひこさん(前編)

絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『いただきバス』などでおなじみの絵本作家・藤本ともひこさんです。作詞家や保育遊び作家としても活躍する藤本さん。子どもたちをあっという間に笑顔にさせてしまう絵本は、どのようにして生まれたのでしょうか? 保育園の子どもたちとの触れ合いを大切にしている藤本さんならではの絵本づくりに迫ります!
今回は【前編】をお届けします。(【後編】はこちら→

絵本作家・藤本ともひこさん

藤本 ともひこ(ふじもと ともひこ)

1961年、東京都生まれ。1991年、『こうへいみませんでしたか』で第13回講談社絵本新人賞を受賞、同作の単行本化で絵本作家としてデビュー。作詞家、保育遊びの作者としても書籍や保育系雑誌への執筆も多数。全国各地での講演・研修活動も行い、幅広く活躍している。主な絵本に『いただきバス』『いもほりバス』(鈴木出版)、『しーらんぺったん』『すっぽんぽん』(文・中川ひろたか、世界文化社)などがある。

大学時代、バイト先の図書館で絵本と出会う

絵本作家・藤本ともひこさん

ぼくは子どもの頃、漫画が大好きだったんです。マガジン、ジャンプ、チャンピオン、サンデーなどの少年漫画誌を軒並み読んで、単行本も揃えてっていう、すごい漫画少年でした。漫画を真似して描くのが楽しくて、いつも描いてましたね。

絵本との出会いは、大学時代。図書館でバイトをしていて、棚卸しのとき、児童書のコーナーを任せられたんです。昼休み、暇つぶしに絵本を片っ端から読んでみようと思って、「あ」から順に読みまくりました。五味太郎さん、長新太さん、長谷川集平さん、村上康成さん…… 70年代に生まれたすばらしい創作絵本とたくさん出会ううちに、絵本っておもしろい!と思うようになって。漫画とはまた違って、短い中で完結させる手際の良さがすごいなと思ったんです。

そして、子どもにかかわる仕事として教員を志望していましたが、紆余曲折と出会いに恵まれて、大学の教育学科を卒業後、教育委員会の社会教育主事になりました。教育委員会でも、少しは子どもの仕事にかかわれるかなと思ったんです。

転機が訪れたのは、29歳のとき。このまま同じことの繰り返しでいいのかなって、なんとなく悶々としていたんですよ。でも、29歳になって、30代をどう過ごそうかと考えたとき、それなら大学時代に興味をもった絵本をつくってみようと思い立ったんです。

雑誌などで絵本の賞の情報を集めて、5つの賞に同時期に応募しました。そうしたら初めて送った絵本が佳作になって、翌年には新人賞を受賞することができたんです。第13回講談社絵本新人賞を受賞した『こうへいみませんでしたか』が、絵本作家としてのデビュー作です。それからしばらくは、仕事も続けながら、土日だけ描く休日作家として活動していました。

一緒に絵本を楽しむ中で 子どもから教わったこと

となりのオジー

▲ちょっと変わったおじいさんと子どもたちの交流を生き生きと描く『となりのオジー』(鈴木出版)

教育委員会の仕事を辞めたのは2000年、39歳のときです。ぼくはいつも9のつく歳になると、次の10年を考えちゃうんですね(笑) 知り合いから、臨時講師として保育園で遊びや造形を教えないかと声をかけてもらって、保育園に通うようになりました。今も、2つの保育園に週1回ほど通っています。

いつも朝9時半に保育園に着くんですけど、そこから毎回15分ほど、絵本を読む時間にしています。読むのはぼくの絵本ではなくて、ほかの作家さんの絵本。日本のものや外国のものなど、うちの本棚にある自分の趣味の絵本を持ってきて、1冊読むんです。そうすると、子どもたちの反応というのは、だいたい3つのパターンに分かれるんですよ。

1つ目は、読み終わったとたん「もう1回!」。普通の反応ですけど、これはおもしろかった、気持ちよかったってことですね。2つ目は、「はやっ!」。これは、もう終わり? ちょっと物足りない、というパターンです。そこから「もう1回!」につながることもあります。3つ目は、「次は?」。これは残念なケースです(苦笑) ほかのないの?ってことですから。ぼくは、たいてい自分が読みたいものを持ってきているのですが、ぼくがどんなにおもしろいと思っていても、子どもとは違うってこともあるのです。

こんな読み聞かせを年間100回近くやるわけです。「そうか、これはだめなんだ」「え? これがいいの?」「へぇ、これがいいんだ」なんて思いながら続けるうちに、子どもたちがどんな絵本を喜ぶかというのが、理論ではなく感覚としてわかるようになってきたんです。子どもが喜ぶ絵本のつくり手としては、子どもたちからは本当にいろんなことを教わったなと思っています。

自然と体が動き出す!『いただきバス』『いもほりバス』

いただきバス いもほりバス

▲楽しい展開に子どもたちも大喜び! 藤本ともひこさんの人気作『いただきバス』『いもほりバス』(いずれも鈴木出版)

ある時期から世の中は、絵本は読み聞かせるもの、みたいな流れになってきました。みんなが絵本を子どもに読んであげる気持ちになったという意味では、とても歓迎すべきことです。でも保育園に行ってみると、保育士が読み聞かせしていることもあれば、子どもが一人で読んでいることもあったんです。それは、家庭でも同じです。そこでぼくは、読み聞かせしてもらっても楽しくて、一人で読んでも楽しい絵本をつくりたいと思うようになりました。

そんな思いでつくった最初の絵本が、『いただきバス』と『いもほりバス』です。どちらも、自分で読んでもおもしろいし、みんなで見ても遊べる絵本になりました。

「こちょこちょ こちょこちょ」と場面になると、子どもたちはこちょこちょを始めるんですよ。「おしりがぴょんぴょんはねています」と読めば、みんな勝手にぴょんぴょん跳ねはじめる。こういう風に遊んでね、と教えたりしなくても、勝手に遊びが始まっちゃうっていうのが、理想的です。

この「バス」のシリーズはどれも、バカバカしくて、SFチックで、スケールがやたら大きかったりするんですけど、スケールの大きさについては、長新太さんの作品を意識しているところがあります。

長さんの絵本のスケールの大きさは、本当にすごかった。おこがましいかもしれないけど、あれだけの奔放なスピリットは、次の世代のぼくたちが受け継いでいくべきだと思うんです。ぼく以外にも少しずつ受け継いでいる人たちも出てきていますけど、まだ足らない気がします。もっと激しくやっちゃえ!って思います。


……藤本ともひこさんのインタビューは後編へとまだまだ続きます。(【後編】はこちら→


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