絵本作家さんや絵本の専門家の方々に、絵本についての思いやこだわりを語っていただく「ミーテカフェインタビュー」。今回ご登場いただくのは、『はやくちこぶた』などの絵本でおなじみの絵本作家・早川純子さんです。ユニークな発想とダイナミックな絵、繊細な版画など、多彩な表現で絵本をつくられている早川さんに、子ども時代に夢中になった絵本についてや、4年の歳月をかけて完成した『スマントリとスコスロノ』の制作エピソードなどを伺いました。
今回は【後編】をお届けします。(←【前編】はこちら)
1970年、東京都生まれ。多摩美術大学大学院修了。版画家、絵本作家。主な絵本に『しんじなくてもいいけれど』(文・内田麟太郎、ビリケン出版)、『まよなかさん』(ゴブリン書房)、『はやくちこぶた』(瑞雲舎)、『どんぐりロケット』(ほるぷ出版)、『あずきまる』(農文協)、『さんまいのおふだ』(文・千葉幹夫、小学館)、『とけいのくにのじゅうじゅうタイム』(文・垣内磯子、あかね書房)などがある。
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▲オオカミと3匹のこぶたが早口言葉で追いかけっこ! 早口言葉で展開する楽しい絵本『はやくちこぶた』(瑞雲舎)
絵本づくりには、完成までにいくつもの“山”があります。
自作絵本の場合は、自分の中にもやもやと出てきた「こんな絵本をつくりたいなぁ」という思いを具体的にイメージする必要があるし、ほかの方の文章に絵を描く場合でも、渡された文章を読んで、そこに描かれる世界をどんな風に描くか、想像する必要があります。それが最初の山です。
その山を越えたら今度は、全体的な構成や、どこに絵と文章を入れるかなどを考えて、ラフをつくっていきます。これが二つめの山。ラフでOKが出ていざ描く段階となっても、真っ白な紙を見てなんだか逃避したくなってしまったり…… 山がくるたび、つまずいちゃうんですよ(苦笑) 半分ぐらいまで描き進めると、ようやく楽しくなってきます。先が見えてくると、これなら最後まで描けそうって思えて、しんどさが半減するのかもしれません。
そんな感じなので、私にとって絵本づくりは、面倒くさくもあり、楽しくもある作業です。やる気はもちろんあるんですけど、それを継続させて制作に取り組み続けるのは、結構大変なんです。きちんと納得できないと進められないタイプなので、気になるところがあると、描けなくなっちゃうんですよね。
たとえば『はやくちこぶた』のときは、早口言葉だけでお話が進む絵本をつくってほしい、と編集者さんから依頼をいただいたんですね。でも、そもそも早口言葉自体がすでに楽しいので、それを絵本にしたってなぁって思いがまずあって……。そのせいで編集者さんをかなり待たせてしまったんですが、その間に少しずつアイデアがまとまってきて、最終的には自分でも納得のいく形で絵本を完成させることができました。
▲時計の中から数字が飛び出した!?『とけいのくにのじゅうじゅうタイム』(あかね書房)。文は垣内磯子さん。見返しも要チェックです!
絵本の楽しいところは、いろんな遊びの要素がいくつも散りばめられているところ。私自身、子どもの頃から絵本のそういう部分を楽しんできたので、絵本をつくるときは、何かしらクスッと笑える要素も描き加えるようにしています。子どもは大人以上に絵をよく見ていますからね。
見返し(※)も、絵本の魅力のひとつです。お話にかかわるアイテムとか地図とかが描かれていたりして、楽しいんですよね。子どもの頃からすごく好きで、必ずチェックしていました。
※表紙を開いてすぐと、裏表紙を開いてすぐのところにある、本の中身と表紙をつなぎ合わせている見開き部分のこと
見返しの制作は、本文や表紙の絵が終わってひと息ついた頃に描くことが多いんですね。なので、わりと落ち着いた気持ちで、全体を振り返りながら描くことができます。何も描かないのもすっきりしていていいと思うんですけど、本文とはまた違った形でメッセージが伝えられる場所でもあるので、もったいないゴコロがはたらいて、ついつい凝ってしまうんですよね(笑)
『とけいのくにのじゅうじゅうタイム』は、見返しがとてもかわいくできたので、自分でも気に入っています。時計の中から数字たちが飛び出してくるというお話なんですけど、途中で「2」が白鳥になったり、「8」が雪だるまになったりと、数字たちが変身するんですね。それで見返しでは、変身前と変身後の数字たちの姿を描きました。
実は、作者の垣内磯子さんの文章の中には、すべての数字の変身後の姿が書かれているわけではないんです。それで垣内さんに、決まっていない数字はどうしましょうと伺ったら、「純子ちゃんにまかせるわ~」って言われてしまって(笑) 小さな子にもわかりやすくて、納得できる変身にしないといけないと思って、編集者さんといろいろと考えて形を決めていきました。変身前と変身後の違い、見比べて楽しんでもらえたらいいなと思います。
▲コーヒー好きの人にも、そうでない人にもおすすめの、夜中のコーヒー屋さんのお話『まよなかさん』(ゴブリン書房)
絵本はまず文と絵があって、編集者さんやデザイナーさん、印刷屋さん、製本屋さんらの手を経て、本の形として完成しますよね。だから私としては、本として完成したときに最高の状態になるように、つくっていけたらなと思うんです。
絵描きなので、もちろん絵を見てほしいっていう気持ちもあります。できれば原画も見てもらいたいと思っています。ただ絵本としては、やっぱり本屋さんで売られている状態のものが完成形。なので、原画だけの状態よりも、絵本の形になってからの方がよりよく見えるように、制作しているつもりです。
絵本を選ぶ上では、作家の名前とかは別に気にしなくていいと思っています。私も小さい頃は特に気にしていなかったし…… 名前を知らなくても、「あ、この絵は、前に読んだあの絵本と同じ人の絵だ!」みたいな感じで、気づくこともありますよね。いろんな絵本を見ているうちに、私の絵本を手にとってそんな風に気づいてもらえたら、うれしいですね。
今後はしばらく作・絵ではなくて、お話に絵を描く仕事が続いています。今は食べ物の詩の絵本を描いていて、その後は、京都が舞台のお話の絵を描くことになっています。版画を中心とした個展や、『スマントリとスコスロノ』の原画展も予定しているので、よかったら見にきてくださいね。これからも、版画作品を制作しつつ、絵本の仕事も続けていきたいなと思っています。